レックと、バイク部 4
囲い込みだと、ロビン先生は言った。
狩りの時間だと、ハーレーの兄貴は言った。
バイクが、草原を支配した。
「うわぁ~………囲い込みだぁ~――」
草原に停車したまま、レックは目の前の光景を見つめていた。
パパラパ、パパラパ――という警告音が響き渡る。バイクの群れによって、いつの間にかモンスターの群れは、囲い込まれていた。
まるで、西部劇のようだと、前世は腕を組んでいた。これで、ロープをくるくると回して入れば、完璧だと――
バイクたちによって、巨大な結界が生み出されていた。
魔法的なものではなく、ぐるぐると大きな円を作り、モンスターたちはその内側に追い込まれていた。威嚇されて逃げているのか、獲物を追いかけているうちに、気付けば罠の中心に追い込まれていたのか、分かるわけも無い。
レックも、気付けば出来上がった光景を、驚きで見つめていた。
サイドカーは、けん制のようだ。ヘビー・マシンガンから放たれた。
「おぉ~っと、逃がすかよっ――」
弾丸は中級魔法に準じる威力だが、練習用の、お安い弾丸らしい。
それでも、拳サイズの石を投げつけられたに等しい、下手をすれば大怪我ではすまないため、十分な威力である。
ガガガガガ――と、モンスターの動きを操っていた。
「バイク・らりあぁああああっと」
バイクが、ラリアットをしていた。
改造バイクは、だてではない。ゴーレムの腕が付いていたのも、飾りではない。突撃によって気絶させ、即座にトドメがやってきた。
大型バイクの姉さんが、微笑んだ。
「今日は、ついてるか?」
マグナムが、放たれた。
大型ゴブリンへの、トドメの一撃だった。
元ネタの映画を見たことがなくとも知っている、有名なセリフであった。すぐに起き上がってもおかしくない中への突撃と、トドメというコンビネーションは、さすがバイク部というべきだろう。
最年少の14歳も、突っ走った。
「ラビットちゃ~ん、逃げちゃだめぇ~っ」
レックのバイクと同系統のバイクが、ラビットちゃんを追いかけていた。
どちらが追いかけている側だったのか、牛サイズのホーン・ラビットは危険なモンスターである。ウサギサイズのときでさえ、角の一撃は命に関わる。
牛サイズなら、巨大なジャベリンというサイズだ。
14歳女子が、ハートのステッキを取り出した。
「バブル・すぷらぁああああっしゅっ」
レックの魔法と、同じ名前だった。
凶悪なバイクの操作テクニックから、いきなりファンタジーである。14歳の少女であればお似合いであり、やはり、男子が持ってはいけないアイテムだと、レックは思う。
真似されたことなど、気にするレックではない。そして、マネもできていないようだ、水玉の大群が、ラビットちゃんを襲っていた。
ラビットちゃんは、苦し気に暴れていた。
「どうよっ」
14歳が、ドヤ顔だった。
レックは、どのように返事をすればいいのか、固まっていた。
レックのバブル・スプラッシュはイリュージョン系統である。ウォーター・ショットやウォーター・カノンの乱れうちを目指し、とりあえず魔力で生み出した塊の制御ができればよいと、自然と生み出された魔法だった。
殺傷力ゼロの、安全なシャボン玉の大群だった。
バイク部最年少の魔法バイク少女の放ったバブル・スプラッシュは、シャボン玉ではないようだ、ラビットちゃんを、捕まえていた。
いや、ラビットちゃんは、もはや虫の息だ、暴れる気力は徐々に失われる、水の牢獄の威力は、操られている水の量からもわかる。
見た目は、レックのバブル・スプラッシュと同じく、拳サイズの水の塊だった。
そのままの意味で水の塊がホーン・ラビットちゃんに襲い掛かったのだ。牛サイズのホーン・ラビットといえど、逃げ道はない。身動きが取れずに、押し寄せる水の牢獄に閉じ込められ、ついに動きが止まってしまった。
毛皮に傷一つ付けない、見事なる魔法だった。
「へへへ………ナイス?」
レックは、ぎこちない笑みを浮かべた。
レックの出番は、ないようだ。
いや、アイテム・ボックスが必要かもしれない。アイテム袋くらい持っていそうであるが、200kgを超える巨体が、ごろごろと転がっている、さすがに、市販のアイテム袋では限界がある。
レックの出番だ。
レックは、そう思っていた。運ぶだけでいいと、そう思っていたのだ。
ハーレーの兄貴が、号令を出した。
「レック、大型ゴブリンはかまわん、頭を吹き飛ばしてやれっ」
もう一台のバイクであるロビン先生は、静観の構えだ。バトルであっても部活である、生徒の自主性に任せているらしい。
見物だけでもいいが、レックも参加させてくれるようだ。指差す方向では、さっそく分断された大型ゴブリンがいた。
レックは、バイクを走らせた。
そして、叫んだ。
「スキル・水風船っ」
ちょっと、中二が顔を出していた。
レーザーを撃てば楽だが、同士討ちの危険が高すぎる。バイク部の皆様がぐるぐると巨大な円を描いている。その内側で放てば、誰かに当たるかもしれない。
そう、縛りプレイだ。
マグナムすら危険で、サーベル一択だ。2メートル近くある、並みのゴブリンよりは大型で、しかし、3メートルというボスクラスではない。
油断はできないが、サーベルなら一撃だ。
大きく振りかぶり、そして、振り下ろした。
「つまらぬものを切ってしまった――」
新たなキャラが、顔を出していた。
水風船によって、大型ゴブリンが動きを止るのは簡単だ。水風船が地面に押し付けている間に、サーベルの間合いである。
大型ゴブリンは、動かなくなった。
レックの気分は、時代劇だろう。しばし目を閉じて、浸っていた。あとで自分を振り返れば、のた打ち回っても不思議はない。
現実を呼び起こす音が、ブロロロロ――と、近づいてきた。
『馬』――と刺繍されたタンクトップのおっさんが、近づいてきた。
「水風船には、そういう使い方もあるのか………」
なるほど――と、興味深そうに、大型ゴブリンの亡骸を見ていた。
バイク部顧問のロビン先生は、レックが中二モードになっている件に関して、なにも口にするつもりはないようだ。
この世界には、中二が多い。日本人の転生者が、色々ともたらしているらしい。決め台詞も同じく、色々とありすぎて、気にならない世界なのだ。
遠くでも、決め台詞が放たれた。
「つまらぬものを、切ってしまった――」
一輪バイクの兄さんが、巨大なタイヤの中で、レックと同じセリフを口にしていた。
モノホイールと言うのか、モノサイクルというのか、ややSFなバイクから、日本刀が生えていた。
タイヤの中央から、伸びていた。
「飛び出す日本刀――ッスか」
一輪バイクの座席は、巨大なタイヤの内側にある。その座席から、巨大な日本刀らしき金属製の刃が飛び出し、モンスターとすれ違うと同時に、モンスターが真っ二つだ。
バイク部の戦い方は、戦術の研究でもあり、実験でもあるらしい。次々と、モンスターは狩られていった。
休日が始まった朝にバイクで出発したレックたちである。足止めを食らったとはいえ、そろそろお昼が近づいてきた。
レックは、太陽を見上げた。
「へへ、バイクの旅も、大変だぜ」
無事に、王の都にたどり着けるのだろうかと、見上げていた。




