目覚めよ、オレっ
レックは、悪夢を見ていた。
結局は、攻撃魔法を放つことは出来なかった。あるいはと、雷を生み出した。純粋な雷撃もかっこよく、レール・ガンが出来れば、最高だと………
あきらめて、早めに就寝したのだ。
そして、悪夢を見ていた。
「や、やめろぉ~………異世界なのに、ジャパニーズ・ホラーなんて――」
うなされていた。
悪夢だとわかる分、たちが悪い、悪夢が始まるとわかっている、恐怖の記憶が始まっていた。
「進行役かよっ!――」
レックは、叫んだ。
そして、目覚めた。
「はぁ………はぁ………悪夢か」
コートに身をくるみ、その上に旅の毛布までかぶった、野宿スタイルだ。安全性にも自信があります、もちろんテントセットである。
頭上では、クリスタルが輝いている。電球ではなく、ランタンでもなく、マジック・クリスタルである。
この世界は、電気の変わりに魔法で明りを得ている。このあたりはファンタジーであり、レックは少しうれしかった。
さらに、簡単な結界を張ることも出来る。無防備な布のテントというより、頑丈なレンガの家である。
いや、本当の防御力は板切れの小屋だろうか、どちらにしろ、布張りのテントよりは頑丈だ。
レックは、周囲を見渡すように、探知魔法を発動させる。
「スキル・探知っ!」
言ってみただけだ。
集中するため、なにかを口にすることも、大切だ。掛け声をかけて、自らに気合を入れるのだ。
ロボットアニメで、敵キャラに聞こえているわけでもなく、なぜ、叫ぶのか。
たぶん、これが答えだろう。よっこらせ――と、声を出して荷物を持ち上げるようなものだ。
おっさんには早いが、注意したい。
「周囲にモンスターに、人影もなし………か」
ほっと、ひと息をつく。
ことあるごとに、使うようにすればいい。そうすれば、当たり前のように使えるようになり、負担も少なくなる。
そして、歩きながら探知できるようになり、いずれは戦いながら周囲を警戒するように、探知魔法を使うことが出来るようになる。
カルミー姉さんの教えである。
ようやく探知魔法を使えるようになったレックなのだ、新鮮であり、バイクで立ち止まったとき、眠る前、朝起きたときと、ことあるごとに発動させている。
いまは、必死に警戒していた。たのむ、だれもいるなよ、誰もいるなよ………と、祈りながら集中だ。
人がいなくて、幸いだ。もしも声に出して叫んでいれば、駆けつけてくるかもしれない。同業者なら、最悪だ。
――おい、大丈夫か?
――どうした、今の悲鳴はなんだ?
こんな質問をされて、何と返事をすればいい?
レックは、本当に、ほっと一息を付いた。
「やらかした転生者………ぶっとばすっ!」
心に、誓った。
ジャパニーズ・ホラーを、この世界で実現させやがったのだ。
間違いない、日本人だ。いいや、もしかしたらハリウッドの転生者の可能性もある。ハリウッドでもリメイクされたのだ。
どちらにしろ、ぶっ飛ばす。
そのためにも――
「そろそろ、朝か………」
テントの隙間から、外も見つめる。探知魔法は便利だ、少なくとも、魔法を満たした範囲にモンスターがいるのか、人がいるのか、分かるのだ。
「探知は、けっこう普通に使えるようになってきたな………あとは、攻撃魔法か………弓矢レベルでも、数十発一箇所に集中すれば大ダメージで、中級魔法だっけ――」
魔力の圧縮と、解放が基本だという。
火薬の変わりに魔法薬で、魔法攻撃を放つマジカル・ウェポンシリーズは、それを技術的に再現したアイテムだ。
魔法を放つ、その引き金のための魔力さえあれば、扱えるのだ。
下級魔法を覚えるよりも、アイテムに頼って、マジカル・ウェポンシリーズに頼って、なにが悪い。
しかし、弾切れの恐怖や、応用の悪さと言うか、加減のむつかしさというか………
「下級のショット系に、中級のカノン系………基本は同じ、魔力を圧縮して、解放する。見えない銃身を作るイメージで、爆発で、スリング・ショットで………」
サイズの違いで、大砲なのだ。
ショットが、カノンとなるのだ。下級攻撃魔法が基本であり、威力を高めれば中級になるという説明は、そういうことだ。圧縮される魔力の制御そのほか、高等技術になっていくだろうが………
山のサイズなら、町がつぶれる、考えただけで恐ろしい、上級魔法である。
集中力も、必要だ。
さもなければ、自爆である。
ゼファーリアの姉さんのようなファイターなら、こぶしに魔力を集中、直接爆発力を攻撃力にすることも出来るが………
「あれ、アクティブアーマーだよな、自爆の連続だよな………」
自然に行えるために、あれも才能なのだ。レックがアイテム・ボックスを使うように、教えられなくとも、出来たのだろう。
目の前で爆発が続いて、怖くないのだろうか。その度胸の違いと言うか、無謀と言うか、本能でわかるのだろう。レックには、とてもまねの出来るものではない。
やはり、射撃、砲撃が一番だ。
「よし、もう一度………湯柱は立ったんだ、あの圧力だけを使えば、ショット系の魔法は使えるはずなんだ………カノン系はムリでも、きっと………」
両手を、天に伸ばす。
圧力を限界まで高め、それでも高め続けて、自らの限界を上げていく。このギリギリを見誤れば、自滅である。
勇気の見せ所だと、レックは目を見開いた
「………あちちちちちっ」
またも、湯柱だった。




