プレ・文化祭 2
賑わいが、窓の外から、廊下の向こうから、響いている。
祝福の大砲の代わりの中級魔法の乱射に始まり、レックが生み出した風船とは別種の風船が大空を舞い、実際に飛行能力を持つ魔女っ子たちも、空を行く。
プレ――と言う表現の通り、本番を前にした、さわりと言う程度らしい。しかし、十分に大きなお祭りだと、レックは思った。
お客様も、たくさんだった。
レックは、腰を低くした。
「へへへ、ようこそおいでくださいました――」
お久しぶりの、コハル姉さんの登場だった。
耳が肩幅まで長い、見た目は12歳のお子様と言う、実年齢は人間の寿命をとっくに通り越しているお子様だった。
エルフの国ではレックの師匠を気取って、色々と魔法を教えてくれた、ハードモードな毎日だった。トランシーバーと言う見た目のケータイを、自慢げにしていた出会いから、長い付き合いになっている。
もちろん、エルフは一人ではない。銀色のロングヘアーも、ご一緒だ。
「やっぱり、ミニスカートがお約束なのかにゃ~?」
ラウネーラちゃんは、相変わらずのパイロットスーツと言うファッションに、さらに猫耳と尻尾がセットである。
語尾も、にゃ~――である。
季節を考えたのか、かわいらしい桜色カラーをベースとした、春色だ。猫耳はぴくぴく、尻尾もそわそわと動いていた。
全て、魔法で解決だ。
「ミニスカートか………おれは、入学式のときで十分だ」
背の高いお姉さんが、ちょっと照れている。レックの姿を見たからではない、ケンタウロスの姉さんは、自分がその姿をした場合を想像しておいでだ。
入学式では、レックとおそろいのアイドル衣装で表彰台に上がったのだ。放課後のレースの優勝は、UFOだった。
「おれっちの場合、全部ロングスカートになっちまうけどな」
「あなた、それって大人用を選ぶから………」
「ええやん、それはそれでアリなんやから?」
背の高いお姉さんが気まずそうにほほをかき、小さな女の子がつまらなそうに、そしてツッコミにと、楽しそうである。
ケンタウロスにドワーフに、エンジェルとマーメイドと言う姉さん達も、勢ぞろいだ。
アーマー・5の姉さん達が、久々の勢ぞろいだ。
入学式以来であり、レックにはフラグとしか思えなかった。これは、なにか大変な出来事が起こるフラグであると――
とん――と、レックの肩に手が触れた。
「風船の増産、許可が出ましたよ………廊下も満たしてください」
メイド服がトレードマークの、ドロシー先生であった。
感情を表に出ない表情の裏で、何を考えているのか、とっても不安だった。本日、朝も早くから行列が出来る有様で、教室は風船意外でも、結構ギリギリだった。
人気が出すぎた結果であり、レックは教室を見た。
「ギリギリ………あぁ、早めに大人が出てくれてて――」
「えぇ、カルミー先生も確認を兼ねていたようです。許可は得ているので」
やっちまえ――
ドロシー先生が、サムズアップをしていた。どこかと連絡を取り合った様子はなく、人手不足の、教師一人に生と一人と言う勇者(笑)教室においては、朝から付きっ切りであった。
魔法で、解決のようだ。
「これこれ――」
エルフちゃんが、ケータイを自慢げに振っていた。
ガラケーと言うより、トランシーバーと言う見た目である、アンテナとずんぐりとしたスタイルに、そして、ジャラジャラと宝石やら色々が重そうだ。
伝えたい事は、伝わった。
「通話の魔法ッスか」
受信だけならば、すこし魔法の才能があれば可能だという。ただ、望む相手へと通信を送るのは、かなりの魔力と集中力が必要らしい。気軽に行えるのは、ベテランの証であり、通常は、補助としてマジック・アイテムを用いる。
水晶玉を使ったイメージが、いまはケータイの取って代わろうとしていた。
「隣も空き教室ですから、レック君――」
ドロシー先生の声に、レックは周囲を見渡す。
日本の学校を模倣している、天井の蛍光灯など、点滅しているおまけ付きだ。木製の机に黒板に………
中身はややSFという、タップすれば立体映像が浮かび上がる、不思議な教室の風景は今、風船が溢れるお子様ランドとなっていた。
風船の数が多く、半分浮遊している、プール状態だ。
レックは、くらげさんステッキを構えた
「いくわよっ」
気分は、魔女っ子だ
折れ目のついたチェックのスカートにブレザーという、女子高校生ファッションとしてミニスカートはお約束のレックは、回転した。
「バブル・ふぃ~ぃいいいるどっ」
ヤケだった。
くるくると回転しながら、ステッキの先端からも、こぶし大から人間の胴体サイズまで、大小さまざまな風船が生み出された。
バブル・スプラッシュは、すぐに消えてなくなるシャボン玉だった。
バブル・フィールドで生み出された風船は、ゴム風船と言う弾力と強度であり、いいや、強度はさらに上である。しかも、ある程度の数がそろえば、浮遊状態になる優れものであった。
ぴろりろりん――
レックの脳内で、効果音が鳴り響いた。
『称号・大道芸人』を取得しました
『称号・女子高生』を取得しました――
ワケが、分からなかった。久々の称号だというのに、レックの頭の中でさえ、レックで遊んでいるようだ。
「さすが、勇者(笑)です」
ドロシー先生が、拍手をしていた。
教室の窓からも、お子様たちが顔を出して、ぱちぱちと拍手をして、調子に乗ってやらかしたレックを褒め称えていた。
さすが、勇者(笑)だと――
片ひざを上げて、くるくるとバレリーナ回転をしていたレックは、くらげさんステッキを、静かに下げた。
足も下げて、すっと、たたずむ。
さて、ここで素になって転げまわるのか、それとも、更にやらかすのか――
決まっていた。
「ご声援、ありがとうっ」
腕をクロスさせ、足もクロスさせて、新たなポーズを取っていた。いったい、誰が教えたというのか、レックは自然にポーズを取っていた。
前世が、呪いをかけたようだ。
「わ~、新しい決めポーズね、レック」
「さすがだにゃ~、いつ練習したんだにゃ~」
エルフちゃんたちには、好評のようだ。
そして、レックも、練習をしたわけではない。前世がイメージを送り込んできて、その通りに、なぜか体が動いたのだ。
まさか、前世が鏡の前で、気目ポーズの練習をしていたわけではないだろう。変身ヒロインのポーズを、男子高校生だった自称・高校4年生が………
「似合ってるな、レック」
「くるくる回転………か」
「あの動きで目が回らないなんて、やりますね」
「いや~、レックちゃんの新たな魔法だけやなくて、決めポーズまで見られるやなんて、来てよかったわ」
アーマー・5の姉さん達の評価も、高いようだ。
風船は廊下に溢れ、ぱちぱちと手を叩いている皆様も、半分浮遊状態で、ふわふわと風船のプールを泳いで、浮かんで、楽しんでいた。
勇者(笑)教室の周囲は、風船に侵略されていた




