初めての、部活? 1
入学式は、緊張の連続であった。
本来は、そのように締めくくって終わりのはずだ。初めての教室に、初めてのクラスメイトと、レックは前世の知識で色々とシュミレーションをして………
現実は、予想外の連続だった。
そして、放課後――
「がぁ~、はっ、はっはぁ~――待っていたぞ、バイク野郎!」
とがったグラサンというマッチョが、高笑いをしていた。
馬――と刺繍されたタンクトップで、笑っていた。
入学式は、終った。
クラスメイトがいない不思議を味わった朝の孤独と、突撃してきたアーマー・5の楽しさと、驚きの入学式はコロッセオでバトルだった時間は、過ぎてみれば、ただの思い出だ。
レックは、立ち尽くしていた。
「部活かぁ~――」
そう、入学式は、終ったのだ。
次は、部員の勧誘という、新入生の争奪戦が待っている。コロッセオで入学式が行われた理由として、襲撃も予定にあったのだろう。
まさに、襲撃だった。
「魔道書研究会に入ると、今なら漏れなく――」
「マラソン部はいかが?目指せ、400キロを日帰りで――」
「アーチェリー部はいかがか~、伝説のアーチャーになれるかも――」
「魔法だっ! 授業では教わらぬことを、われら闇魔術の探求者が――」
「料理部こそ、未来の道だっ、皆さんは知っているだろうか、今の料理の大半は、全て異世界からの――」
勧誘は、襲撃だった。
まさかの魔女っ子が校長先生と言う驚きなど、この襲撃を前にすれば、忘れてもよいのではと思う。
もちろん、馬も走ってきた。
わかっておいでの皆様は座席から動かず、コロッセオのバリアシステムが守ってくれる。もちろん、ゴーレムを含んでおり、すでに30を超えるゴーレムが、瓦礫と化していた。
それほど、部員の獲得は大変ということで――
「ちょ、ロビン先生、勇者(笑)を手にするのは我々『剣の集い』で――」
「いや、今の勇者(笑)さまはガンアクションがお望みのはず。勇者(笑)レックよ、われら射撃部へ――」
「生ぬるい。ロビン先生、顧問自ら登場なら、このミノタウロスのゴンザが『格闘研究会』へと誘うべきで――」
混沌だった。
レックは座席を暖める必要なく、優勝者と敗者が並んだコロッセオのステージにて、そのまま校長先生のお話を聞いていた。
可能性は無限だと、テクノクまはりた――と、ワケのわからぬ呪文で姿を消して、お話は終ったのだ。
ご丁寧に、姿を消すと同時に、魔法の煙が輝きと共に空へと昇ったのだ。
襲撃の、合図だったようだ。
「へへ………これが、異世界の入学式ってやつだよ、前世の相棒――」
レックは、現実から逃れていた。
レックの脳内では、仲良く公園のベンチで、缶コーヒーをすすっていた。男子高校生の姿で、周囲では仲間が肩を抱き合い、野球部や柔道部の服装が行き交い………
ロンリーな放課後の風景は、レックの脳内に限ったことだ。
現実は、デンジャーだった
「さぁ、レックよ、相棒をみんなに見せてやれ――」
「ロビン先生、やっと追いついた。ここはバイク部部長の――」
「待てっ、バイク部、ここはUFO研究会が――」
収拾が、付かなかった。
レックは、知り合いがいないかと見渡すと、クラス教師であるドロシー先生がのんびりとレックを眺め、そして、新入生のお子様達の面倒を見ていた。
勇者(笑)レックを打ち破った5人パーティーなのだ。即席であっても、その活躍は入学式を大いに盛り上げてくれたということで、部員にほしい皆様が、殺到していた。
守っているドロシー先生に、感謝である。
つまり、レックは守ってくれないわけで――
「さぁ、勇者(笑)レックよ、お前の相棒を――」
「いえ、勇者(笑)は相棒のリボルバーを――」
「なにを、格闘研究会は、棒術にも対応している。その力を伸ばしたいなら――」
「いやいや、勇者といえば剣だろう。われら『剣の集い』は、あの勇者エリックが――」
混沌は、更に混沌としていた。
アーチェリー部にボクシング部という、前世も分かる名前の部活もあれば、もちろん魔法研究会にと言う魔法学校らしい部活もある。
ルイミーちゃんたちが勧誘されている姿を、レックは少し心配になりつつ、自分がデンジャーと言うことで、現実逃避をして………
そこへ、新たな馬が現れた。
ひづめの音が、近づいてきた。
「ん、なんだ?」
「え、なんで、馬の人はここに――」
馬――と刺繍されたタンクトップのおっさんは、ここにいる。魔法学校のケンタウロスは、ここにいるのだ。
だが、レックは勘違いをしていた。ひとつの場所に、同じ種族は一人しか存在してはならないルールなど、存在しないのだ。
そう、アーマー・5にまじって、パイロットスーツのエルフちゃんが、押しかけてくるではないか。
なら、馬の人も、同じ場所に数人いてもいいではないか。
細身の馬が、現れた。
「ロビン先生、部活の勧誘をフライングしたロビン先生。それはノーカンというものだと、校長先生もおっしゃって――」
細マッチョだった。
くい――と丸いめがねのお兄さんが、オールバックの漆黒ロングのお兄さんが、くいっとめがねを………
レックは、思わずつぶやいた。
「鹿?――」
中指でめがねをくい――っと、そんな動作はよい。
下半身が馬で、上半身が人と言う姿はケンタウロスである。マッチョ率が高い、唯一アーマー・5の姉さんはスラリとした細身であり、カモシカと表現するのは美しい足の証だったか、ケンタウロスモードもスマートだった。
スマートケンタウロスは、男性にもいたようだ。
「おや、はじめまして………拙者はジロウと申す――」
馬は、自己紹介をした。
ここに来て、日本人ネームである。しかも………
「は………はじめまして、レックっていいやす――」
レックは、笑顔が引きつっていないか、ちょっと不安になった。
まさかの、ござるキャラがケンタウルスだとは、思わなかった。これは、エセ江戸風景と言う、異世界でお約束の国もあるに違いない。
いや、レックはダンジョンの街で、ハリウッド風味の西部劇と言う街の風景を目撃していた。これは、覚悟をすべきだろう。
ござる――がいるのだ、忍者すらいるに違いない。
「あぁ、忍者ならいたっけ、エルフの国に――」
遠く、昭和の映画セットと言う、トーキョータワーというネオンサインがまぶしいタワーのほか、ピラミッドを逆さにした建物と言う最新の建築物まで混ざった風景が、さっそく懐かしい。
江戸風味の街も、もしかしたら、あったのだろうか………
レックの周囲では、バトルが始まりそうだ。
「噂の勇者(笑)にお目にかかれて光栄だ………まったく、ロビン先生にも困ったものだ。最新の乗り物だと、みんな――」
「おいおい、バイクは男のロマンなんだ。風になる相棒と――」
細身の馬とマッチョの馬がにらみ合っていた。
レックは、この間に逃げられないかと周囲を見渡したが、ここに、もう一人馬の人がいると、忘れていた。
レックがどのようなトラブルに巻き込まれるのか、それを見つめていた6人の姉さん達がいたことも、すっかり忘れていた。
馬が、加わった。
「おいおい、聞き捨てならねぇな。バイクは男だけのものじゃねえんだぜっ」
細身の馬が、現れた。
いつの間にか、ケンタウロスモードになった馬の姉さんが、ぱからっ、ぱからっ――と、客席側から、かけてきた。
仲間のアーマー・5も、痺れを切らしたのだろう。騒ぎの中心へと、ご一緒だ。
だが――
「「UFOは、だまってな」」
おっさんが、かぶせてきた。
なぜか同時に、かぶせてきた。
女性のライダーも、もちろんいらっしゃる。かっこいいお姉さんがモーターバイクで走り屋をしていても、それは趣味の問題だ。男女懇請の走り屋の皆様に、女性限定のチームもいる。
レディースという名前だったかと、前世はすマホをポチポチと、グー○る先生に尋ねている。
いや、ヤンキーという人々も、貧弱男子を震わせているのだ。漫画ではおなじみで、さらしをまいて、木刀を構えているのだ。
レックも、震えていた。
「あわわわわ――マニアの派閥が………」
戦争だ――
マニアの間において、意見の相違はすなわち、戦争なのだ。
バイク派閥においても、それは同じなのだ。変形を許可するか、許可しないか。一輪バイクはバイクに含まれるか、そしてUFOモードは、そもそもバイクと言えるのか………
姉さん達は、笑っていた。
「あぁ~あ………ケンタウロスは、あれだから――」
「まったく、乗り物にこだわるなんて、困ったもんだにゃ~――」
「いや、ラウネーラもロボ………」
「あなたも、タンクじゃない」
「うちはグライダーやからな、パス」
乗り物談義は、いつものことのようだ。
そして――
「「「勝負だっ!」」」
燃え上がっていた。




