初めての、部活? 11
まるで、サーフィンだ。
馬の姉さんが仁王立ちになっている姿を見て、レックは思った。上空の立体映像を見つめると、サーファーが波に乗っているように見えたのだ。
相棒のホバーUFOの上で仁王立ちになっている姿が、かっこいい
そして、お名前が判明した。
「………ハナコさん?」
ハナコさんという、とっても和風なお名前だった。
いや、メガネという馬術部顧問の馬の人も、ジロウ先生である。バイク部顧問はロビン先生で、テクノ師団のおっさんはゴルックとバラバラでは会ったが、和風の名前があっても、おかしくなかったのだ。
馬の姉さんは、きょとんとしていた。
「そっか、オレらは名前で呼び合ったことって、なかったっけ………」
姉さん――としか呼ばず、あまり会話をすることもなかったレックは、いまさらながらに、新鮮さを感じていた。
衝撃も、感じていた。
「………?」
「へっ――」
レックは疑問を、そして、馬の姉さんことハナコさんは、笑みを浮かべていた。
そして、レックの肩に手を置いた。
「いいから、前を向いてな――」
レックは、ハナコさんの言うままに、前を向いた。
そういえば、何かを通過した気がするが、気のせいなのだろう。レーザーを放って、照射時間が終ったと思えば、全て1つのことに意識が奪われたのだ。
そっか、ハナコさんって言うんだ――と
なれなれしく、アーマー・5の皆様と名前で呼び合うことはなかった。バトルシーンばかりで、そのあとはプライベートの付き合いはなかった、女子の中で、ひたすら呼ばれるのを待つ付き人が、レックにふさわしい立ち居地なのだ。
解説が、相変わらず叫んでいた。
『魔法騎士団が、まけたぁあああ』
『まぁ、相手は勇者(笑)ですからね、立ち向かった勇気をたたえるべきでしょう』
プレイバックされていた。
200という数は50人ずつ4列に並び、そして、レックのレーザーを真正面から受け止めて、防ぐという隊列だった。
シールドの実地テストという本日だったわけだ。いずれという話だったが、せっかくレースをして入るので、やってみたと言うわけだ。
結果――
「………わすれてた」
「はっはっは~――、気にするなっ」
馬の姉さんは、ご機嫌だ。
サーファーのように相棒のホバーUFOに仁王立ちになって、どのようにしているのか、そのまま操縦していた。
一直線であるためか、いいや、違うとレックは思い出した。
姉さんの命令によって、思い出した。
「レック、そろそろカーブだ、左に曲がるんだからな、狙うのは、広報の、右斜め下だからな――」
命じられるまま、レックはレーザーを放った。
真下に放ってしまえば、即座にひっくり返る。右斜め後方へ1つ、それも、かなり離れた場所を狙って、レックはレーザーを放った。
地面に向けて、とっても長い棒を伸ばすイメージだ。
あるいは、巨大な棒で舟をこぐ人をイメージして、今はコーナーターンで足を地面に付ける荒業の気分だ。
漫画やアニメでは足をカーブにつける無茶をするが、リアルですれば、骨折だよな、事故だよな――と、レックの前世はつぶやいてる。
ついでに、馬の姉さんは、ハナコさん――と、スマホにメモしていた。レックの脳内は、平和なようだ。
レックは、目を見開いた。
「げっ――」
馬の姉さんも、うなった。
「させるかっ!」
いやらしいトラップだ。
カーブを曲がったところに、5メートルを超える岩山が、立ちはだかっていた。バリアのおかげで命に別状はないだろうが、それでも、激突の衝撃はバカに出来ない。
いや、急角度であるために、上空へと躍り出る可能性のほうが、とっても高い。
馬の姉さんは、叫んだ。
「かがんでろっ――」
馬の姉さんこと、ハナコさんの命令だ。
レックは、言われなくとも頭を抱えて縮こまる。水風船を発動させるべきだろうが、馬の姉さんには、なにか考えがあるようだ。本能的に水風船を発動させれば、邪魔をしてしまうと、レックは必死に押さえた。
正解だったようだ。
「はっはぁあああ~」
姉さんは、ノリノリだった。
大波を乗り越えたサーファーのように、ノリノリだった。ホバーUFOには、空中で踊る能力まであったのだろうか、ホバー程度の浮遊の魔力では不可能だが、風が、味方になってくれた。
風に乗ったお魚さんが、大笑いだ。
「あははははは、あんた、それやるか?」
マーメイドの姉さんは、空中を旋回しながら、大笑いだ。
5メートルを越える岩山へと、正面衝突をした。
ただ、垂直というわけではない、そして、衝突までのわずかな時間がある、ホバーUFOの能力で接触することはなく、むしろ、その勢いを利用して上空へと躍り出たのだ。
「ちょ――」
レックに、何ができよう。
そして、眼下の光景の皆様も、何ができるだろう、しばし見つめて、レックはその光景を見つめて………
すべての轟音を、馬たちを、置き去りにした。
「おっさきぃいいいいっ」
ハナコさんが、ご機嫌だ。
落下速度を利用して、風の流れをもホバーUFOの能力で利用して、風に乗ったかのように直進したのだ。
まさに、波乗りだった。
「………?」
レックは、座っているだけだった。バリアの命令があれば即座に、地面の衝撃が危険であれば水風船にするつもりだった。
浮遊感のみがあり、無重力気分のまま、今となった。
色々と追い越した気がするが、実感がなかったのである。
代わりに、解説が興奮していた。
『逆転、逆転、逆転だぁああああ』
『すばらしい機転ですね。ハナコ選手のホバーUFOの能力に加え、勇者(笑)レックのレーザーの勢いがあったからこその荒業でしょう。しかし、今の操縦テクニックは、まさに大波に乗ったサーファーといった――』
とっても、興奮していた
会場の興奮も、歓声となって聞こえてくる。上空の立体映像から漏れてくる音声だけではない、スタート地点のコロッセオが近づいているためだろう。
遠くで、にゃぁあああ~っ――という、どこかのエルフちゃんの叫び声が聞こえたが、絶望の悲鳴ではなく、勝利の高揚であった。
冷静な声が、水を差した。
「まだ2周もあるのに、気の早いことですね ――」
バサ――と、エンジェルのツバサが羽ばたいた。
1周目を通過した合図だった
いつの間にか用意されていたのか、上空ではカメラアイ・ボールの人たちが補佐をしていた。
順位も、映し出されていた
レック&ハナコペア――1位
続いてロビン先生とジロウ先生が2位と言う、4人のレースが、2チームのレースのようになっている不思議である。
しかし、レックは思った。
「あと、2周か――」
ちょっと、お疲れだった。




