レックと、バイク部 2
レックは、草原を走っていた。
いや、草原というより、大海原へと漕ぎ出した気分だ。バイクが草を掻き分けて、押し分けて、進んでいた。バイクから発せられるバリアが、草を押しのけているのだ。シートから伝わる振動も軽く、ハンドルが取られることもない、穏やかなツーリングだった。
金色のポニーテールを泳がせて、レックは流されていた。
「バリアって、便利だよな………」
バイク部の皆様とご一緒に、レックはツーリングだった。
本日は、休日だ。
明日も、休日だ。
――というわけで、レックは久々にお出かけという予定だった。
バイクが戻ってきたのだ、入学式のレースにて『ゴキ○リほいほい』を食らったためにメンテに出し、やっと戻ってきたのだ。
ならば、せっかくの休日に乗り回したいのは、当然だった。
バイク部に見つかったため、ツーリングだった。
「がはははは、どうだ、仲間と走る休日はっ!」
ロビン先生が、ご機嫌だった。
バイク部顧問の、ケンタウロスのおっさんである。『馬』と刺繍されたタンクトップにグラサンと言う、半裸といってもいいお姿であった。
巨体でなければ操れないハーレーにまたがって、ムキムキとした腕をまっすぐに伸ばし、ブロロロロ――と、草原を駆けていた。
レックは思ったものだ。
馬が生えているだろ、走れよ――と
女子部員達が、近づいてきた。
「よかった~、バイク持ってる新入生って、ほとんどいないから」
「バイク好きでも、せいぜいレンタルだからね~」
レックと同じ小型バイクと、大型バイクのお姉さんが近づいてきた。個人でバイクを所有している生徒は少ないため、仲間だと思っているらしい。
小型バイクの姉さんは、ただ一人、レックより年下の14歳だった。
「私は姉ちゃんのお下がり、いまは卒業してテクノ師団にいるの」
「そうそう、普通は、私たちの年齢でバイクなんて、持てないよね~、家が金持ちか、シルバー・ランクくらい?」
言い終わると、ひゃっは~――とばかりに、先頭集団へと合流した。
代わりに、一輪バイクが急接近だ。
「――あとは、商業ギルドの専属とか、もちろん、でっかい商会の専属とかな?」
レックより年上で、19歳くらいだろう兄さんだった。
レックがお世話になったシルバー・ランク冒険者パーティー『爆炎の剣』のガンマンであるガルフの兄さんと同世代に感じた。
実力もそれくらいで、レックと同じく冒険者枠の入部かもしれない。
サイドカーとセットの人も、近づいてきた。
「バイクなんてよ、中古でもルペウス金貨が飛んでいくだ。まぁ、去年は大発生だったからよ、そこそこ稼いだ連中が多いんじゃないか?」
サイドカーに相棒を乗せる場所はない、ヘビー・マシンガンで満員だ。オート射撃か、あるいはハンドルに射撃のレバーもセットなのだろうか………
今度は、改造バイクが、現れた。
腕を伸ばして、現れた。
「だからこそ、改造だよ。俺もいつか、完全変形に――」
レックに近づいては話をして、そして、駆け抜けていく。
一輪バイクやレンガのようなゴーレムのお顔がヘッドライトの改造バイクなど、ファンタジーとSFが混じった一団だった。
レックもまた、バイクを手にしたのは転生者として覚醒し、しかも、マヨネーズ伯爵の援助があったおかげだ。
時期の問題だったかもしれないが、援助金がなければ、武器を新たに購入しただけで終ったかも知れず、エルフの国へ向かったのも、かなりあとになったかもしれない。
パワーアップはエルフの国での修行?のおかげであり、大発生を迎えるにあたり、大切なイベントだったと思う。
ぼんやりと、思い出す。
「マヨネーズ伯爵、そこまで考えてたのかな――」
バイクを買うことまでは、予測していないだろう。だが、パワーアップのためのアイテムの購入に、とても助かったのは間違いない。勇者が現れれば援助するようにと、言葉を残してくれたのだ。
転生者であり、マヨネーズをこの世界にもたらした功績に目がいってしまうが、それ以外にも痕跡を残しているのだろう。
レックがしみじみと思っていると、先頭から号令が来た。
「祠を確認っ、先生っ!」
ハーレーの兄貴だった。
レックは、気付かなかった。
先頭集団とは、10メートル程度しか離れていない。どこを見ての発言か不明であるが、レックが見回す頃には、通り過ぎているだろう。腰ほどの長さの草が覆い茂る草原を駆ける、バイクの集団なのだ。
好き勝手に走っていた、その並びが変わった。
「レックは、ロビン先生の隣にいとけ」
ハーレーの兄貴はそういうと、レックから距離をとった。
見ると、前後左右と、まるで決められていたかのように、フォーメーションを組んでいる。
自由時間は終わり、授業の時間だ――そんな緊張感だった。
ハーレーの隣に、到着した。
「………あの、ロビン先生?」
『馬』――と刺繍されたタンクトップが、トレードマークだ。
ハーレーはもう一台あるが、遠くからではブラックかホワイトほどに色の区別がないと、間違えそうになる。
『馬』――と刺繍されたタンクトップのおかげで、間違えない。
おっさんは、笑った。
「フォーメーションは初めてだな………まぁ、見ていろ」
もう一台のハーレーが先頭に、流線型のようにバイクたちが並んだように見える。それは見間違いではない、バリアが膨らんだ。
ホバーUFOでの突撃が、思い出される。
「フォーメーション、ゴーっ」
ハーレーの兄貴が、叫んだ。
「「「「「ラジャーっ!」」」」」
みんなが、応じた。
これは、まじめな演習なのか、それとも中二に浸っているのか、レックに判断は付かなかった。
ただ、『ほこら《ほこら》』というセリフで、すこし緊張を取り戻していた。この世界には、異世界ファンタジーでお約束の城壁都市は存在しない。神殿と名づけられた結界の発生装置によって、かなりの広範囲が守られている。
そして、補助システムのように小さな神殿があり、結界の境目を教えている。
つまり――
「そっか、走り屋の皆さんが団体さんなのは――」
この世界には、モンスターがいる。結界で守られた範囲の外へとお出かけするということは、危険が跳ね上がるということだ。
では、運び屋の皆様は、どのように安全を確保しているのだろう。
バイクが、答えだった。
「数が多いほど、バリアの強度が上がる………ファランクスだったか?」
ロビン先生を中央に、レックはその隣で見学だ。
おふざけでありながら、魔法学校は魔法の知識を、経験を与えてくれる。クラブ活動も例外ではなく、バイクを持っているなら、バイクで危険な世界を冒険するための知恵と経験を授けてくれるようだ。
レックはロビン先生の隣を走りつつ、驚いていた。
「異世界の部活、すげぇ~――」
前世も、一緒に驚いていた。




