レックと、バイク部 7
虫が苦手な方、すみません
ベキ、バキ、ベキ、バキ――木々が粉砕され、倒される音が響く。
ドゴ、ドドドドド、ボゴン――巨大な岩石が転がってくる音が、時間がないと教えている。
双眼鏡を手に、レックはおののいていた。
「………わわわわ、来る、来るッスよ」
斜面でないはずだが、なぜか転がるダンゴムシが、先頭だ。
斜面ほどの速度はないが、バトル開始まで、あまり時間がない。すぐ後ろから殺人カマキリや巨大ゲジゲジや、なぜか足が速いナメクジなど、SAN値をピンチにする有象無象が接近中だ。
バイク部最年少も、涙目だ。
「何で虫さん大行進なの。ゴブリンの群れとかじゃないの、巨大狼が3匹くらいじゃなかったの~」
14歳女子の意見に、レックも同感だった。
森なのだ、せめてモンスターに変化したイノシシや、素直に大型ゴブリンの群れでもいいと、本気で思った。草原では牛サイズの巨大ホーン・ラビットや、ボス未満の2メートル近い大型ゴブリンたちが、バイク部の餌食となったのだ。
迷いの森の根拠である、プチ・ダンジョンというべきモンスターの発生地では、さぞ、おいしい獲物があるだろうと、期待していたようだ。
実際には、有象無象の皆様が、溢れていた。
レックは、責任者の号令を待った。
「密集――」
ロビン先生は言いかけて、14歳女子を見た。
「いや、ボーゼットは炎魔法を禁止とする………いいか、炎は絶対だからなっ」
14歳女子は、涙目だ。
ハート型ステッキのほかに、もう一本、こちらが本命らしい武器を取り出している。どくろマークが、凶悪だ。
赤いどくろで、何を連想するのか、地獄の業火が目に浮かぶ。
恐怖を隠しつつ、レックは前を向いた。
「先生、オレっちは?」
大群の接近に恐怖しつつも、レックの経験が教えてくれる。
レーザーで、楽勝だ――
ダンジョンでの、経験だった。
落盤の恐れがあったための縛りプレイで、レーザーが禁止であった。それでも水風船を拡大させれば、巨大な岩石と言うダンゴムシさんの突撃を防げた。
SAN値が、ピンチになっただけだ。
さらに、接近を許す前にレーザーで乱射すれば、片付けられる。
幸い、バイク部は密集しており、レックが最前列に出て水風船で全方位を守ることも出来る。直系10メートル程度に拡大させ、バイク部を内側に守りつつ、レーザーを乱射すればよいのだ。
森にダメージを与えてしまうが、すでにモンスターの皆様が破壊していらっしゃるので、よいだろう。人にさえ当たらなければ、よいだろう。
大火災らしいボーゼットちゃんの攻撃魔法の暴発よりは、マシだろうと………
即座に、却下された。
「ダメだ――マラソン部がいるっ!」
ハーレーの兄貴が、叫んだ。
本当に、すばらしい魔力レーダーをお持ちのようだ、レックはいつでも水風船を最大幅にする気構えをしつつ、双眼鏡を覗いた。
「どこッスか。オレっちには………ダンゴムシの大群しか――」
振動が、巨体の接近が秒読みだ。
レックにはそれしか見えず、人影など、見えなかった。それに、人の移動速度では、魔法で強化されても限界がある。空を飛べば別だが、陸路でバイク部より早く森に到着しているなど、考えにくかった。
どうすればいいのかと、すこしパニックになりつつあるレックは、責任者であるとがったサングラスを見上げた。
『馬』――と刺繍されたタンクトップのおっさんが、不機嫌だった。
「ちっ――見ないと思ったら………プレ・文化祭の準備って、こういうことかよ」
ロビン先生にも、なにかが見えたようだ。
ちょっと、イライラしておいでだ。
おかげで、本当に誰かがいると確定した。そして、そういえばと、レックは考える。今朝はバイク部が、お出かけのレックを待ち構えていた。なら、他のクラブの勧誘は、どうだったか。
馬術部は潔く、レースの結果を受け入れていた。バイク部の場合は、バイクを持っているということで、仲間というレックをあきらめていなかった。
では、他のクラブは?
「――忍者?」
レックの双眼鏡に、なにかが映った。
人がいるはずだと、色々と双眼鏡で探していると、確かに見たのだ。
一瞬であるために、見間違えということがある。しかし、レックの脳裏には忍者という忍者の姿が、プレイバックされていた。
まっすぐと、前を見た。
「………うわぁ~――」
爆発が、起こった。
炎系統ではない、マジック・カノン系統やスラッシュなど、中級魔法が乱射されているお祭りが、開催された。
魔法学校の、日常風景だった。
レックは少し安心した、バイク部だけでは少し厳しいモンスターの大群は、すでにお客様の相手をしていたらしい。
「プレ・文化祭が来週だからな。材料費のためか?」
「派手なほうが、獲得競争に有利だからな、予算も自分達でってな」
「そっか………昨日の夜からお出かけってとこか」
一輪バイクとサイドカーと、そして改造ゴーレムバイクの3人が、なるほどと納得をしていた。
そういえば、レックも言われていた。プレ・文化祭の準備が待っている。休日が終れば戻るように、スケジュールをしっかりと組むようにと――
休日は、2日しかない。出発とキャンプとモンスターの群れの捜索と言う時間を考えて、複数のクラブが合同で、あるいは競争で、昨晩からお出かけしていたらしい。
そう、狩りの時間だった
「いくか」
ロビン先生は、バイクにまたがった。
「早く行こう、毛皮しよう」
14歳女子は、意味不明だった。
「そうね、解体なら、早いほうがいいから」
大型バイクの姉さんも、同意のようだ。すでにヘルメットをかぶって、出発準備OKである。
兄貴達もエンジンをふかせて、出発は決定である。迷いの森はよい稼ぎになるらしいが、競争でもあったらしい。
バイク部に、出番はなかったのだ。
「遠足まで待って話だよな」
「久々の休みだから………まぁ、次があるさ」
「遠足だと、一人当たり20ポドルがせいぜいだし――」
「ツーリングだから、素通りってことで」
遠足という言葉が気になったレックだが、ここから脱出できるなら、それでよかった。
男子部員達の準備も終えた。すぐにでも出発できる状況での相談だった、武器を収納してゴーグルをつけたりヘルメットをかぶったり、そして、エンジンをかければ準備完了である。
号令で、出発だ。
そう思っていたが――
「これはこれは、バイク部と………おぉ、そこにいるのは勇者(笑)さまか」
忍者の人が、降ってきた。
たくさん、降ってきた。
「ぜひ、助太刀を」
「レーザーを』
「いや、魔女っ子を」
「まずは、お着替えを」
「まて、くのいちだろ」
「セーラー服は?」
「ヘアスタイルはどうする」
論議はおかしいが、全員、忍び装束で降り立っていた。女子部員も混ざっているが、服装では分からない。男の娘も珍しくない今日この頃、油断してはいけないと、レックも見本となっている。
なぜか、目の前に衣装が掲げられた。アイテム袋に、いつも収納して入るようだ、ちょっと怪しいクラブである。
ハーレーの兄貴が、警告した。
「げっ――横っ」
「走れえええっ!」
ロビン先生も、叫んだ。
ワケが分からず、バイク部の全員が、急発進した。訓練を受けていないレックには反応が遅れて、最後尾だ。
むしろ、出発すらしていなかった。
レックは、悲鳴を上げた。
「ぎぃいいいやぁあああ」
触手が、レックを狙っていた。
地面から、ミミズ軍団の登場だ。
次回も、虫がでます。すみません




