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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
232/262

商品(レック)は、誰の手に


 弓矢の雨が降る。


 激しい戦場を例える言葉であると、レックの前世は知識人ぶっていた。スマホを片手に、なぜか大正ロマン溢れるハーフマントの学生服を身につけていた。

 ゲタは、オプションだ。


 では、現実のレックといえば――


「へへ、よく生き延びたって………ねぇ、姉さん――」


 ボロボロだった。


 大正ロマン溢れる女学生の衣服は、まずはスライムにまみれ、粘着性のあるために、土ぼこりやその他の破片もへばりつき、金髪のツインテールも、見事にくすんでいた。

 上空では、華麗なるバトルシーンが、リピート再生されていた。


『レック&ハナコペア――1位』


 巨大なテロップが、空中で輝いていた。


 1周目ラストの逆転劇や、盛り上がった皆様の参加の倍増などもリピートされ、さっそく編集が始まったようだ。

 マジカル・ウェポンシリーズの使用は禁止されているが、それ以外の攻撃魔法は、殺傷力を抑える制限があるのか疑問と言う、大盤振る舞いだった。


 一部、効果音がドラマチックだ


「ほら、レックちゃんもやったるから、じっとしときやぁ~」


 マーメイド姉さんが、現れた。


 サポート役に徹したのは、ありがたいと思う。もしも空中からファイアー・フラワーが降り注いできたならば、決して無傷では終らなかっただろう。万が一に備えて、空中から見守ってくれていた姉さんが、魔法を放った。


「えっと――『まはりくマジカル、きれいになぁ~れ』………やっけ?」


 レックは、泡になった。

 昭和のフレーズは、どこかの魔女っ子の影響だろう。転生者の大先輩と言う魔法学校の校長先生がおいくつなのか、疑問に思ってはいけないのだ。


 泡が、こそばゆくレックの全身を駆け巡る。ボロボロの衣装も、くすんでしまった金髪のツインテールも、瞬く間に細かな泡にまみれ、そう思った瞬間には泡が過ぎ去り、汚れも過ぎ去っていた。

 レックなどは、ちょっと学んでみようかと思うほどの能力だ。


「でや?」


 マーメイド姉さんが、どや顔だった。

 ついでといわんばかりに、水玉が平たく、鏡のようにレックの前に現れた。

 レックの水球から変形するレンズに似ている。しかし、鏡のように姿を映す能力は、比べるほうが失礼である。きれいになったレックの姿が、映し出されていた。

 驚きの洗浄力であり、さすがはファンタジーだと、ちょっと感動のレックだった。


「………すげぇ~、魔法、すげぇ~」


 攻撃魔法は日常的に、そして、つい先ほどまでは雨のように浴びてきたレックにとって、こうした生活に便利な魔法は、新鮮だった。


 しかし、いつまでも水の鏡を見つめている猶予は、レックには与えられるわけもない。優勝商品?であるレックは、優勝したあとの扱いは、どうなるのか。

 この待合室においても、待ってくれるわけがない。


 次は、エルフちゃんたちの出番だ。


「レック、せっかく優勝台に上がるんだから、ちゃんとおしゃれしないと――」

「そうだにゃ~、勝利だにゃぁ~っ」


 ツインテールちゃんたちが、ご機嫌だ。


 金髪のツインテールちゃんはレックとおそろいのはかま姿で、銀髪のツインテールちゃんは、春をイメージしたピンクと言う派手なパイロットスーツであった。


 楽しそうに、アイドル衣装を手にしていた。


 レックを着せ替え人形にするつもりだ。コハル姉さんと言う金髪のエルフちゃんはいつものこととして、銀のツインテールのラウネーラちゃんも、やる気だった。

 久々に賭けに勝ったという喜びで、とってもご機嫌なのだ。


 ドワーフちゃんが、背伸びをしてきた。


「久々の勝利だって、ご機嫌なんだよ」


 背が足りず、レックがしゃがんだ。


 それがいけなかったのか、むしろ正解だったのか、エルフちゃんたちがレックのヘアセットに入った。

 レックには、全てが成すがままである。逆らう気持ちなど、もとより持ち合わせていない、空を見上げた。

 待合室も広大で、50人ほどが余裕である、窓もとっても大きかった。

 青空が立体映像で埋め尽くされているために、クライマックスシーンのリピートを見つめることになった。


『しかし、ジロウ先生の愛馬である次郎丸が、まさか空を飛ぶとは………』

『局地的に足場を発生させ続けて、空をけるというべきでしょう。しかし、惜しむべくは――』


 バイク部のロビン先生の驚きの顔まで、ズームされていた。次郎丸じろうまるという漆黒の馬が空中へと躍り出て、追い抜いていったのだ。

 地面が悲しいトラップゾーンの痕跡だらけになった3週目において、もはや走ることは困難。馬にとっては危険ゾーンであれば、安全対策だったのかもしれない。


 馬が、空を駆けたのだ。


 一方のバイクは、空を飛ばなかった。

 でこぼこ道をひた走るロビン先生は、空中へ躍り出る能力を持ち合わせていなかったのか、あくまで地面をタイヤで走ることにこだわっていたのか、レースの結果は最下位だった。


 それでも――


「全員ゴールしたんだもんな………っぱねぇ~」


 レックは、すごいと思った。

 上から目線であるはずがない、素直なる感想だ。だれも脱落することなく、3周という戦いを生き延びたことは、すごいと思うレックだった。

 他の立体映像を見ると、横断幕にクラブの名前をでかでかと、全員が儀式魔法か、巨大な魔法を発動させている姿が映し出されていた。練習用ではない、ボスを討伐するつもりの魔法を、マジで使っていたようだ。


 それでも生き延びるのが、レックたちなのだ。


 隣では、マーメイドさんとエンジェルさんが、馬の姉さんのヘアセットに入った。

 おそろいにするらしい。


「よせよ、オレはそんな柄じゃ――」

「ちゃうちゃう、そこはキャラじゃない――って言うらしいで?」

「私としては同じに感じるけど………まぁ、たまにはおしゃれなさい――ミニスカとか、挑戦する?」


 騒いでいた。


 上空では、大騒ぎだ。

 立体映像は名場面をリピートしていた、レックが安全な場所へレーザーを放って加速させ、そして、ホバーUFOのバリアを信じて、サーファーのように馬の姉さんこと、ハナコさんが大活躍だ。

 追いすがるようにマジック・ショットやマジック・アローと言う下級魔法をはじめ、一部では中級のカノン系、ジャベリン系まで降り注いで、そして、駆け抜けたのだ。

 さぞ、地面はかわいそうなことになっただろう、巻き添えで負傷者がどれほどでたことか、死者が出なかったのが奇跡だ。


 レックは、つぶやいた。


「舐めてたよ、魔法学校………いや、ホント――」


 前世も、同意していた。

 ハーレムを希望する贅沢は言わない、それでも、学園ものであれば、お約束がたくさんあって、ちょっと楽しみだったのだ。


 現実は、ハードだった。

 命のピンチと言う意味で、ハードだった。


「こんなもんかな?」

「にゃ~っ」

「………ちょっと、ハデじゃね?」


 エルフちゃんたちは満足そうに、ドワーフちゃんは不思議そうにしていた。

 レックのお着替えは、気付けば終わっていた。足元がスースーするミニスカなのは、いつものことだ。鏡で見るのが恐ろしい、フリルもたっぷりのミニスカで、ノースリーブと言う肩がちょっと寒い服装だ。

 しかし、フリルのおかげであまり寒くもない、見事である。


「どう?」

「おそろいだにゃ~」

「リボンが似合うようになったな………」


 おそろいなのだろう、全員がポニーテールになっていた。


 部屋のメンバーの《《全員》》である。


「ほら、レックちゃんも並んだ、並んだ――」


 マーメイドの姉さんに促されるまま、レックは並ぶ。

 今回のレースのパートナーである、馬の姉さんの隣に並ぶ。フリルたっぷりのミニスカノースリーブのアイドル衣装と、そして、ヘアスタイルはおそろいのポニーである。

 リボンカラーはレッドのレックに、緑のハナコさんであった。


 互いに、同時に見つめた。


「「………???」」


 言葉は、なかった。

 互いの姿を、しばし見つめる。おそろいと言うことで、自分も同じ姿と言うことで、言葉がなかったのだ。

 前世だけが、騒いでいた。アイドルユニットの、誕生だと――


 沈黙を打ち破ったのは、外の騒ぎだった。


『えぇ~、協議が終りました。チーム戦を想定していなかったため、試合そのものを無効とする意見や、掛け金を折半と言う意見などがありましたが………』

『校長のひと声で決しました、掛け金は折半として、バイク部顧問のロビン先生および、馬術部顧問ジロウ先生に賭けていた人たち、残念でした――』


 ブーイングと、それを上回る歓声が、会場をおおった。


 優勝商品は、レックだった。

 正しくは、レースに勝利したクラブがレックを勧誘する権利を有するという迷惑な話であり、レックに選択権など与えられていなかった。


 勝利以外に、道はなかった。


 バイク部 VS 馬術部 


 基本はそれであり、商品であるレックが優勝した場合は、自由に選択できるわけだ。

 クラブ活動が熱心な学校なのだろう。レックを取り込むためには、レースに勝利してもらわねばならないのだ。

 そのため、バイク部と馬術部を妨害する皆様と、そして楽しければ何でもOKと言う皆様が混戦して、乱戦が始まったわけだ。


『○キブリほいほい』をしかけたクラブだけは避けようと誓ったレックだが、では、商品であるレックが、誰かと組んで優勝した場合は、どうなるのか――


 レックは、手を引かれた。


「行くわよ」

「いくにゃ~」


 ご機嫌なエルフちゃんたちが、レックの手を取った。


「ほらほら、覚悟をきめな~」

「そうよ、いつもの勢いで――」

「いや、だってこの格好は――

「似合ってるぜ?」


 馬の姉さんは、しり込みしていた。

 ライダースーツやパンツルックがデフォと言う、背の高いお姉さんである。ミニスカートは、苦手のようだ。


 しかも、派手なカラーリングの上、フリルもたっぷりだ。


 レックは、先人ぶった。


「慣れッスよ、ねえさん」


 まっすぐと、前を見ていた。


 優勝台が、輝いていた





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