空を飛ぶ魔法
ジャンプに、浮遊に、滑空
空を飛ぶ方法は、様々にある。
組み合わされるのが普通であり、工夫次第で滞空時間が延びたり、飛行速度が上がったりと、様々な飛び方があるのだ。
では、レックの場合はどのような方法があるのだろう。
ドロシー先生が、腕を組んでいた。
「レーザーの勢いで、空を飛ぶ………先生、アリだと思ったんですけどね?」
ロングヘアーをなびかせて、優雅に浮かんでいた。
3バカとの対決が、ヒントだった。
いや、入学式でのレースから、レックの運命は決まっていたのだろう。前世の浪人生は、フラグだった、あれは、フラグだったのだ――と、預言者を気取っていた。
いつもながら、レックの脳内は平和なのだ。
リアルのレックは、見上げた。
「も、む――」
もう、ムリです――
空を飛ぶ授業が始まって、すでに10日が過ぎていた。
垂直ジャンプはできても、空中へ向けてレーザーを放っただけでは推進力とならず、むしろ、無差別破壊の危険があった。そのため、ジャンプの後は水風船による浮遊が望まれたのだが、未だに実現できていない。
なお、3バカとの対決も続けられていた。レックと異なり、癖になってしまったようだ。吹き飛ばされるたびに、ひゃっはぁ~――と、元気なことだ。
一方のレックは金髪のロングヘアーをだらりと地面に投げ出して、自分も投げ出して、ゲームオーバー状態である。もはや、上級ポーションを取り出す気力もない、足元には、数本の残骸が転がっていた。
そこへ、新たな陰が降り立った。
「ホバーのときは、すごかったのにね」
「ハナコ姉さまのUFOが、すっごい活躍だったもんね~」
「3バカラスが吹き飛んでるから、いけそうだけど?」
「水風船も、ふわふわ浮くイメージだし?」
それぞれ、感想を言い合っていた。
本日の、合同授業の相手である。10歳から14歳までの魔法少女達が、それぞれのマジック・アイテムと共に、降り立った。
メイドさんは、遠くを見ていた。
「偉人は言ったそうです。あきらめたら、そこで試合が終わりだと――レック君、せっかくの合同授業ですからね、がんばりましょう」
前世の影響に違いない、有名なセリフだった。
しかし、レックは思うのだ。人は、空を飛ぶことができないのだと………
「勇者(笑)レックでも無理って、私たちが空飛べるって、すごいんだ」
「すっごく疲れるけどね~」
「マジック・アイテムがなきゃ、飛べないじゃん」
「あぁ、ドロシーお姉さまのように、自由に飛べたら――」
目の前では、空を飛ぶお嬢様たちがおいでである。説得力が皆無と分かるレックは、賢明にも口を閉じていた。
お約束の魔女っ子の箒にステッキにツバサの形状のグライダーにと、空を飛ぶためのマジック・アイテムは色々とあるらしい。スケート靴タイプなどは、ちょっと欲しいと思ったレックである。
あくまで、ちょっとだけだ。
「へへへ、地面の冷たさが、身に染みる――」
ちょっと、壊れていた。
魔力さえあれば、飛べるというわけではない。ヘリやUFOやロボなど、例外があるだけで、一般の乗り物としても、空は遠い場所なのだ。魔女っ子のホウキやステッキやグライダーやスケート靴などのマジック・アイテムを手にしても、空を飛べる少女達は、才能の持ち主と言うことだ。
レックも、もしかしたら――ということで、悲鳴を上げる日々である
新たな陰が、降り立った。
「魔力だけは、エルフレベルなのにね~――」
スケボーが、現れた。
見た目はスケボーだが、ピカピカと、クリスタルの輝きがまぶしい。パンツルックにシャツを腰巻にした、スケボースタイルのお姉さんだ。
担当教師の、登場だ。
「ほほほほ、ドロシー先生、やっぱりムリがあったようですわね」
「メルル先生、あきらめなければ、希望があります――」
ライバルのようだ。
スケボー先生と、もしかしたら同級生だったかもしれない。そのような印象でにらみ合う二人から、レックは距離をとり始めた。
フラグだと、前世が警告する。
レックの本能も、同意する。
「フラグしないで………たのむ、もう限界が――」
フラグは、回収された。
ドロシー先生によって、回収された。
「授業は、終わっていません――」
鬼コーチだ。
中二が顔を出していたときのほうが、まだ優しかった。今のドロシー先生は、ライバル対決モードの、お姉さん先生なのだ。
ライバルキャラに煽られ、燃え上がっていた。
レックは、叫んだ。
「ぎゃぁあああ、フラグったぁあああああ」
高度300メートル、600メートルと、感覚によって分かってきた。
垂直ジャンプは人間砲台の勇者(笑)ドロシーにより、とうとう、1200メートルと言う上空になり、見渡す範囲が取っても広くなる。
王都にも、手が届きそうだ。
メイドさんが、両手を広げていた。
「どうだ、レックよ………人が、ゴミのようだ――」
雷でぱちぱちしながら、ドロシーお姉さんは笑っていた。
中二というより、前世の知識によってレックを弄んでいるのだろう。レックは、震えていた。
ここから落とされることは、確定なのだ。
いまは、メイドさんのバリアの内側である。不思議力場によって、フィールドによって守られているが、メイドさんの気分によって、放り出されるのだ。
秒読みなのだ。
すると、微笑んだ。
「若き勇者(笑)よ、杖があることを、忘れていないか?」
混沌としていた。
ドロシーお姉さんなのか、中二なのか分からない、しかし、それが転生者である。影響を強く受けてしまい、抑えて、混じって、どちらでもあるのだ。
レックは、素直にステッキを取り出した。
「えっと――」
誕生日プレゼントである、くらげさんステッキである。
デザインから素材から、レックのために生み出された傑作だという。すっかりと出番を忘れていた、哀れなステッキである。
だが、マジック・アイテムなのだ。
そう、マジック・アイテムとは、手にすれば潜在力を引き出してくれる。専用アイテムであれば、あの魔法少女達のように、空を飛ぶことすら可能なのだ。
16歳の誕生日プレゼントを手に、レックは――
「………あの、これで――ぇえええええええっ」
確認をするより早く、レックは自由落下を始めた。
空を飛ぶための結界など、イメージしても、熱気球のようだと、空へ飛び去っていく風船のようだと説明されても、分かるわけもない。
レックは、杖を構えた。
「ばぶる・ふぃぃいるどっ」
レックは、叫んだ。




