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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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プレ・文化祭 3


 まるでプールだと、レックは思った。


 拳サイズから頭サイズ、果ては胴体サイズまでと、大小さまざまな風船が跳ね回り、お子様達も跳ね回っていた。

 風船が、教室から溢れていた。


「へへへ………やっちまったぜ」


 金色のロングヘアーをなびかせて、レックは現実を忘れた。

 プレ・文化祭の出し物は、悩む必要がなく、レックの新たなる魔法『バブル・フィールド』という風船空間が答えだった。

 予想外に人気が出て、拡大の指示が出たほどだ。


 ちょっと、やりすぎたようだ。


 前世は、とても嬉しそうだ。これが『やっちゃいましたか』――と言うヤツだ、転生主人公なら、やっちゃうものだと、満足そうに腕を組んでいた。

 レックは、頭の中の前世と交代してほしい気分だった。騒動を何とかするのは、勇者(笑)の役割なのだ。


 お子様達は、嬉しそうだ。


「レック~、ほらほら~、飛んでるよ」

「ほれっ、パス」

「なんのっ」

「ふん、お子様ね」

「そうですわ、動物さん風船がありませんわ」


 レックはルイミーちゃんに手を振って、微笑んだ。

 遊びたいお年頃である。そして、珍しい遊びがあれば、大人ぶってもお子様に戻ってしまうのだ。風船の大群の上で泳いだり、小さな風船を飛ばしあったりして、はしゃいでいた。

 動物さん風船だけは、レックの技術では生み出せない。将来的に可能性がゼロではないが、今は許してほしかった。


 廊下にまであふれた風船から、どこまでも広がる風船の世界から、逃げ出したいのだ。

 レックを中心として生み出されたバブル・フィールドは、泡と消える水風船ではなくゴム風船である。

 いや、バルーンというべきだが、名前はその場のノリで決定する。大して意味があるわけではない。


 とっさに頭に浮かんだ名前を、叫んだだけだ。

 強度がとっても高くなっただけで、水で生み出された泡に違いはない。魔法なのだ、理屈は関係ないのだ。細かいことはいいんだよ――と、見つめていた。


 エルフちゃんたちも、満足そうだ。


「なになに~、小さいけど浮かぶ?」

「とんでるにゃ~、ボクたち、とんでるにゃ~」


 見た目12歳のエルフちゃんたちが、満足そうだ。

 本人達も飛行能力を有するエルフであるが、辞書の意味のイタズラな妖精と言うエルフらしい姿で、背中に羽をはやして、草花の間を飛び回るフェアリーのように飛び回ることも出来るエルフちゃんたちであるが、喜んでおいでだ。


「おお~………ホバーっぽい?」

「いったいどうなってんだ、勇者(笑)の魔法」

「風船で空を飛ぶって、風船で空を飛ぶって………」

「ええやん、楽しいんやから」


 アーマー・5(ふぁいぶ)の姉さん達も、プールでぷかぷか浮かぶように、腰まである風船に揺られて、楽しんでおいでだ。


 廊下の果てまで果てしなく、風船に覆われていた。

 許可をされた範囲を超えて、もはや混沌だった。ある程度は操れても、ある程度なのだ。生み出された風船が逃げ出し、大変だった。

 せめて、料金箱の位置を変えねばならないと焦ったレックだが、もはや、無料でもいいのかな~――と思いつつ、そもそも、料金箱を探すことすら不可能と言う風船の世界が生み出されていた。


 ドロシー先生が、レックを見ていた。


「やっちまったな、勇者(笑)よ」


 メイドさんのポーカーフェイスからは、相変わらず感情は読み取れない。だが、やりすぎたことへの怒りは読み取れないので、助かったと結論したい。

 怒られると心配していたレックだが、勇者(笑)であれば、この程度は日常だと、そう思うことにした。


 10分後――


「はぁ~、面白かった」

「童心に帰った気分だにゃ~」


 エルフちゃんたちは、ニコニコしていた。

 溢れそうだった風船は、ついでにエルフの魔法で制御されて、解決された。遊びつつ、力場を瞬時に調整してくれていた。さすがはエルフであると、レックは腰を低くして、いつもの下っ端モードを全開だ。


「へへへ、コハル姉さん、お手伝いさせちゃってすいやせん」


 小物モードも、常時展開だ。

 下っ端モードと小物モードがタッグを組んで生き延びる、それがレックという冒険者である。長いものに巻かれ、強いものに従ってこそ、底辺冒険者であると、孤高の冒険者の少年レックは、ニコニコしていた。

 感謝の笑顔は、本心だった。

 一般のお客達は気にも留めていない、ルイミーちゃんたちお子様軍団は、無邪気に風船を飛ばしあい、広くなった空間を生かして水泳教室まで始めていた。保護者のカルミー姉さんと言うパート教師もいらっしゃるので、安心だ。


 すると、肩に手を置かれた。


「ここはいいから、行ってきなさい」


 ドロシー先生だった。

 メイド服に、中二と言う左手の包帯がトレードマークのお姉さんが、なぜかサムズアップをしていた。

 ただの気安い挨拶だと、信じたかったレックである。


 休憩時間のようだ。


「皆様、うちの生徒をお願いします」


 お願いされた姉さん達は、元気いっぱいにお返事をした。

 もちろん、レックの返事は必要ない。さっさと出かけようと、その前にヘアスタイルの調整に入るのが、いつものレックである。


 そして、連行された。


「レック、案内してあげるね。たった2ヶ月だと、裏ルートとか秘密の入り口とか道具置き場とか封印の広間とか――」

「姉さん、フラグしないで下せぇ、おれっちは、ただの学生で――」

「勇者(笑)なのに、それはないにゃ~」


 両サイドにエルフちゃんをはべらせ、レックはいつもとは違う魔法学校を歩いていた。

 コハル姉さんと言うエルフちゃんがフラグを生み出し、レックが必死に抑えようとして、即座にラウネーラちゃんがツッコミを入れた。

 いや、ツッコミと言う名前の、フラグであった。


 耳を済ませるまでもない、爆発が各地で上がった。


 魔法学校は、魔法を教える学校である。

 その風景は、日本の学校の見本市と言う光景であった。コの字型にL字型、H字型という、セメントや木造やモルタルという日本の学校を再現して、二宮金次郎さんの銅像そのほか、色々と石造と言う名前のゴーレムが保安のためにがんばっている。


 本日の金次郎さんは、風船をたくさん手にしていた

 レックが生み出した以外にも、風船はたくさんあるようだ。素材は不明ながら、お祭りらしい雰囲気で、とっても派手だった。レックの教室からあふれ出た風船も混じっているのは、事故なのだ。


 本日は、お祭りだから。


「あれ、ウサギの獣人なのに、バニーバールしてねぇや」

「いや、あれはコスプレじゃね?」

「あら、あの犬耳、良くできてますね、うごいてて――」

「ちゃうちゃう、あれはホンマもん」


 コスプレ率がとても高く、猫耳や犬耳やウサギ耳というカチューシャの人々も散見される。本物が混じっているが、もはや混沌だ。

 マッチョが筋肉を自慢して、格闘はゲリラで声援をさらい、歌姫がさらに上を行き、イリュージョン魔法で盛り上げる。

 遠くでは、爆撃が聞こえる。当社比400パーセントと言う光景が、轟音が、祭りと言う賑わいを教えている。


 魔法学校では、日常だ。


 10月の本番を前にした、予行練習と言うより、小さく体験させると言う名目で、とてつもない賑わいだ。

 レックと言うこの世界で生まれた少年にとっての学校生活とは、これが初めてだった。4月の入学式から、あわただしく始まって、すでに5月である。プレ・文化祭の準備などは瞬く間に過ぎ去った、すこし楽しいと思っているレックだった。


 唐突に、震えてきた。


「どうしたの、レック」

「どうしたんだにゃ~」


 両サイドのエルフちゃんたちが、異変に気付いた。

 レックも、なぜ、震えているのか分からない。しかし、本能が教えていたようだ、魔法の爆発のおかげで、気付けなかった予兆に、気付いていたのだ。


 振動が、接近してきた。


 セーラー服に身を包んだ集団が、接近してきた。

 魔法学校に制服はない、ファッションとして、様々な学生服が購買で売られており、お古も競売にかけられ、たたき売りされている。

 そんなファッションに身を包んだ軍団に、心当たりは1つだった。


 レックは、震えた。


「………たすけて下さい、見逃してください――」


 壁どん――の記憶が、呼び起こされていた。





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