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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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勇者(笑)教室の、日常 2



 学校とは、どのような場所であろうか。

 そんなイメージを広大なる敷地に詰め込んだのが、魔法学校である。

 コの字という学校の形が1つだけではなく、校舎はたくさんある。L字型にH字型と、それなりの間をおいて、屋根つきの渡り廊下をつないで、たくさんあるのだ。


 その全てが、日本の学校のイメージを守ってくれている、木々に囲まれ、もちろん花壇もあり、銅像もある。動く二ノ宮金次郎さんの銅像など、ちょっと学校の怪談の印象があっても、ゴーレムで説明が付く、保安システムなのだ。


 レックも、机をタップした。


「………未来の、教室か――」


 机に触れると、立体ノートが開かれた。

 木目が見える、木製の四角い机の癖をして、タップすれば画像が浮かび上がり、そのままスワイプすれば、画像がスライドしていくのだ。

 自然な動作であるのは、レックの前世が教えてくれるためだ。

 ただし、ノートパソコンでなく、スマホでもない。もちろん、タブレットでもない、机に魔力を流しながらタップするだけで、色々と流れていくのだ。


 机すら、ややSFだった。


 なのに、木製の机にしか見えない、角ばって、すこし角が落ちて、そして、色も落ちている古めかしいデザインである。転生者のこだわりを感じさせる、未来的なメカニカルなデザインではなく、あえて角張った木製デザインなのだ。


 画面に触れながら、すらりと横にずらして、ずらして、いくつまで出せるか試したくなって入ると、メイドさんの顔が、現れた。


 じ~――っと、レックを見守っていた。


 子供のイタズラを監視する教師という風景であろうか。いつの間にか、レックの正面まで移動していたようだ。注意をされるのかと身構えるレックは、ハートはいつもの通りのザコであった。


 さっそく、冷や汗であったが………


「では引き続き、この世界の“設定”について学んでいきましょう」


 ドロシー先生が、言い放った。

 きりっ――としたお顔で、言い放った。


 レックの前世などは、のけぞった。

 言っちゃったよ。設定って、言っちゃったよ――と、開き直りにおびえていた。

 レックの脳内では、いつもながら平和である。


 レックは、まっすぐと前を向いた。


「………設定――ッスか?」


 言い方――と、ツッコミを口にしないだけ、自分は大人だとレックは思った。

 せっかくの異世界なのだ。

 神秘とかファンタジーとか、そして冒険にと、お約束を色々と期待して、大きく裏切られた気分でいっぱいだったが、異世界なのだ。


 言いながらも、机をタップして、スワイプして、資料を手繰り寄せているあたり、レックもややSFと言う授業風景に毒されている。

 たくさんのプリントを配られて、机の上が混乱している光景である。立体映像になっているおかげで、余計に混乱しているのは、なぜだろう。地図に、年表に、そして写真にしか見えない肖像画や風景画の数々に………


 あきらめて、レックは前を向いた。


 ドロシー先生は、レックに聞く準備ができたと思ったのか、語りだした。


「この世界を作った神様は確認されてませんし、ステータス画面や、レベルアップのイベントもありませんよ………あぁ、大発生はイベントって言えるのかな――」


 少し考えるように上を向いて、レックも同じく上を向いた。

 まぶしいがやさしい白い輝きの蛍光灯が、一部でチカチカと輝いている。中身はレックの前世が知る蛍光灯とは異なるのだろう。モンスターが出現すれば、レーザーを放つシステムが組み込まれていても、レックは驚かない。


 ややSFが、どこにでもあるのだ。


「………ステータス先生、おれっち、おれっち――」


 転生した初日を思い出し、寂しくなる。

 命のピンチに、前世の記憶を思い出したレックは期待したのだ。チートだと、まずはステータスの確認だと、声を上げたのだ。


 ステータス――と


 メイドさんも、同じことを考えていたようだ。自然とレックと目があうと、ドロシー先生と言うメイド福野お姉さんは、手を前に掲げた。


 そして、叫んだ。


「ステータス・オープンっ――」


 まさか――と、レックは身構える。

 コードは、正しく入力する必要がある。ステータスと呼ぶだけではなく、オープンと、続けねばならなかったのか。

 あるいは、秘密のパスワードがあるのだろうか。


 しかし――


「ね?」


 メイドさんは、かわいらしく手のひらをひらひらとさせた。

 種も仕掛けもございませんと、助手の人が見せつける演技である。そして、レックに改めて絶望をもたらすセリフである。


 そんな設定は、ありません――


 レックも経験しているが、先輩も経験したわけだ。

 ドロシー姉さんというメイドさんは、レックの前の世代の勇者(笑)である。10年に一度ほどの大発生と言うことなら、レックより10歳ほど年長に見えるメイドさんとは、ちょうど時期が合うわけだ。


 解説が、始まった。


「私たち転生者には、前世の知識がありますからね。エルフとかに違和感があったり、城塞都市じゃなかったり、神殿もですね。前世の知識をそのまま当てはめると、なんか違うって思ったでしょ?」


 そのため、転生者は常識を学んでほしいという。大発生が終わったということで、学校を紹介されたのは、そういうことだ。


 レックは、納得だった。


 神聖で神秘と言うエルフのイメージがぶち壊しになったのは、昨年の悲しい思い出である。

 性格は、残念なひゃっは~だったりコスプレだったり、ドワーフ顔負けに大酒のみであったり、そして、賭け事も盛況だった。

 見た目も、服装も、コレジャナイ――という気分でいっぱいだった。

 住まいの風景も同じく、数千年前から変わらない風景だと思っていた。それが木造や石造りでもいい。

 なのに、万博UFOの光景が混ざった、映画の昭和セットと言う町並みだったのだ。


 ドロシー先生も、同じだったらしい。


「ドライアド、トレント、悪魔、地獄の鬼――すべて、同じ種族を言い伝えていくうちに増えていったのかもしれませんね」


 遠い目をしていた。


 レックと年齢が近しい、それは前世の感覚の近さも意味している。色々と情報がたくさんある世界から転生して、思い描いた光景があったはずだ。


 それが、転生者なのだ。


「では、おさらいです――」


 唐突に、ドロシー先生が、先生ぶった。

 本当に魔法学校の先生であり、レックの教室の担当であるために、気分の切り替えが、とっても大変なレックだった。


 もちろん、素直に生徒モードが、レックである。


「冒険者ギルドは、いつからあったでしょうか――」


 ドロシー先生が、レックを指差した。


 クイズ番組のようで、回答者はレックしかおらず、冷や汗をかいてしまう。


「えっと………最初から?」


 不安だった。


 だが、正解だったようだ。ドロシー先生が、拍手をしていた。

 小学生の先生であれば問題ないが、16歳のレックへの賞賛の言葉としては、バカにしているようにも見える。

 レックは、ほっと安心だ。


 先生は、続けた。


「結界で守られた生活範囲は安全ですが、結界の外に用事がある旅人などは、いつ、モンスターに襲われても不思議がないわけです」


 結界のおかげで城塞都市がなく、そして、都市でなくともそれなりの安全が保障されている。

 しかし、結界の外へ向かわねばならないこともある。物資の運搬に、薬草採集に鉱物資源など、すべてに護衛をつけることなどできない。腕に覚えがある人たちに、頼るしかないのだ。


 結界の外は、危ないのだ


 故に、危険を恐れず冒険が出来る人たちが必要とされる。言葉通りの、冒険者と言うわけだ。


 改めて“設定”というか、世界の常識を詰め込まれていくレックだった

 それは前世には懐かしい、眠気との戦いという授業風景である。懸命に起きようと努力をしても、勝利は厳しいのだ。


 そこへ、チャイムの音が鳴り響いた。

 いつの間にか、授業も終わりのようだ。


 ドロシー先生は、微笑んだ。


「次は合同授業です………皆さん、教室を移動してくださ~い」


 メイドさんは、ふざけていた。




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