魔法学校の入学式 4
魔法には、下級、中級、上級とランクが付けられている。
3メートルを超えるボスクラスのモンスターを倒せるレベルを中級で、そして、10メートルを超える巨大なボスを倒せるレベルが、上級と言われている。
長年の経験から、自然に分類されていったらしい。
魔法学校の新入生が扱える魔法では、せいぜいが中級だろうが………
レックは、叫んだ。
「ちょっ、ま――」
ちょっと、待ってください――
アイテム・ボックスから如意棒を取り出す間もなく、メイドさんと言う審判が、合図を出したのだ。
開始――と
「ウォーター・ボールっ」
「マジック・ショット」
「マジック・アロー」
「マジック・ショット」
「ストーン・スクリューっ」
即効で、お子様達は攻撃魔法を放ってきた。
ルイミーちゃんは様子見だろう、それでも最大威力のウォーター・ボールを放ってきた。母親のカルミー姉さんは水系統の魔法が苦手であるのに、すごいものだ。
いきなり、放ってきた。
お友達の皆様も、足止めを目的としているのか、下級魔法の乱射である。
ハンマーを野球のバットのように、とても軽いのだろう、しかし、マジック・ショットが乱射されるのは、バカにできない。そして弓矢の少年は、弦を引くと、マジック・アローが形成されている。こちらも、連射が可能とは素晴らしい。
そして、ナックル女子は、ナックルでオラオラオラ――と、マジック・ショットを放ってくる。ハンマーを振り回す少年よりも、乱射率は高そうだ。
そして、お嬢様風のお嬢様は、シールドで防御タイプと思いきや、小石が渦を巻いて、レックを襲ってきた。
下級魔法が多いが、乱れうちであるために、中級に匹敵する破壊力を持っていることだろう。
レックは、叫んだ。
「ちょぉおおおお――」
ちょっと、待ってください――
そのような叫びなど、届くわけがない。
両手を元気いっぱいに振り回して、広い石畳の上を、逃げ回っていた。
レックの攻撃魔法はボスクラスを一撃と言う威力で、当然、使用禁止である。そして、防御手段である水風船も禁止であれば、逃げるしかないのだ。
せめて、如意棒を出していれば、ビーム・サーベルを魔力で生み出し、いくつかの攻撃を跳ね飛ばすくらいはできたかもしれないが………
驚き、呆然としていたレックは、試合開始までの貴重な数秒を、武器を取り出す時間を失っていたのだ。
わざとだと、レックはメイドさんをみつめて――
「ふっ――」
メイドさんは、微笑んでいた。
周囲にはそう見えただろう、しかし、レックには見える。美人なお姉さんの中から、中二が顔を出していると。
ヨシオ兄さんが、後輩をあざ笑っていると。
「ちっきしょぉおお――」
レックは、逃げる。
逃げつつも、アイテム・ボックスから如意棒を取り出せばいいものを、攻撃魔法であるために、それすらためらわれていた。
直撃をすれば、おそらくスラッシュ程度の威力はあるだろう、魔力で生み出したビーム・サーベルが、子供達を襲うシーンを思い浮かべてしまう。
レックには、できなかった。
相手は、6歳の頃から可愛がっていた、妹のような女の子である。
誕生日の関係で、7つ年上になったり、6つに縮まったりしていて、対抗されて面白かったものだ。
レックは2月の末に16歳になったが、誕生日が先であるルイミーちゃんは、まだ9歳なのだ。
また、7つ違いに戻ったのだ。
「新しい力を見せてあげるっ」
ルイミーちゃんは、マジック・アイテムの槍を振りかぶる。
水の系統が得意かもしれない、レックの水球と類似の水の塊が、やりの先端に集まっていく。
おそらくは、ウォーター・スラッシュを放つだろう。マジック・アイテムであるため、魔力を補佐し、本来の威力を底上げ、あるいは連射できるかもしれない。
成長速度の速さに、レックは目を細めて………
ウォーター・スラッシュが乱射された。
「たぁあああ」
助けてください――なのか、タイム――なのか、レックにも分からない。
のんびりと眺める余裕が、レックにあるのだろうか。クリスタルでバリアされているといっても、衝撃で吹っ飛ぶことはあるのだ。
吹っ飛んで地面にたたきつけられるダメージも安心だが、クリスタルはすぐにレッドゾーンに突入するだろう。
観客席から、声援が上がった。
「レック、《《あのステッキ》》を取り出すのっ!」
「そうだにゃ~、今こそ、《《あのステッキ》》の出番だにゃ~っ!」
金髪と銀髪のエルフちゃんが、ヒントをくれた。
レックのお誕生日を祝ってくれた、エルフちゃんたちだ。
入学祝と誕生日祝いを、色々な人と相談をして、色々と準備してくれた、ありがたいお姉さん達だ。
そう、レックは冒険者として過ごしてきたが、魔法学校に在学するにあたり、どのような準備が必要か、分からなかったのだ。
よく使う如意棒は、モンスターに対抗するための武器である。先輩の勇者(笑)でもあるメイドさんを相手にしたときとは異なる。学友相手に、子供相手に、本気の武器を向けるなど、レックにはできない。
だが、レックの武器はそれだけだろうか。
「そうだった――」
魔女っ子マッチョの笑顔が、脳裏に浮かぶ。
ウォーター・スラッシュをよけながら、思い浮かぶ。
ミニスカに見える魔女っ子スタイルだが、2メートルオーバーのマッチョのため、ムキムキがあらわになっているだけだろう。マジック・アイテムを専門にする、引退した冒険者のおっさん――ではなく、永遠の魔女っ子なのだ。
前世が90年代女子中学生と言う、トランス転生と言う店長だった。
レックは、叫んだ。
「いくわよっ――」
新たなるステッキを、取り出した。
くらげさんが特徴の、くらげさんステッキだ。水系統を得意とするらしい、バブル・スプラッシュからヒントを得たと、生み出されたアイテムだ。
レックは、ステッキを振りかぶった。
「ばぶる、すぷらああああっしゅ!」
ファンシーな光景が、スプラッシュした。
攻撃力はゼロである、しかし、視界をさえぎることは出来るだろう。使用魔力もやさしい、練習用の魔法である。
数百の、大小の水のあぶくが、放たれた。
イリュージョンと言う魔法を前に、声援が上がった。
「いけぇええ、魔女っ子レックぅうう」
「かわいぃ~」
「いいぞぉ~、それでこそ勇者(笑)」
「いったれぇ~」
「がんばるにゃぁ~」
アーマー・5の姉さん達も、叫んだ。
石畳は、レックのイリュージョンで包まれた。




