プレ・文化祭 5
バブル・フィールド――
名前に意味はない、むしろバルーンと言うべきだ。もちろん、ゴム風船のような浮力もある、ある程度集まれば浮力を得て、触れた人々は浮遊気分を味わえるのだ。
レックの生み出した風船たちは、たちまち大空へと逃走を始めた。
レックは、空を見上げた。
「ちきしょう、日本人めっ」
レックの身代わりとなって、トリモチシリーズを食らった結果である。たくさんくっついて、浮力を得るほどにくっついて、大空へと旅立っていったのだ。
拘束魔法は、トリモチ系統らしい。
トリモチ――というネーミングは、日本人に決まっている。前世が教えてくれる、はるかな昔、実際にご家庭で使われていたのだと。昭和の転生者に決定だ。タイムラグがあるために、あるいは最近の転生者かもしれないが………
「やるわね、勇者(笑)さま」
「でも、私達だって」
「まだまだこれから」
「はぁ、はぁ、ミニスカ男子、ミニスカ男子――」
「16歳、16歳、16歳、16歳――」
トリモチシリーズが、改めて放たれた。
魔法学校の生徒さんと言う姉さん達は、一部はレックよりも年下が混じっていようと、バカにできない魔法の才能を手にしている。ステッキにハンマーにナックルに、色々なマジック・アイテムを手に、レックめがけて魔法を放ってきた。
レックは、改めて魔法を放った。
「私だって………バブル・フィールドっ」
レックの気分は、ヒーローショーだ。
むしろ、変身ヒロインである。変身できないのが残念だが、くらげさんステッキを振り回す女子高校生という16歳男子は、回転していた。
まだまだミニスカートが似合う太ももを見せびらかし、大量の風船が生み出されて、敵の攻撃から自らを守っていた。
握りこぶしからスイカサイズ、更に運動会の大玉ころがしサイズまでと言う直系2メートルの巨大な風船まで、生み出された。
バルーンと言うゴム風船の大量発生には、だいぶ慣れてきたようだ。いっそ、風船たちにつかまって上空へと脱出、校舎の屋上へと逃げ出そうかと考え始めた。
少し、遅かったようだ。
「なっ――」
足に、手錠ががっしりと絡まっていた。
某・怪盗の3代目が、レックと重なったようだ。いつもトレンチコートで追いかけてくる、某・とっつぁんの愛用する手錠であった。
日本人がもたらした知識に違いない、しっかりとロープまでセットと言う、お約束を外していない。
自称・女子高生が現れた。
「ふふふ、二人の絆は、やっぱり赤い糸よね――」
「一本と限りませんのよ、運命ですもの――」
29歳と34歳の女子高生が、なにかのたまっていた。
34歳など、きゃるるん――と、ほざいていた。自分を14歳の中学生アイドルと勘違いしているのだろうか、背丈だけは中学生に混じっても不思議はないが………
レックは、もちろん沈黙を守った。
無理があります――
そんなセリフを口にすれば、命に関わる。女子同士の暴露であれば口ゲンカで済むが、男子が口にしてはならないのだ。
メイドさんが、降り立った。
「前世の知識を披露しましょう――」
雷の力で、ばちばち――と輝きながら、優雅に降り立った。
空を自由に飛ぶ人間の理想の姿といえる、力場を生み出して、高速飛行も出来るのだ。
びしっと、右手を突き出した。
「そこの女子高生、BCGのあとを見せてみろっ――」
決め台詞がごとく、言い放った。
言われた相手は、固まった。
レックも、固まった。言葉が意味することを、理解できなかったためだ。
前世が、レックの脳内で立ち上がった。
年齢詐称を見抜く、魔法の言葉だったらしい。思い出すまでに時間を要したが、さすがは前世の知識は膨大だった。情報源は、懐かしのアニメに漫画と、膨大だ。
干支も聞いてやれ――と、指をまっすぐと刺して、なにかを気取っていた。
もちろん、レックの脳内ではなにを叫んでも、リアルに影響はしない。とっさに、レックが口に出さないように、注意をすればよいのだ。
お姉さん達の対決を、見守っていた。
「ドロシー、あんたもヤバイ年齢でしょうが。気付けば30代が目の前なんだよっ」
「ドロシーお姉さま、私たちは本気なんですぅ」
BCGという単語が理解できなくとも、なにかを感じ取ったようだ。年齢詐称の女子高校生たちは、ドロシー先生に向けて反撃だ。
「なお悪いです。そろそろ休憩時間が終わりなので、回収していきます――」
ドロシー先生はレックを捕まえ、上空へと浮かび上がっていた。
足元では姉さん達が何かを言い放っているが、ドロシー先生の雷バリアに阻まれて、もはや届かない。
ついでに、レックを捕まえていた赤い糸?も切断されていた、レックが気づかないうちに、雷のフィールドによって切断されたようだ。
そのまま、屋上へと到着した。
メイドさんは優雅に、レックはバランスを崩して、尻餅をついてしまった。いつものことである、レックは小物モードで腰を低くして、感謝の言葉を述べた。
「へへ、すいやせん、どうも………」
下っ端パワーも、出張ってきた。
調子に乗ってぺらぺらとしゃべらないことも、もちろんわきまえている。雰囲気がおかしいという気付きの早さも、大切だ。
レックは、恐る恐るとメイドさんを見上げた。
「ところで、勇者(笑)よ、花の命は永遠なのだ――わかるな?」
ドロシー先生は、どこかを見ていた。
20代も半ばである。その印象は、数年の誤差を含んでいる。おおよそと言うことで、24歳であるのか26歳であるのか、レックは失礼を口にしたことはない。
そして、これ以上の考察は危険である。
心を読まれる、危険である。
「分かるな………花の命は――」
「へい、永遠でやんす、美しいドロシーお嬢様っ」
レックは、敬礼していた。
手錠がぶら下がっている手で、敬礼していた。




