レックと、バイク部 3
モンスター
モンスターの証であるクリスタルはもちろんのこと、一部の肉は食用になり、素材は武器や防具や、それ以外の日用品としてもありがたい。余裕があれば、素材の常態にも気を使いたいものだ。
冒険者に限った常識ではないらしいと、レックは知った。
ハーレーが、ハッスルした。
「ひゃっは~、いきなりの、獲物だぜっ!」
前方を走っていたハーレーの兄貴から、知らせが入った。
安全のため、フォーメーションを組んですぐの、ハッスルだ。
イベントが、発生したようだ。
「………モンスター?」
レックは周囲を見渡すも、分からなかった。
もっとも、レックの探知能力は高くない。モンスターの大発生と言う昨年は、エルフちゃんを代表とした人間ではない皆様がレックを導いてくれていたのだ。
女子部員が、周囲を見渡す。
「私のレーダーにはまだ何も………」
「あぁ、部長のは自前でしょ?」
女子部員同士と言うこともあり、小型バイクの14歳と、大型の姉さんが確認をし合っていた。
バイクに、モンスターを探知するレーダーがあるようだ。レックのバイクには、そのようなものはない。魔法学校の技術部で改造されたのだろう。そのくらいの改造ならばと、レックの心は揺れ動く。
ロビン先生が、叫んだ。
「作戦会議っ!」
同時に、バイク部の移動速度が落ちていく。
急停止でなくてよかったと、レックはすこし焦っていた。バイク同士の距離に気を使っていながらも、油断をすると追突事故のためだ。
レックも合わせて、ゆっくりと速度を落とした。自転車ほどの速度になり、徒歩になり、ゆっくりとバイクたちの距離が縮まっていく。100メートルほどの流線型だったフォーメーションが、縮まった。
いまは、10メートルもない。大声でなくとも、声が届きやすくなった。
ロビン先生が、敵を探知したハーレーに確認を取った。
「数は?」
もしかすると、ロビン先生も気付いていたのかもしれない。モンスターを探知し、フォーメーションを作る判断もまた、部活の一環として、見守っている可能性がある。
バイクのお出かけでありながら、冒険者の訓練のようでもあった。
「牛サイズ………大型のホーン・ラビットか、イノシシモンスターでしょう。危ないところでした――」
ハーレーの兄貴が警戒している。
レックは、お出かけ気分を反省していた。強くなったからと、結界の外という危険を、どこか軽く考えるようになっていたのだ。
だが――
「知らずにつっぱしってたら、モンスターがミンチですからね」
ちょっと、気使いすぎだったようだ。
ハーレーの兄貴は、歯をむき出しにして、微笑んだ。異世界のバイクを、レックは舐めていたようだ。転生する前は、そういう乗り物があると、遠くから眺める程度だ。
転生してからは、前世の常識が邪魔をして、レックの感覚は混乱していた。
バイクの突撃は、モンスターには致命傷のようだ。
「いい毛布になるのよ、ラビットちゃん」
「カラーバリエーションも豊富だしねぇ~?」
女子部員達は、毛皮に興味があるようだ。いや、近くで見ると装飾にこだわっている、いくつかの毛皮がシートだけでなく、装飾もあった。
ヘッドライトが髑髏でないのが、幸いだ。
「冒険者枠でなくとも、素材には気を使いたいもんだ」
「買い取りに影響するし………稼げるときに稼がないと」
「たくさんいれば、気にする余裕もないけどな」
「去年なんか、すごかった」
レックは、静かに耳を傾けていた。
バイク部の皆様も、魔法学校の生徒なのだ。全員がシルバー・ランクに相当する。魔力だけで中級魔法を放つことが出来、アイテムを合わせれば、上級魔法を放てる人物が混じっている。
どうやら、大発生でも活躍していたようだ。
「さて、いつもなら突撃か、囲い込むか決めるだけだが………」
ロビン先生が、レックを見た。
見つめられたレックは、フラグらないで、フラグしないで――と、笑顔が引きつる。レックの活躍を、見てみたい――そう言って、レックが突撃させられるのが、いつものパターンである。
だが――
「バイクでの戦いも、見せてやろう」
レックは、固まった。
悪い意味ではない、予想外の答えであるために、理解するまで時間を必要としたのだ。突撃する栄誉を与えられるとばかり、いつものパターンだとばかりに、覚悟を決めていたのだ。拍子抜けと言う感情が、ふさわしい。
相手に、伝わったようだ。
「安心しろ、レックにも獲物を任せてやるよ」
安心してよいのだろうか、レックは愛想笑いを決め込んだ。
「おれっちのレーザーなら、そのくらい――」
「おいおい、素材を大事にしたいって話をしてたろ? ドロシー先生にも言われたらしいがな、狙い打つのは、苦手だろ?」
痛いところである、大群を倒さねばならない状況であれば、乱射の連射は頼もしいが、素材を大切にしたい場合は、ミンチは厳禁なのだ。
普通の冒険者としての感覚が、ちょっとおかしくなっていると、レックは気付いた。異世界転生ものの主人公らしく、チートで、やっちゃうのか――と
マグナムを、取り出した。
「………学校の外なんで、マジカル・ウェポンして、いいッスか?」
レックは経験から、マグナムをチョイスしていた。
ポテト子爵の町から、国境の町までの間の道のりで、ホーン・ラビットの群れと遭遇した。サイズが牛と言う、今回と同じシュチュエーションであった。
ハンドガンでは心もとなく、ショットガンではミンチだった。
一撃で倒せる可能性に駆けてマグナムと言う選択肢である。
ビーム・サーベルも取り出した。
「こんなんもあります」
乾電池?が必要なマジカル・ウェポンタイプと、レックの魔力を頼りにしたマジック・アイテムタイプの2つを取り出した。しかも、水風船を巨大化させ、相手の動きを封じるという手が使えるのだ。
動けなくしたところで、サーベルで料理すればいい。一匹だけを相手にするのなら、それなりに戦う手段を選べるようになったレックである。
ロビン先生は、腕を組んだ。
「レースでも見せた水風船か………面白い」
優雅ではない――
エルフちゃんたちからは、不評であった戦い方だ。確実性を選んだのはよいが、素材のダメージを考えれば有効な手であるが、勇者(笑)らしくないと、不評だったのだ。
問題は、なかったようだ。
バイク部の皆さんは、どうだろう
「バイクで突撃、通り過ぎるところを真っ二つってか?」
ゴーサインを出しそうな、ハーレーの兄貴である。
「いや、片手運転はやめておけ、オレみたいにサイドカーとか――」
「ゴーレムの腕があったら、バイクでも組み伏せて――」
サイドカーのヘビー・マシンガンを乱射すれば、ミンチは確定だろう。そして、バイクからレンガのようなゴーレムの腕が伸びれば、転倒事故だろう。
少なくとも、レックの運転技術では、不可能だ。
女子部員達が、かぶせてきた。
「ラビットちゃんは渡さないよ?」
「サーベルって、こげちゃうでしょ?」
毛皮が、とっても大切なようだ。まだ、ホーン・ラビットと決まったわけではないが、さっそく毛皮の使い道に目を輝かせていた。
自分で解体するつもりだろうか、そのたくましさに、レックは逆らうまいと、獲物を奪うまいと、心に決めた。
すると、振動が近づいてきた。
「相談もいいが、そろそろだ………4匹接近中で、さらに10匹が――」
狩りの時間の、始まりだ。




