プレ・文化祭 4
異世界ハーレム系主人公――
それは、ファンタジーであると、レックの前世は語った。
それは、恐怖であると、レックは実体験として語る。
女子の集団に追いかけられて、大変なんですよ――
そのような異世界ハーレム系主人公と言う物語は、あくまでファンタジーなのだと、レックは実体験したのだ。
レックは、おびえていた。
「た、助けてください、見逃してください――」
壁どん――という記憶に、おびえていた。
女子の集団に壁際まで追い詰められ、壁どん――という衝撃波によって、壁がドゴン――と、消失したのだ。
瓦礫の山と、消えるのだ。
「レック、どうしたの?」
「敵かにゃ~?」
レックのおびえに、エルフちゃんたちは、周囲を見渡す。
すぐに、気づいた。
「あぁ~………」
「にゃ~………
金と銀のエルフちゃんたちも、気付いた。
ドドドドド――と、モンスターの群れが接近するがごとく、女子の軍団が接近してくるのだ。
婿をよこせ――
ぎらついた瞳が、レックを捉えた。
エルフたちの視力は、人間と比べれば失礼だ。その気になれば、どれほど遠くまで見渡せるか、分からない。
レックとおそろいのツインテールに、久々のプレ・学園祭と言う光景を楽しんでいたお子様達は、悟った。
「狩猟か………」
「にゃ~――」
知っている光景のようだ。
人間達の命は短い、そのため、獲物を捕らえるために必死になるということを、良くご存知のようだ。
「人間にとっては、大切なことだからね………うんうん、わかってるよ」
「分からないけど、分かったにゃ~」
「オレ、絶対に実家に帰らない。」
「そっか、見合いか」
「あら、あと50年くらいは大丈夫でしょ?」
「そうは言うてもな、親父さんがアレやから………」
事情が色々ある皆様のようだ。
ケンタウロスのハナコさんなどは、親父様が、そろそろ結婚を――と、娘さんに迫るお家柄らしい。
種族や部族で違いがあれど、そういうものと割り切るのが、長く付き合う秘訣である。部族どころか、種族すら異なるのだ、考えるだけ、無駄なのだ。
レックなど、世界すら異なる前世をもつのだ。
つまり――
「ちょっ――」
レックは、差し出された。
声が聞こえるまでに、近づいてきた。
「ひゃっは~、勇者(笑)がいたぜぇ~いっ」
「今度は逃がしませんわ~、早く実家の両親に――」
「へへへ、ハーレムがお約束なんだろ、なぁ~に、天井のシミを――」
「16歳、16歳、16歳――」
「年下の彼氏、年下の彼氏、年下の彼氏――」
もう、すぐそこだ。
貴族令嬢も混じっている、レックの財産を目当てにしているのか、年下の彼氏と言う称号を欲しているのか、そもそも、彼氏と言うアイテムをゲットしたいのか、その理由はレックには関係ない。
獲物なのだ
「待ってたわよ~、勇者(笑)ちゃぁ~ん」
「あぁ~ん、私の勇者(笑)さまぁ~んっ」
29歳と34歳が、混じっていた。
セーラー服で、混じっていた。
ハーレムと言うことも、言えなくはない。
だが、獲物を求めるケダモノの群れに、無慈悲に差し出されたのだ。レックの運命は、ハンターたちに捕らえられた獲物のごとく、悲惨であろう。
レックは、ジャンプした。
「あばよっ――」
某・怪盗の3代目の捨て台詞を残して、ジャンプをした。
追いかけられるキャラクターのセリフとして、前世が教えてくれたのだ。
コハル姉さんたちを背後にして、女子の集団を背中に脱出、せめて、勇者(笑)教室までたどり着ければ、あきらめてくれる。レックがフリーという時間であるため、追いかけっこがスタートなのだ。
教室にたどり着けば、授業があるので――という絶対のバリアが発生する。
学生であるための、強みだと――
「捕まえて、チェーン・バインド」
「届いて・ロープ・バインド」
「行くわよ、トリモチ・ボールっ」
「こっちも、トリモチ・ショットっ」
「私だって、トリモチ・アローっ」
甘かったようだ、拘束系統の魔法が、乱射された。
素手で捕らえられるより、ましかな~――と、レックは少し思った。
両手で抱きしめて、へし折る勢いのお嬢様たちなのだ。握力は200kgを超えていてもおかしくない。
ゴリ――ではない、魔力が暴走し、力加減がおかしくなっている壁ドン――の姉さん達だ。
アーマー・5の姉さん達は、見学だ。
「おぉ~、トリモチシリーズ」
「昔の勇者(笑)が生み出した魔法だにゃ~」
解説をしていた。
この様子では、どこかで撮影がされていてもおかしくない。あるいは、生中継が始まってもおかしくない、本日はプレ・文化祭なのだ。
上空では各種催し物の予告編が、演劇部のダイジェスト版が、歌姫の紹介シーンが立体映像されている。風船が空を飛び、魔法少女達がアピールのために飛び回り、UFOらしき物体も飛んでいる。
勇者(笑)の活躍が混じっても、不思議はない。
「入学式ぶりだな~、がんばれ~」
「そうだな、応援してやるか」
「フラッグする?」
「ゴールは教室?」
アーマー・5の姉さん達は、すでに観戦モードだ
さすがである、巻き添えを恐れたというより、遠慮なく“狩り”を楽しんでもらえるようにとの、気使いである。
レックは、ステッキを取り出した。
「負けないっ、バブル・ふぃいいるどっ」
魔女っ子気分で、反撃だ。




