レックと、バイク部 8
虫が苦手な方、すみません。今回も出ます
レックの金髪は、気づけば背中を覆うほどに、伸びていた。
一本にくくって、バイクにふさわしいヘアスタイルにした。そしてガンマンコートの、久々の冒険者気分だった。
2月の末に16歳になって、まだ2ヶ月の少年なのだ、久々の連休にバイクの一人旅を気取って、何がおかしいだろう。
思いっきり、悲鳴を上げていた。
「ぎぃいいいやぁああああ」
触手プレイが、レックを襲っていた。
どのように地中を高速移動したのか、ミミズ軍団が、レックに襲い掛かっていた。
むしろ、蛇であればよかったと思って、それはそれで、SAN値がピンチになるだろうと、どこか他人事の自分がいた。
レックは、そして思った。
だれ得――?
レックの前世の言葉は、レックの言葉でもあった。
そして、輝きが残像を残した。
「買っててよかった、ビーム・サーベル」
腕をクロスさせて、ポーズを決めていた。
そうすることで、レックはSAN値を守ることに成功した。
ややSFというバイクには、バリアが装備されている。衝突事故、転倒事故に対応している、ヘルメットやプロテクターがなくても、安心だ。モンスターが張り付いても、しばらく守る程度が出来る。
おかげで、ビーム・サーベルを手にする余裕ができたわけだ。
両手で、デタラメに振り回した。
射程が短く、バリアに張り付いたモンスターを倒す限定で、とっても便利な武器であった。
おぞましい、ミンチと思っていても、しばらく動いている肉塊を見ないように、油断しないように周囲を警戒した。
「みんな………は?」
――みんなは、どこだろう。
忍者部の皆さんは、さすがに反応がよかった。バイク部の皆さんも、ハーレーの兄貴の言葉によって、即座に脱出した。むしろ、反応できなかったのはレック一人である。
今頃は、レックの不在にお慌てているだろうか
忍者達が、戻ってきた。
「お見事、逃げるより戦うとは、さすがは勇者(笑)さま」
「いや、反応できなかっただけじゃ――」
「ビーム・サーベルか、いいな~………目立つから禁止だったけど、やっぱ――」
「そう、やっぱ男の娘の衣装じゃないと、勇者(笑)レックらしくないよ」
「ミニスカ命――わかる、わかる………」
レックは、ゆっくりと忍者部から距離をとり始めた。思えば、コスプレ部ともいうべき、コスプレのイメージのために命をかける皆様なのだ。
忍術をまじめに復活、あるいは継承しているのか、それは不明であるし、知りたくもない。引きずり込まれるのは、ごめんであった。
だが、気になる事がある。
「フラグるのか、炎禁止が、フラグなのか………」
とっさの声に反応できなかったのは、レックだけだった。それほど、とっさのミミズ軍団であった。
レックを襲撃した、目の前のミンチの軍団だけだろうか。 14歳女子が、すぐに逃げようという涙目だったと、思い出した。
フラグであった。
ロビン先生の言葉が、フラグであった。バイク部最年少の14歳女子に向かって、確かにロビン先生は命じた。
ボーゼットは炎魔法を禁止――と
14歳女子のボーゼットちゃんは、赤いどくろステッキを手にしていた。あのどくろが口を開けて、炎を吐くのだろうか、どくろが赤いということと、炎が赤と言う基本イメージが重なった。
たった今、回収された。
「うわ~、ボーゼットちゃん、フラグ回収だぁ~――」
レックは、見上げていた。
炎の柱を、見上げていた。
忍者部の皆様も、見上げていた。
「炎のバイク部伝説………この目で見るとは――」
「あれでは、素材も残るまい」
「勇者(笑)殿のレーザーなら、一網打尽と思っていたのだが――」
「女子の前に触手の群れだ、やむをえまい」
「男子でも地獄だ、しばらくは夢に出そうだ」
どうやら、その手の群れが、バイク部を襲ったらしい。レックを襲った触手も、ナメクジの腕と言うタイプでなく、地面からの無数のミミズ変異体?であった。
インフェルノ――
そんな言葉が思い浮かぶような、炎の祭りだった。
言葉のイメージの通りの魔法であるなら、キャンプファイアーの焚き火が当たり一面に荒れ狂う、炎の大爆発だ。周囲を全て巻き込んだ、下手をすれば自爆になっているかもしれない、凶悪な魔法だ。
レックは、静かに見つめていた。
「禁止って言われてたのにな~………」
気持ちは、とっても分かるレックだった。
14歳女子でなくとも、目の前に触手軍団と言うミミズの軍団が現れれば、パニックになっておかしくない。
血をすわれ、肉をかじられる――
ホラー映画やファンタジーでも、ワームは恐れられる。肉食イモムシであったりナメクジであったり、ミミズの変異体であったり、色々と合わさった、グロテスクなモンスターである。
こうして、森に更地ができた。




