レックと、バイク部 6
虫が苦手な方、すみません
モンスターは、どのように生まれるのだろう。
レックの前世は語る、神様が答えであると。ついでに言えば、ダンジョンも同じく、ゲームやアニメやラノベなどでは、様々に答えが出されている。
答えは、神様だ――と
この世界では違うらしい、魔力が溢れ、たまる場所で発生してくる。たくさんたまりやすい場所を、ダンジョンと呼ばれる。
洞窟に限らず、森の奥深く似生まれることもあるという。それを、レックは、双眼鏡で覗き込んでいた。魔力感知の範囲は目視のほうがよいほどで、魔力で視力を強化しても、双眼鏡に劣るためだ。
見なきゃよかったと、レックは双眼鏡から顔をあげた。
「………ダンジョン?」
ダンジョンの光景が、目の前に広がっていた。
昨年のことだ、大発生がひとまず終ったという報告で、レックは王城へ向かった。そのときに、王様に依頼されたのだ。
ダンジョンに、行かないか――
喜んでお返事をしたのは、前世の影響だったのだろう。それが転生者だ、この世界で生まれ育った人格に、とても強く影響するのだ。ふとした動作や反応や、そしてよぎる考えにセリフにと、影響するのだ。
ダンジョン、キター ――と、飛び上がった。
結果、巨大な殺人カマキリやダンゴムシやナメクジが、レックのSAN値をピンチにしたものだ。巨大な洞窟の中と言う光景が、森の片隅で再現されていた。
レックは、恐る恐ると指を刺していた。
「………逃げません?」
SAN値が、さっそくピンチだった。
森の中であっても、なぜ、ダンジョンで見かけた皆様がおいでなのか。巨大なイノシシの群れでもいいし、凶悪な狼が、首が三つに増えていてもいい。トカゲが30メートルサイズになっていても、今のレックであれば怖くない。
なぜか、SAN値をピンチにする皆様が、勢ぞろいだ。
懐かしい、殺人カマキリや巨大ダンゴムシや巨大ゲジゲジや巨大ナメクジと言う、庭先の鉢植えを動かせば、すこし大きな石を動かせば姿を現す皆様が、うじゃうじゃとおいでだった。
まさに、レックがダンジョンで出会った皆様だった。
レックの横に、少女が近づいた。
「助けて、勇者(笑)さま――」
バイク部最年少の14歳女子が、乙女を気取っていた。
女子の武器をフルパワーにして、ハートがザコのレックは、固まっていた。
ラビットちゃんを追い回し、ハートステッキでレックの魔法、バブル・スプラッシュを真似て、実際には水の塊を操り、おぼれさせた凶悪な女子である。かわいらしくドキドキするよりも、警戒心でドキドキだった。
いや、本気で頼ってくれているらしい、足がたくさんあるタイプのモンスターは、苦手のようだ。
「私には、なにも見えないわね………予定通りに、王の都へ行きましょう」
大型バイクの姉さんの中では、すでに王の都へ向かう決断がなされていた。
レックも、とっても同感である。いくら水風船があるとはいえ、接近されずに討伐した実績があるとはいえ、苦手なものはある。
それを、SAN値と言う――レックの前世が、学者を気取って電卓をいじっていた。マイナスが次々と追加されている、思い出しSAN値であった。
バイクが一直線で森を進んだ。広い草原ではなく、直線でバリアを連結させている、列車のような流線型のイメージだ。
バイクで突っ切ることが無茶と言う道を突っ切る、ファンタジーな光景だった。そのまま突っ切れば、2時間で森を通り抜けられるのではないか。舗装道路でなくとも、草原では時速40kmでも問題ない。森であるために半分の速度でも、かなりの移動速度として、突っ切ってほしかった。
魔力の気配にストップし、双眼鏡で見つめた光景は、逃げ出したかった。
「ダルトー、お前のレーダーでは、どんな風に見える?」
ロビン先生が、ハーレーの兄貴に問いかけた。
先頭を走っていることといい、号令をさせていることといい、頼りにしているらしい。魔法のレーダーでは、かなりの範囲を見渡せるようだ。
魔法学校の先輩でもある、もしかすると、一部はエルフレベルかもしれないと、レックは素直に尊敬の眼差しだった。
「200匹以上………であった中では多いほうですし、かなり大型もいますね。昨年の大発生の余波って所でしょうけど――」
ロビン先生に向けての言葉であるため、丁寧だった。
自分達だけでは、厳しいと、撤退しようと付け加えた。
適切な判断だと、レックは思った。バイク部は、20匹程度の群れでも、素材を大切にするという縛りがあっても、問題なく討伐できた。
シルバー・ランクの冒険者パーティーの実力はあるのだろう。バイクの移動速度を生かして、確実に倒していった。
レックのお手伝いなど、いらなかった。体験入部として、集団戦闘の経験が不足しているレックには、ありがたいという戦いだった。
今回は、逃げるに限ると思った。
移動速度と言う強みが、森では生かせないためだ。
「ボーゼットなら、いけるだろう」
「だからですよ、森が燃えたら、しゃれになりませんって………ほら、らしくない乙女を演じてやがりますよ――」
ロビン先生とハーレーの兄貴が、バイク部最年少を見つめた。
レックにすがって、乙女を演じている14歳女子である。
ハートのステッキを使って、水を生み出して、バブル・スプラッシュと名づけて遊んでいる姿は、かわいらしいと思った。魔女っ子は、やはり女子がすべきだと、改めて思ったのだ。
最強だったようだ。
大型バイクの姉さんが、遠い目をしていた。
「いや、消せるのよ。魔力をポーションで回復させながら、水魔法の乱射をすればいいから。赤字になっても、森全体に影響でるよりマシだし………」
素材が全て燃え尽きるために稼ぎはゼロで、ポーションなどの備品を使った値段がマイナスとなる。
周辺に被害が広まれば、巨大なマイナスとなるため、仕方ないらしい。次で挽回すれば、簡単に取り戻せる程度でもある。
そういう説明を受けて、ボーゼットちゃんと言う14歳は、かわいらしく“てへぺろ”をした。
いったい誰が教えたのだろう、似合うから、腹立たしい。
レックは16歳である、14歳女子は妹と言う年齢で、後輩と言う年齢である。入学の時期が異なるため、魔法学校の学生と言う身分においてはレックの先輩だが………
一輪バイクと、サイドカー、そして改造バイクの3人は、どう思うのだろう。
「「「たすけて、勇者(笑)さまっ」」」
ふざけておいでだ。
これで、ロビン先生まで参加すれば、一人で脱出も考えたレックである。あくまでも考えるだけで、流されてしまうと思うわけだ。
偉い人には、逆らえぬのだ。
相手は、先生なのだ。
「ったく――まぁ、バイク部らしい戦いは見せたし、撤退か。戦うならレックにレーザーしてもらうのが一番だろうが――」
バイク部としての活動を見せる――それが、今回レックを捕まえた目的らしい。なら、レックに頼る戦い方は選びたくないと、ロビン先生も撤退を決めたようだ。
もともと、火力が不足の場合、見つかる前に脱出が決まりという。それは、冒険者も同じであり、冒険者ランクも、そのためにある。
ギルド側から依頼する場合は危険であり、緊急性が高い場合だ。
自分達で、調査と判定を行ったわけだ。
ここで、レックの前世がいらぬことを言い出した。
フラグだ――
撤退を話し合うと、モンスターに見つかるというフラグだ――
すぐに、回収された。
「まずい、気付かれた――」
ハーレーの兄貴ことダルトー兄さんが、声は小さく、しかし、緊迫感を伝えてきた。
ヤバイ――と
レックはあわてて双眼鏡で、SAN値をピンチにする光景を確認した。800mは距離があるはずで、その方角を指し示し、みんなで見つめていたのだ。
相手も、よい感覚を保有しているようだ、レックたちに気付いて、接近中だ。有象無象がぞろぞろと、ゴロゴロと接近中だ。
地響きが、急接近だ。




