魔法学校の入学式 1
いつのまにか、4月になった。
早いものであると、《《16歳》》の少年レックは、教室の窓から空を見上げた。2月の末の誕生日の大騒ぎも、遠いことであると、記憶から抹消したいと思いながら………
早くも、本日は入学式であり、レックは教室にいた。
赤いリボンをなびかせて、ツインテールのレックは、つぶやいた。
「そっか、冒険者枠って、言ってたもんな~――」
窓から、春の風が入ってきた。
誕生日は2月の末と言うレックは、無事に16歳になった。
気付けば4月となって、大正ロマン溢れる女学生のファッションにおいて、ヘアスタイルは自分の意思では決定できない、ツインテールに赤いリボンとなっていた。
女生徒の服装のことは、すでにあきらめていた。
桜色と言うよりは紅色と言う、レッド系統の振袖に、紺色のはかまは、すこしだけ青色が強い。それを藍色と言うのだったか、ともかくも、お約束と言う服装のレックだった。
髪の毛が伸びてきており、すでに背中に届いている。リボンも、そろそろお似合いと言うことで、もちろんプレゼントされた。
金髪によく生える、レッドだった。
レックは、ゆっくりと前を向いた。
前世の知識が教えてくれる、黒板を前にしている、メイドさんがいると。
何かを口にしそうになって、レックは口を開けそうになって、手をあげそうになって、そのまま、なにも出来ない。
メイドさんは、小首をかしげた
「何か?」
メイドさんが、きょとんとしていた。
美人なお姉さんは、好きですか――
そんなフレーズが、昔のCMにあったという。前世の浪人生は知識人ぶって、レックに教えていた。
返答としては、YES / yes ――であろう。
レックは、ゆっくりと呼吸をして、たっぷりと5秒ほどを使ってから、お返事をした。
「いえ、やっぱりドロシー先生が、おれっちの先生なんだなぁ~………って――」
「《《レックちゃん》》は、冒険者枠の上に、この王国に現れた、久々に現れた勇者(笑)なんですからね。指導できる教員も、限られるに決まってるじゃないですか」
ドロシー先生は、メイドさんを装って、レックをバカにしていた。
2月の、とあるガチャの日において、すでに紹介されていた。冒険者枠であり、そして試験の成績によって分けられるクラス名との紹介も、セットだった。
ついでに、ガチャを手にした者同士でトレードをするという行事もあったようだ。レックには、かかわりのないことだった。
マーメイドの姉さんは、ルイミーちゃんに対価なしにガチャのアイテムを、槍をプレゼントしていたが………
レックは、改めて教室を見渡す。
板敷きの教室の床と言う床の上には、やや古い、木造の机が整列していた。50人ほどを受け入れることも出来るという。
客に向けてはイスだけが出されるらしい、保護者も同じ教室のようだ。《《6つ》》のイスに、嫌な予感と言うフラグを感じつつ………
《《たった一つ》》の机の前のレックは、ゆっくりと前を向いた。
生徒は自分だけといういみであり、レックは、手を上げた。
「はい、《《レックちゃん》》」
ドロシー先生は、相変わらずのメイド服で、レックを指差した。
美人なお姉さんであるため、腹立たしい。美人は何をしても許されるという定説が、某・怪盗の3代目の人生が語っているのだ。
レックごとき、その定説に逆らえるわけもない。
おもむろに、発言をした。
「入学式って、いつッスか?」
色々と考えが頭の中で暴れ周り、もっとも基本で、もっとも常識的な疑問が、レックの口から解き放たれた。
「………あの~?」
レックは、固まった。
メイドさんは、ポーズを決めていた。
左手の包帯はデフォという、お決まりのファッションのドロシーと言うお姉さんは、前世をヨシオ兄さんと言う。
今、中二として顔を出していた。
「ふっ――不安に思うことはない、新たなる勇者よ。いずれ、時が来る。そう、クリスタルの輝きは、常にわれらを導くのだ――」
ポーズが、変わった。
腕を組んであさっての方角を見つめていたドロシー姉さんは、今度は包帯を巻いた左手で顔の半分を覆い、そして、もう片方の右手をびしっと、レックへと突き刺した。
「そう、かつての我もそうであった。この、オーレリアス・アラン・ブラッドレー・ダークフォース(以下略)――」
真名が続いたが、レックは聞き流していた。
準備が終るまで、教室での待機。
これが、レックの前世が知る“普通”の入学式であれば、自己紹介を独自に始めたり、憎たらしくも、カップルの成立であったりと、気の早いイベントが始まっているだろう。
だが、ここは日本の学校ではないのだ。
確かに、見た目はそれっぽくなっている。何世代も知識と技術を注いできたのだろう、雰囲気は間違いなく、日本の学校である。
セメントと木造とモルタルが溢れる、花壇に混じって学校の怪談と言う、歩く二宮金次郎の石像があったりするが、見た目だけである
一人ぼっちの冒険者クラスのレックは、ぼっちだった。
「………入学式は、ぼっちかぁ~――」
入学してさっそく、寂しい未来が決定されていた。
2月のガチャの日において、冒険者枠で入試をしたレックの将来が語られていた。レックの担当はメイドさんであると、そして、それで全てだった。
クラスメイトのいない、ひとりぼっちの学校生活が待っていると言われ、いいや、それは冗談で、入学式には騒がしい仲間が新たに入ると思ったものだ。
メイドさんが、新たなポーズを決めた。
「ふっ、いつから一人だと勘違いをしていた――」
フラグだった。
波乱と言う、フラグである。
ありがたいと思いつつ、フラグと言う恐怖に、周囲を見渡した。寂しいと思う気持ちもあるが、平穏無事と言う学生生活も大切なのだ。
前世としては、すでに過ぎたかこのことであるが、思えば平穏無事だった。
恐る恐ると、周りを見渡す。
《《6つ》》の空白の椅子が答えであると、すでに分かっているではないかと自分にツッコミを入れつつ――
「………フラグらないで、フラグ、しないで――」
呪文のように、つぶやく。
だが――
「げっ――」
爆発が、起こった。
教室のど真ん中に、いつの間にか輝きが、魔法の爆発が発生した。魔法学校には不審者が入らないように、モンスターよけの結界のほか、レンガブロックの壁が要塞のように、そしてゴーレムと言う門番の人もおいでだ。
それらを突破する存在は、いったい――
「勇者(笑)よ、待たせたにゃ~っ」
煙が収まると、パイロットスーツという猫耳ファッションが、仁王立ちをしていた。
見た目12歳のエルフちゃんは、銀色のツインテールをなびかせて、かっこうをつけていた。スリーサイズなど、長い時間をエルフちゃんにおいては変化するはずもない、スレンダーなお子様ボディーで、ヒーローを演じていた。
「ガチャの日は油断してたけど、今日は大丈夫だよ――」
金色のツインテールも輝いていた。
誰か問いかける必要もない、レックと最もかかわりの深いエルフちゃんと言う、コハル姉さんである。
なお、レックの入学式のため、誕生日前後からファッションショーをして、ヘアスタイルを考え抜いたエルフちゃんでもある。
ツインテールに、決定していた。
「勢ぞろいは、久々かな」
「おれっちなんて、すっかり置いてけぼりでよ――」
「私なんて、行ってくれたら飛んできたのに――」
「うちかて、飛べるねんで?」
馬の姉さんが、ドワーフちゃんの姉さんが、エンジェル姉さんが、そしてマーメイドの姉さんが、そろっている。
「へへ、アーマー・5の皆さんも、おひさしぶりで――」
お正月でエルフちゃんたちとはご一緒だったが、アーマー・5の姉さん達の勢ぞろいは、久しぶりだった。
入学式は、大変そうだ。




