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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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魔法学校の、休日


 魔法学校は、全寮制と言うわけではない。空を飛んだり走ったり、転送魔法を使ったりと、通うことができれば、通ってもよい。

 それも魔法の練習となり、慣れるほどに使い勝手がよくなる。それは、レックのレーザーが経験させてくれた。最初は1つしか生み出せず、今のレックは6つの水球を自在に操れる。


 バイクも、そうありたいものだ。


「久しぶりだな、相棒――」


 休日の朝、レックは相棒を隣に、ゴーレムの門前にいた。

 拠点を持たないレックは、学生寮に住まっている。前世基準では狭く感じるものの、レックには贅沢と言う評価であった。食堂も無数にあり、学生寮に付属の食堂やカフェテリア方式のおしゃれな学食や、それも校舎が一つや二つでないため、探検のついでに色々と食べ歩いてもいい。

 それでも、お出かけしたい16歳のレックは、バイクに語りかけていた。


「旅立ちはいつかって?………学生の身分になったからな、なかなか自由に旅立てないんだ。エルフの国は行ったから、次はドワーフの国かな。猫耳の皆様の故郷も行ってみたいし――」


 楽しそうに、相棒と語り合っていた。

 入学式において『ゴ○ブリほいほい』に捕らえられた相棒は、フルメンテが必要と言うことで学校に預ける事になり、先日、ようやく帰ってきたのだ。

 久々に、街へと繰り出そうと思ったわけだ。


 レックは、振り向いた。


「――って、言うわけでして………夕方には戻る予定なんッスけど」


 メイドさんが、たたずんでいた。


 休日は自由と言うことで、自由にしてほしいレックである。冒険者レックは、冒険がしたいのだ。

 自由を、欲していたのだ。


 メイドさんは、腰に手を当てた。


「2連休は久々ですし、お出かけはいいんですけどね。泊まりになるなら、ちゃんと申請しないといけませんよ?」


 お出かけを止めに来たわけではない、久々の外出に浮かれる生徒に向けた、先生らしい忠告だった。

 気を抜き過ぎないように、常識を身につけるのも、学校らしい。


 レックは、腰を低くした。


「へい、王都に行って、ちょっと町を見回れば、夕方には戻ってきやす」


 地図で見れば、直進距離から考えれば、それくらいだと思った。

 空を飛んで連行された記憶しかないが、20分もなかったと思う。ならば、バイクなら3倍ほどだと思ったのだ。

 久々のバイクなら、むしろ物足りないほどだ。


 ドロシー先生は、ため息をついた。


「なら、一泊じゃないですか。今なら間に合いますから、申請しなおしてきなさい」


 先生っぽいと思った

 そして、疑問に思う。徒歩ならばいざ知らず、魔法のバイクは、バイクなのだ。多少の荒道でも安心だ。転んだとしても怖くない、バリア機能搭載の、ややSFなバイクなのだ。運転の技術が未熟と言うレックでも、スピードを出せるのだ。


 なのに――


「えっと………街から、そんなに離れてたんッスか――」


 地図を舐めていたと、レックは理解した。

 空は直進でも、地上の山道は回り道が必要かもしれない。直進で山越えをしても、かなりの距離と時間が必要だろうと、あわてて地図を取り出した。


「あれ、山があっても直進………ムリ?」


 地図では、王の都と魔法学校は近くに見える。

 地図ではすぐそこで、上空1200メートルまでのジャンプで見れば、手が届きそうなほどの、UFOが並ぶ万博と言う王の都の光景だった。


 レックの、勘違いのようだ。


 そして、うなだれる。異世界ファンタジーらしく、ステータス先生がいて、マップ機能があればと、久々に現実の寂しさが身に染みる。

 山も、駆け上がればいいと思っていた。それが甘いのだろうかと地図とにらみ合っていたレックは、気付くことができなかった。


 馬の陰が、すぐそこにいた。


「安心しろよ、バイク部は、地図の読み方から丁寧に教えるぜ」


 ケンタウロスが、気付けばそこにいた。

 とがったグラサンに『馬』と刺繍ししゅうされたタンクトップのマッチョが、準備万端だ。

 ハーレーと言うのだろう、巨大なバイクも、エンジン全開だ。


 今にも、走り出しそうだ。


「ロビン先生、へへへ、いつぞやは、お世話に――」


 社交辞令に、レックは腰を低くする。

 入学式の前に、バイク野郎――と、声をかけられたレックは、とっさに握手をしてしまった。それが入部でもよかったかもしれない、しかし、フライングはマナー違反として無効を宣言され、入学式の大騒ぎとなった。


 レースだった。


 その結果、相棒のエーセフは『ゴキ○リほいほい』の餌食となり、メンテに出していたのだ。勇者(笑)が生み出し、広めたという拘束魔法の威力はすさまじく、ようやく戻ってきた相棒なのだ。

 同じ悲劇は、避けたかった。


 そう、避けたかった――


「ぐっ、ぐっ、ぐっ………ロビン先生、抜け駆けはいけませんな。ここは1年バカ組みの担任であり、『格闘研究会』顧問のゴンザが――」


 ミノタウロスが、現れた。

 牛モードで、現れた。マーメイドやケンタウロスと異なり、全身がモンスターモードと言うおっさんが、低い声でぐっ、ぐっ、ぐっ――と、笑っていた。


 思わず、リボルバーを抜きそうになるレックである。


 異世界ファンタジーによってはモンスターに分類されることもあるが、ケンタウロスもミノタウロスも、エルフのような妖精? なのだ。


 3バカも、現れた。


「レック~、またレーザーしてくれよ、やめられないんだよ」

「ひゃっは~、レック、飛ぼうぜ、飛ぼうぜ」

「へへっ、今度こそ決めるぜ、決めるぜ――」


 ちょっと、危ない連中になっていた。

 朝も早くから、ふんどしの3人組だった。3羽カラスと名乗りを上げて、爆発と言う体力バカの3人組だ。

 春とはいえ、朝は冷えるのに元気なことだ。筆記テストが全滅ながら、体力に自信のある連中が集められ、ミノタウロスの教室へと配属され、ひゃっは~と言う連中になった3バカだった。

 12歳から15歳と、レックと近しい年齢の少年達は、ハッスルしていた。


 クラブに所属を決めていないレックは、まだ4月と言う現在、勧誘合戦と言う勢いは、収まっていなかった。


 レックは、バイクを収納した。


「と、とりあえず生活課にいって、申請してきやすね――」


 逃げた


 このままでは、他の馬やモンスターが現れる。ここしばらくは地上よりも空にいた気がするレックは、学生と言う縛りを受けたレックは、自由なるバイクの旅路を味わいたいのだ。それこそ、王の都にたどり着けなくてもいい。日暮れになった地点でキャンプをして、Uターンをすれば、間違いなく戻れるはずだ。

 少しでいい、バイクでの旅路を味わいたかった。


 ドロシー先生が、フラグを投げかけてきた。


「来週はプレ・文化祭ですからね、予行練習がありますからね~」


 フラグ――と言うより、予定を念押しされた。

 へぇ~い――という、レックの投げやりのお返事も、気心が知れてきた間柄だ、許してほしい。久々の、お出かけなのだ。


 もうすぐ、5月になる。


 10月が文化祭らしいが、文化祭の雰囲気を味わってもらうためのイベントらしい。

 参加は任意だが、すでに決定事項なのはいつものこと。たった一人しか生徒のいない教室で、いったいなにをさせるつもりなのだろう。風船の大群がフラグだと思いつつ、レックは学生寮へと急いだ。

 せっかくの休日であるのに、フラグの皆様が待ち構えていたのだ。担任のドロシー先生に、バイク部顧問のロビン先生、格闘研究会のゴンザ先生に………


 レックは、走った。


「フラグしないで、せめて、休日は休ませて………」


 口にしながら、レックは思った。


 このセリフこそ、フラグだと――




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