初めての、部活? 2
入学式は、戦いだ。
それは、高校デビューに意気込む思春期の感情を表したものだったのか、レックには分からない。学校と言う場所すら、レックには初めての体験だったのだ。
だが、分かることもある。
戦いだ――
「へへ………やっぱね、異世界の学校、しかも、魔法学校なんだから、一筋縄で行くわけが――」
レックの頭の中では、前世が頭を抱えていた。マニアが対立すれば、戦争になると言ったではないか、こうなると言ったではないか――と
聞いていない――と、レックはツッコミを入れて、殴りかかりたい気分だ。
もちろん、レックの脳内の出来事だ。レックは他人事であると、騒ぎを見つめていたのだが――
「じゃ、レック――」
「がんばるにゃ~――」
エルフちゃんたちが、レックの背中を押した。
大正ロマン溢れる女学生のはかま姿に、長くなった金髪はツインテールというレックである。おそろいの金と銀のツインテールのエルフちゃんたちが、そんなレックの背中を押したのだ。
巻き込まれて来い――と、微笑んでいるのだ。
「ちょ――」
押されたレックは、争いの中心へと躍り出ていた。
事故だったんです――そういって、皆様の顔を見上げるレックは、フラグを口にする必要もなく、確信した。
フラグった――と
「おぉ~、バイク野郎として、レックも参加したいんだな」
巨大なバイクが、ぶるるん――と、うなり声を上げていた。
ロビン先生の相棒だ。
「伝統ある相棒がいることも、拙者が新入生に教えねば――」
細身のケンタウロスのジロウ先生は、そう言うと指笛を吹いた。まさかと言う、指笛である。一体何が出てくるのだろうか、異世界ファンタジーと言う世界でありながら、ややSFに発展しているのだ。
ロボでも、呼んだのだろう。
「おいレック、日本人ならUFOだろ、UFOだよなっ!」
ケンタウロスの姉さんは、もちろん一輪バイクだ。
モノサイクルと言うのか、巨大な一輪のタイヤの中に運転席がある、ややSFと言う乗り物であった。
UFOへの変形は、オプションだ。
UFOモードでないのは、アーマー・UFOへと変身していないためだろう。乗り物へ乗るだけで変身するのが、こだわりなのだ。
マーメイドの姉さんも、グライダーでレックを連れ去るときには変身していた。きっと、そういうこだわりなのだ。
そこへ、またもやひづめが近づいて――
「ひひぃぃいいいん――」
高らかに、鳴いておいでだった。
むしろ、レックには驚きだった。新たなるケンタウロスかと思っていると、赤と白のしめ縄をした馬が、黒々と輝く見事なる馬が、走ってきた。
暴れん坊の将軍でも、乗っていそうで………
馬だけが、走ってきた。
「待っていたぞ、わが相棒――」
ジロウ先生が、両手を挙げていた。
馬が、ジロウ先生の手前で止まる。よく訓練されているのだろう、周りの皆様を蹴飛ばしつつ突撃の勢いも、その程度は問題ないという魔法学校の関係者を信じているはずだ。
改めて、紹介された。
「紹介しよう、拙者の相棒『次郎丸』だ」
ジロウ先生は、メガネを、くいっとさせていた。
ジロウと言う名前だから、次郎丸なのだろう。しかし、しかし――なのだ
「馬だぁああああ――」
レックは、叫んだ。
ケンタウロスの相棒は、まさかの馬だった。
5分後――
空中に、立体映像が浮かんでいた。
小春日和の、入学式としては理想の陽気において、上空に浮かんでいた。
レックは、見上げていた。
「エルフの国だと当たり前に見てたけど………前世、負けてるよな――」
前世で例えれば、巨大スクリーンであろう。アリーナでも競技場でも、液晶がLEDに照らされて、ハデにパフォーマンスをしているだろう。
この世界においては、立体映像が、その周りを飛び回るカメラアイ・ボールの皆様が、イベントの宣伝していた。
レースの、始まりだ。
『さぁ、さぁ~、いきなり始まりました、乗り物対決。勝利するのはバイク部顧問のロビン先生か、馬術部顧問ジロウ先生か、はたまた、飛び入りの紅一点、一輪バイクのアーマー・UFOのお嬢様か。そして――』
『入学式においては、あくまで得意技を禁じられた勇者(笑)でありましたが、乗り物の対決となると、どうなるのでしょう。バイク勝負に、目が放せません――』
司会の人たちが、さっそくマイクを片手に叫んでいた。
その背後には、いつの間にかホワイトボードが準備されている。オッズはそれぞれに予想を立てて、分かりやすいのはバイク部と馬術部の顧問という、魔法学校の関係者には情報がそろっている先生たちだ。
馬 VS バイク のオッズが同等と言う、驚きだった。
そして、アーマー・5がいつから活躍しているか、馬の姉さんというアーマー・UFOのデータも、それなりにあるらしい。突撃力は巨大なバイクに比べれば見劣りするのは仕方ない、そもそも、形状から全てが異なるのだ。
当然、レックのバイクの腕も、それなりに知られている。個人情報保護法のないこの世界において、当然のようだが………
エルフちゃんが、レックの腕にしがみついた。
「レック、信じてるにゃっ」
銀色のツインテールのエルフちゃんが、必死だった。
今度もまた、レックの勝利に賭けているのだろう。バクチ打ちは救われないと言うか、負けフラグにしか思えなくなった悲しさである。
ピンクのパイロットスーツは、華々しい入学式に合わせたカラーリングなのだろう。猫耳と尻尾のセットもいつものことのラウネーラちゃんは、必死だった。
そして、もう片方の金髪のツインテールちゃんは、よい笑顔だった。
「大丈夫、わたしも信じてるわよ?」
ニコニコと、いい笑顔だった。
悪いことを考えている、いたずらっ子の笑みである。レックとて、一年近くコハル姉さんと言うエルフちゃんに振り回されてきたのだ。見た目は12歳と言うお子様の姿に、決してだまされてはならない。
何かを企んでいると、分かっていて関わってきた過去が物語る。
レックは、空を見上げた。
「ステータス先生、おれっち、今日もがんばってますぜ」
転生したのも、そういえば夏の前、そろそろ転生して一年になろうとしている。そういった思い出がよみがえる。
そして、アイテム・ボックスから宝石を取り出した。
ややSFのバイクが封じられている、魔法の宝石であった。容量はそれほどではないが、バイクの持ち運びに便利なアイテムだ。
大きく、腕を振り上げた。
「こい、エーセフっ」
レックは、相棒の名前を呼んだ。
バイクに乗って、旅に出よう――
いったい、いつから夢見ていたことか、レックが転生して、この世界外世界ファンタジーだと確信したときからだ。
チートと言う魔法の力で、いろいろと足跡を残しつつ、異世界を満喫するのが異世界転生主人公の物語のはずだ。
ネットでも、本棚でも………
レックは、相棒の頭をなでた。
「………旅立ちって、いつだろうな、相棒――」
転んでも安心だ、ヘルメットやプロテクターの必要がない、バリア搭載のバイクである。ややSFに思えて、これも魔法の技術だろう。
いや、優れた技術は魔法と変わらないと言う言葉があったようで………
レックは、エーセフにまたがった。
『では、ルールを説明します』
コロッセオの解説の人は、今度も司会を引き受けてくれるようだ。
後ろでは、忙しくボードが準備されて、そして、受付も始まっている。ラウネーラちゃんも、駆け出した
がんばるにゃ~――と言うセリフを残して、駆け出した。
まだ、出発まで少し時間がある。負けフラグにしか思えないセリフを残して、そして、優勝の商品はなにがあるのかと考えて、レックは前を向いた。
聞き逃しては大変だと学んでも、ついつい、周囲に意識が向いてしまうのだ。
巨大なバイクに、巨大な馬に、モノサイクルという一輪バイクに、そして、レックも小型バイクと言う、乗り物に乗ったメンバーだ。
レックのほかは、ケンタウロスだ。
レックは、拙者――と自己紹介をしてくれたジロウ先生を、細身のケンタウロスの眼鏡さんを、そっと見つめた。
「馬が、馬に乗って………」
まさかの、馬の人の相棒は、馬だった。
乗り物が開発される以前は、どうしていたのだろう。その疑問の答えは、馬として出された気がする。
レックが意識を馬に持っていかれた間に、説明も終っていたようだ。周囲の盛り上がりで、レックは現実に戻される。
フラッグをもったエンジェルさんが、羽ばたいた。
「それでは――」
フラッグが、はためいていた。




