体育の授業は、合同授業 2
魔法学校は、魔法の才能を伸ばすための学校である。
かつては、推薦と試験と、その全てに合格する必要があったそうだ。今では、魔力値があれば合格となったという。
それでも、魔力値100を超える人間は多くない。魔法学校へと入学した時点で、将来が期待されているわけだ。
期待の若者達が、たけっていた。
「さぁ、いくぜ――」
「我らの力を、今こそ――」
「やっちゃうぜ、やっちゃうぜ」
3バカが、構えていた。
マッチョでないことが、救いである。年齢はレックと近しい、筋肉が盛り上がるには少し早い12歳から15歳ほどの少年達が、ポーズを決めていた。
さすがに、教室でバトルではない。すぐとなりに、小さなコロッセオがあるとのことで、更に移動であった。
体育館であった。
高い天井を見上げて、レックは感想を漏らした。
「円形かぁ~………」
円形だった。
ドーム型であり、円形であり、かまぼこ型の体育館が普通だと思っていたレックにおいては、ちょっとした驚きだった。
ミノタウロスが、笑っていた。
「ぐっ、ぐっ、ぐっ………体育担当教師が許可する、勇者(笑)レックよ、レーザーを放つがよい………怖ければ、バリアをはってもかまわぬぞ?」
見た目は、魔王である。
マッチョが毛むくじゃらとなって巨大化をして、そして、曲がった角が生えた牛フェイスだった。マーメイドやケンタウロスなど、不思議な種族が共にいるのだ。いまさら、ミノタウロスが増えた程度では驚かないが、迫力がある
レックは、叫んだ。
「スキル・バリアっ!」
6つの水球を、同時にレンズにした。
直系は2メートルほどで、見たままのレンズの形である。並みの攻撃は跳ね返し、受け止め、また、弾力がある水風船へも変化できるのだ。
まずは、強固なレンズモードを選んだ。
ルークが叫んだ。
「マジック・ナックルっ」
バックルが吠えた。
「マジック・タックルっ」
そしてゲンジロウが微笑んだ。
「マジック・頭突きっ」
両手が、肩が、頭が光った3人が、突撃してきた。
半裸のふんどしの理由であろう、全身を魔力で覆って、とりあえず肉体強化に特化した日々なのだ。入学時期はレックと同じであろうに、わずか10日あまりの修行で、見事なる3バカの誕生だ。
攻撃魔法も、肉体能力に特化しているのは、ミノタウロスが教師であるためか、恐れることなく、突撃してきた。
ただ、レックは言いたかった。
「なんでもありッスね――」
前世も、頭を抱えていた。
ナックルに、タックルに、そして頭突きと、全てにマジックと名づけただけの、力技の3人組だった。
猪突猛進に、突っ込んできた。
ちょっとビビってしまったのは、レックだから仕方ない。冒険者のランクはシルバーの<上級>と高レベルでも、経験はザコなのだ。
しかし、ただ、攻撃を受けるだけが戦いではない、レックは、ミノタウロスの言葉を信じることにした。
「………えっと、レーザーもOKッスよね」
ドカドカと、どこどこと、どすん、どすん――と、レックのレンズにひびが入る様子はない。あえてバリアを許可された目的は不明だが、レックはとりあえず、許可されたのだからと、レーザーを準備した。
3つだけ、はなった。
「レーザーぁ~」
ちょっと、おざなりだった。
申し訳ない気持ちであるが、大型のゴブリン程度にしか、危険度を感じなかった。3メートルクラスのボス・モンスターでさえ、一撃なのだ。
レックは、眺めていた。
「………うわぁ~――」
堪えていた。
レーザーは、貫通力があるために、カノン系と言うよりは、むしろジャベリン系といったほうがよいらしい。
しかも、照射時間が数秒ということで、連射に匹敵するという。
3バカは、堪えていた。
「なんの」
「これしき」
「何てことも――」
じりじりと、レーザーの圧力で押されている。
名前こそレーザーであるが、熱水レーザーと言う、思いつきネームの中身は、超高圧の水鉄砲である。
前世の浪人生は、学者ぶる。
水鉄砲を侮るな、コンクリートすら、貫くのだ――
白衣は、デフォなのだろう。しかし、レックはツッコミの気力を持ち合わせていない、平和な脳内の出来事は、放置でよいのだ。
3バカが、吹き飛んだ。
「「「ぬわぁあああ~ ――」」」
それぞれの方向へと、吹き飛んだ。
ストップがかかる可能性も考え、ビクビクしていたレックだったが、バカにしていたと、すこし反省していた。
魔法騎士団の防御陣形すら、集中砲火で吹き飛ばした水鉄砲なのだ。貫通力は5メートルサイズの分厚い皮膚に傷をつけるのだ。
吹き飛んだとはいえ、3バカは、耐えていたのだ。これで無傷であれば、タフネスを褒め称えたいレックだ。
ミノタウロス先生は、上機嫌だ。
「ぐっ、ぐっ、ぐっ………どうかね、勇者(笑)どの、わが生徒達は、この程度で驚いてもらっては困るな――」
くぐもった声で、ぐっ、ぐっ、ぐっ――と、先生が上機嫌だ。
もしかすれば、ミノタウロス先生も突撃してくるのではないか。ボスクラスのモンスターに匹敵する、あるいは魔王様とバトルしても問題ないレベルかもしれない。
レックはそう思っていたが、変身したかっただけのようだ。
3バカは、立ち上がった。
「まだ、まだだ」
「まだ、負けていない」
「俺たちの戦いは、(以下略――)」
一斉に、突っ込んできた。
吹き飛ばされたばかりであるのに、さすがである。レックなどは、大怪我をさせた可能性にビビっていたのだが、逆の意味で、ビビっていた。
前世も、同意だった。
3バカ、すげぇ~――と、ポテチをかじっていた。
レックが考え事をしている間にも、ナックルが、タックルが、頭突きが、レックのレンズを砕こうと襲ってくる。
「3連ナックルっ」
「3連タックルっ」
「3連頭突きっ」
ワケは分からないが、すごかった。
頭突きなどは、目が回らないのだろうか、さすがは、バカを自慢するだけの事はある。体力勝負に特化して、ひたすらに肉体強化に、一途なのだ。
レックは、レーザーを放った。
「「「ぬわぁっひゃああ~っ ――」」」
仲良く、吹っ飛んだ。
レックとしては、ちょっと気の毒だと思った。ホバーUFOであれば、加速となっているが、人間一人など、どれくらい飛んでいくのだろう。
前世は笑う。水流パックを背負って、空を飛んだ人がいたと。
しかし――
「やっべ――おもしれぇ~」
「もっとだ、もっと飛ばして見せろぉおおおお」
「ひゃっは~、食らわせろっ」
癖になったようだ。さすがという他はない、楽しい気分をハッスルさせて、レックめがけて突撃をかましてきた。
自分は飛ぶまいと、レックは誓った。
「レースでも飛んでましたもんね………なるほど、空を飛ぶカギは、レーザーか、悪くない、悪くないぞ――」
メイドさんが、なにかをつぶやいていた。
後半は、中二が顔を出して、つぶやいていた。包帯を巻いた左手を顔に当てて、いい思い付きと言う笑顔を、レックは見逃さなかった。
そう、フラグだった




