魔法学校の入学式 2
4月になった。
レックは、前世との違いを見せ付けられ、しかし、こだわりとして前世という日本の風景を真似ている色々も見せ付けられていた。
背中まで届く金髪をリボンでツインテールにしたレックは、空を見上げた。
「とうとう、入学――か」
レックは、2月の末に16歳になった。
背中まで届く金髪は、紺色のリボンでおしゃれをして、大正ロマン溢れる女学生のファッションは、とてもよく似合っている。
男の娘として、着せ替え人形としての日々を過ごしたレックである。16歳になったとしても、その日々は変わらないのだ。
付き添いのエルフちゃんたちは、満足そうだ。
「保護者がいないとね」
「そうだにゃ~、ボクたちは仲間だにゃ~」
「いや、うちだけで十分やと思うんやけど――」
金と銀のツインテールを輝かせて、エルフちゃんたちがお姉さんぶっている。見た目12歳と言う姿は、4月になっても変わるはずがない。
レックもおそろいのツインテールで、ただ、お空を見上げていた。
大正ロマン溢れる女学生のファッションで統一されていて、あんたたち、再入学するんですか――というツッコミが喉から溢れそうになって、必死に理性を働かせるレックである。
ツッコミを入れるのが、怖いのだ。
お返事が、怖いのだ。
まさかぁ~――という笑みが浮かぶ程度には、レックは姉さん達と付き合ってきた。大災害と言うモンスターの大発生が、イベントと言う姉さんたちなのだ。
入学するということは、アーマーを着込む姉さん達がレックと同じ場所にいるということは、つまり………
これは、フラグだった。
「ったく、ガチャの日は抜け駆けしやがって――忘れてたけど」
「そうだそうだ、分かってたら、おれっちの豆タンクで――いつだったっけ」
「私は、気付かなかったほうに問題があると思うけどね」
馬の姉さんにドワーフちゃんに、そしてエンジェル姉さんが、マーメイド姉さんに詰め寄っている。
クリスタルの輝きに導かれた、2月のガチャの話のようだ。
付き添いは1人までは、ガチャの品数が影響して、当然だろう。そして、レックが入学すると知っていながら、付き添いと言うイベントを忘れていた姉さん達が、残念と言うことだろう。
アーマー・5の姉さん達が、集結していた。
「すばらしい、このメンバーなら、魔王すら倒せそうだ――ですか、レック君」
不吉な予言が、放たれた。
レックはぎょっとして振り向くと、メイドさんがいた。
「………ドロシー姉さん、知ってたんッスよね――」
女学生レックは、うなだれていた。
本日の装いも、大正ロマン溢れる女学生スタイルで、そして背中まで届く金髪は、エルフちゃんたちのプロデュースによって、ツインテールである。
メイドさんは、ご挨拶を始めた。
レックが抱いた恐怖など、知ったことではないのだ。
「アーマー・5が全員そろうのは、昨年の秋以来ですか?」
「そうだっけ………お正月は故郷だろうし――」
「ボクは、色々回ったにゃ~」
「ボロボロのロボでね。見納めだぁ~――って」
「もう見れないにゃ~、いまは、改造中だにゃ~」
「おれのUFOみたいにさ、変形するんだよな?」
「あぁ、おれっち、おれっちはキャタピラもオススメだぜ?」
「私は、ツバサをオススメします」
「うちは、水の中でも動けたほうがええと思うで?」
ロボの改造案について、姉さん達は語り合っていた。
レックとしては平和な女子のおしゃべりで安心である。レックの付き添いと言う、保護者の皆様は、やらかせば災害なのだから。
すでに、注目の的だった。
渡り廊下を進むと、他のクラスの皆様も、列を成していた。レックの前世は教えてくれる、これこそが、入学式の光景であると。
ぞろぞろと、順番に入学式の会場へと、多くの場合は体育館へと向かうのだと――
レックたちを見て、噂が始まった。
「うわぁ~、魔王でも出るのか?」
「アーマー・5だぜ、あれ――」
「生の変身シーン、あるかな」
「この世の終わりじゃ~――だっけ?」
「まぁ、この学園って魔王がやってきてもバトルできそうだけど」
「ゴーレムの門番の勢ぞろい?」
「学校って、変身するかな」
「魔王、来ないかな~」
レックは、遠い目をした。
さすがは、魔法学校の新入生達だ。本当に現れるフラグではないだろうが、モンスターの大群くらいは、襲ってきそうだ。
都市と同じと言うことで、結界が発動しているということで、モンスターの接近はないであろうが………
レックがそう思っていると、フラグが立ち上がった。
「大発生、起こらないかな?」
「王国から離れてるからね、あるかもね、今年あたり――」
「数年とか、十年に一度とか言っても、大陸のどこかでは毎年みたいな者だって言うもんね~」
イベントの、フラグだった。
国が滅ぶ災害は、毎年どこかで起こっている。そのために、国を超えた冒険者ギルドやテクノ師団という組織も動き、国は協力して、互いにありがたい存在だ。
平穏なときはもちろん、モンスターの大発生と言う、国を滅ぼす災いも――
レックは、アーマー・5の姉さん達を見た。
「あ、あのぉ~………」
なぜ、勢ぞろいしているのか。
趣味で、マジカル・ウェポンを乱射する姉さん達は、見た目はレックと年齢が近しいお姉さん達である。
ランドセルが似合う年頃が混じっていても、あくまで見た目だけなのだ。
中身は――
「ん?どうかしたのかな、ボウヤ」
「ボクたちが、なにかにゃ~?」
「なんだ、なんだ?」
「おれっちだけ、失礼な目線が――」
「あら、気のせいかしら」
「まぁ、まぁ、レックちゃんったら、あかんでぇ~?」
コハル姉さんと言う金髪のツインテールのエルフちゃんに続き、ラウネーラちゃんと言う銀のツインテールのパイロットスーツのエルフちゃんに、そして、ケンタウロスにドワーフにエンジェルにマーメイドの姉さんが………
にっこりと、微笑んでいた。
「へ………、へへへ、な、なんでも――大発生が起こったら、大変だなぁ~って」
レックも、微笑んだ。
心の中で、ロリババ軍団――などと、一瞬でも思い描いたためだ。
実年齢は、レックごとき若造が及ぶべくもない、実戦経験は、人間では追いつけないだろう経験豊富なお姉さん達が、なぜ、勢ぞろいしているのか………
色々なフラグが立つのが、入学式と言う。
しかし、青春と言う思い出のフラグが、欠片も思い浮かばないのはレックだけだろうか。アーマー・5と言う姉さん達が勢ぞろいしているのは、なぜだろうか――
レックは、周りを見渡す。
屋根つきの渡り廊下は、夏であれば救世主だろう。屋根瓦や、色々とデザインが混ざっている。見た目は日本の木造やモルタルやコンクリートの学校が乱立している、巨大すぎる学校風景である。
むしろ、いくつかの学校が、巨大な敷地に詰め込まれた印象もある。しかし、全てにおいて共通していることがある。
桜の花びらが舞い落ちる、出会いの季節でもある。
レックは、ふっと空を見上げた。
「入学かぁ~――」
花びらが、目の前に舞い落ちた。
花びらが、魔法によって再現されていた。入学式と言うイベントのための魔法であり、学校関係の方が演出しているのだろう。
今だけは、平穏を楽しみたかった。




