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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
225/262

初めての、部活? 5


 立体映像が、空中に投影されている。

 カメラアイ・ボールの皆様が、あらゆる角度からレースの状況を実況中継しており、それを無数のリアルタイム映像として、空中に投影しているのだ。

 ルールを聞き逃していたが、妨害も自由のようだ。


 レックは、見上げていた。


「ほんと、前世の技術って負けてるよな………」


 ややSFの光景を、見上げていた。

 拘束魔法『ゴ○ブリほいほい』に捕まったレックは、現実から逃げ出そうと、がんばっている皆様を見上げていた。


 ほんの、数秒の出来事だった。


「ほらほら、ちゃんとレースせんと、あとで――」


 あきれたようなセリフが、恐怖だった。

 上空を旋回中のマーメイド姉さんのセリフは、最後まで言わせてはならない。フラグであると、レックは強引に起き上がった。


 あとで――


 その続きを耳にしてしまえば、逃れられないフラグなのだ。

 マイクのおかげか、レックのそばでささやいたようにも感じた。旋回しつつ、それなりの距離がありつつ、くっきりと声が聞こえた。


 レックは、あわてて起き上がる。


「レーザーっ!」


 6つの水球を発生させ、地面をえぐった。

 地面に縛り付けられたのなら、地面ごと引き抜いて動けばいい。そんな力技が主人公にはお約束で、レックには貫通力のあるレーザーがある。ホイホイの粘着スライムがどれほど地面に浸透しているのか、しかし、全て消し飛ばせばいいのだ。


 あとで、どんなことを言われるか――


 その程度なら、小物パワーと下っ端パワーで回避できるかもしれない。


 あとで、どんなことをさせられるか――


 情けない敗者として、むしろこちらが想像できる。ムチャな修行と、スーパー・ハードが日常の世界が生ぬるいと思える未来が、レックには予想できた。

 そのフラグはへし折らせてもらうと、レックはあわてて起き上がった。


解説の皆様も、レックの動きを見守っていた。


『おぉ~っと、リタイアかと思われた勇者(笑)レック、得意のレーザーで抜け出しましたぁあああっ』

『ちょっと、ひやひやしましたね。予想外にリタイアって言うのも、勇者(笑)ならばアリだと思いましたが――』


 レース場は、戦場だ。


 バイクのバリアを信じているのか、遠慮なく妨害が入っている。そして、それを一切注意しないあたり、魔法学校の恐ろしさを感じさせる。


 目的は、部員確保だ。


 レックと言う、マスコットの確保なのだ。魔女っ子を捕まえたいのか、勇者(笑)という名前を欲しているのか………

 飛び入りのケンタウロスの姉さんはおいて、馬術部とバイク部のどちらかが優勝すれば、商品であるレックの入部は確定だ。


 他のクラブにとっては、避けたい事態だ。


 なら、レックを優勝させればよい。邪魔をするため、馬術部のジロウ先生とバイク部のロビン先生を攻撃すればいいだけのことだ。


 もちろん、レックに負けてほしい勢力からも妨害が向かうわけだ。ただの巻き添えやミスショットの可能性もある。


 レックは、叫んだ。


「手に入れるんだ、自由をっ!」


 そして、一歩を踏み出した。

 ねとねとであることには変わりないが、動くことは出来る。魔法を使えばなんとでもなると………


 レックは、悲鳴を上げた。


「あああああ、エーセフっ!」


 見るも、無残だった。

 粘着質のスライムがねっとりと、タイヤがまともに動くとは思えない状況であった。乗り物対決であるために、このままでは敗北だ。

 解説も、心配している。


『おやおや~、勇者(笑)レック、トラブルのようです』

『さすが、伝説のゴキブ○ほいほいですね。希望を抱いたと見せかけて、やはり無理だったというオチでしょうか――』


 上空の立体映像では、レックのピンチが映し出されている。

 他にも、先頭をゆく馬の皆様の活躍が映し出されている。アーマー・5(ふぁいぶ)の姉さんの走りはいつもどおりで、バリアの突進は、一輪バイクモードでも問題なく発揮されている。ロビン先生のバイクも同じく、更に巨大で、多少の弓矢の雨や魔法の弾丸の雨など、モノともしない。


 馬に乗ったメガネという馬の人が不安だったが………


「バイクと同じ速さの馬って………いや、ファンタジー異世界だって、忘れてた」


 レックはしばし、見つめていた。


 馬とバイクの、どちらが早いだろうか。高速道路を突っ走る大型バイクが、すでに答えを出しているはずなのに、拙者というジロウ先生がのる次郎丸じろうまると言う馬は、漆黒のオーラを放ちながら、突撃していた。


 足を踏みしめるたびに地面に輝きが生まれ、走る弾丸と言っても過言ではない、むしろ砲弾という破壊の突撃が、あらゆる攻撃を無意味にしていた。


 マーメイドの姉さんが、ツッコミを入れた。


「レックちゃん、リタイア宣言するなら、うちの魔法でキレイにしたるけど?」


 含み笑いが、恐ろしい。

 上空を旋回しているグライダーのマーメイドの姉さんは、レックが勝利しても、敗北しても、どちらでもよいのだ。

 どちらでも、面白いためだ。


 レックは、相棒にまたがった。


「へへ 、………あきらめたら、勝負は終わりってね――」


 バイクの機能として、ファンタジーでお約束があればよかった。

 召喚されたアイテムは、一度戻し、再召喚すれば元通り。スライムに粘着されたバイクも、一度宝石に戻して、そして召喚すれば、元通り………


 そんなオプションがあるのか、レックは確かめたくなった。


 だが――


「スキル・トランポリン・ジャンプっ!」


 レックは、叫んだ。


 久々に、脳内でコマンド音声が響いた。ぴろりろりん――という効果音も、もちろん響いている。


 スキル・トランポリン・ジャンプを会得しました――


 使用しますか? YES / NO


「やってやんよぉおおおおっ!」


 ちょっと、ヤケだった。

 上空の立体映像にも、レックの豹変振ひょうへんぶりが映し出されている。長くなった金髪は、エルフちゃんたちによってツインテールにさせられている。服装は、大正ロマン溢れる女学生のファッションだ。


 ○キブリほいほいに捕まったため、映像としてはかなりえぐいだろう。しかし、今は逃げ出すことはできない。バイクが走らないなら、自分が走ればいい。

 ケンタウロスなら、バイクを背負って、馬モードで駆けるだろう。


 では、レックは?


「うわぁ~………勇者(笑)らしいっちゃ、らしいけど~――」


 上空のマーメイド姉さんが、あきれていた。

 気にするレックではない。

 気にする余裕もない、バイクにまたがった状態で水風船を発生させた。トランポリンジャンプとは、すなわち、そういうことだ。


 爆発的に、水風船を膨らませた。


「ぎゃぁああああああ――」


 レックは、叫んだ。


 ヤケでやらかして、自分ながらも悲鳴を上げる事態である。トランポリンはエアクッションという、ゴムボールでもよい、ともかくも、着地した時点である程度クッションを期待でき、数十メートルの上空からの着地でも無傷である。


 その勢いで、更にジャンプだ。


「おわぁああああああ――」


 さらに、叫んだ。


 そして、思った。これは、エルフちゃんたちに連れまわされた光景が、そのまま再現されていると。

 エルフちゃんたちのジャンプを、自分で再現できていると――


 解説も、驚いていた。


『おぉ~っと、勇者(笑)レックの、新たなるスキルかぁああ !?』

『なんと、水魔法でゴキ○リほいほいを消し去るのではなく、レーザーを推進力にして進むでもなく………なんと、これは――』


 言葉が出ないようだ。


 それは、レックも同じだ。ただただ、叫んでいた。エルフちゃんたちに連れまわされた光景のままに、叫んでいた。


 地面が急接近して、そして、離れていくのだ。


「と、とぉおおおお~」


 冷静な部分で、レックは思った。


 その手が、あったか――


 水風船を小さくして全身を覆うか、あるいはレンズ状態でもよい。そして、レックは全身を水風船というバリアで覆った状態でも、レーザーを放つことが出来る。角度を調整して地面に向ければ、推進力に利用できたのだ。


 もっと早く、言ってほしかった。


「あ――」


 着地をすれば、実行しよう。

 レーザーで、逆噴射で落下の勢いを操作して、ゆっくりと着地。そこからは、解説の人がヒントをくれたように、ジェット推進しようと――


 馬が、目の前だった。


「よ、よおおおおお」


 よけてください――


 レックの叫びは、果たして届いたのであろうか。

 マジック・ショットやマジック・アローの雨あられの中、あるいは地面が陥没し、または水溜りになる中、なぜか駆け抜ける皆様は、轟音の中にいるのだ。


 レックは、突撃した。




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