再会のルイミーちゃんと、新たな出会い
ルイミーちゃんは、天才魔法少女だ。
大げさでなく、レックはそう思っている。
母親譲りの姿は、魔法の才能まで受け継がれている。しかも、母親のカルミー姉さんが苦手とする水系統の魔法まで、扱っていた。
レックは、腰をかがめた。
「へへへ、ルイミーちゃん、お久しぶりでやんす。カルミー姉さんも、相変わらずお美しい――」
レックにはデフォだと、前世は腕を組んでいた。
カルミー姉さんを褒め称えることは、レックの本能である。下っ端パワーと、小物パワーが手を組んだ底辺冒険者が、レックなのだ。
前世が加わった程度では、変わらないのだ。
同じく前世を持つドロシー先生も、挨拶に加わってきた。
「ルイミーちゃんと、そしてお母さんも、お久しぶりです」
「ドロシー先生、お久しぶりです」
「ドロシー先生、こんにちは」
こちらは魔法学校の先生としてのご挨拶であり、カルミー姉さんに続いて、ルイミーちゃん9歳も、しっかりとお返事ができていた
レックへの扱いが、下僕と言う扱いであるだけだ。
レックは、ついつい、やらかした。
「ご挨拶ができるなんて、やっぱりルイミーちゃんはすごいでやんすね~」
頭をなでて、そのまま、抱き上げた。
出会いは、レックが13歳の冒険者になりたての頃で、そして、ルイミーちゃんは遊びたい盛りの6歳児であった。
顔を見れば、抱っこをしろ、遊べというご命令を下してきたルイミーちゃん様であるのだ。
まさに、主と下僕の関係である。
「もぉ~、子供じゃないもんっ」
リスの人が、お怒りだ。
リスの獣人と言う意味ではない、ご機嫌が斜めのためだ。9歳児のほほが、リスのように膨らんでいるだけだ。
「まぁ、まぁ、これからクラスメイトになるんでやんすから―-」
兄貴ぶるつもりはないが、今までの習慣として、レックはルイミーちゃんを立てて生きていこうと思ったわけだ。
お馬さんになったり、肩車をしたり、6歳児と遊んだ13歳の最初の記憶が染み付いたレックは、妥協しないのだ。
このお方こそが、主である――そんな気分で抱き上げていたのだが………
「違いますよ?」
ドロシー姉さんが、ツッコミを入れた。
そして、レックは固まった。9歳児と同じ教室で学ぶ15歳は、とても奇妙と言うか、気恥ずかしい気分であったが、前世の感覚である。
2月末が誕生日なので、入学時点では16歳だ。
だが――
「レックちゃんは冒険者枠やろ? ほな、特別講師とかと専属やろうな。日本人が前世なら、筆記とかも問題ないからって………せやろ?」
マーメイド姉さんが、確認で、かぶせてきた。
ゴーレムの門番が通してくれれば、合格。
その後の筆記試験や実技試験は、配属されるクラスのための参考資料だという。
レックは、固まっていた。
「そっか、合格すればクラスメイト――前世の影響で、当たり前って思ってやした」
筆記も実技も、レックはクリアしたらしい。
担当教師を決定するための参考資料だと、そして、そのためにルイミーちゃんとは異なる教室へ配属されるという。
前世では経験しなかった、キャンパスライフという言葉が、浮かんでいた。
「レックちゃん、昔馴染みと離れるのは寂しいやろうけど、教室はしゃぁない。学食とか、クラブ活動とかも――」
マーメイド姉さんは、最後まで説明することができなかった。
馬の突撃が、急接近してきた。
「え、なんか、ひづめの音が――」
「ふっ、若き勇者よ、天空へ輝きを放ったではないか。勇者がここにアリと――」
「………あぁ~、ドロシーちゃんも、相変わらずや」
皆さん、土ぼこりの方向を見つめて、ため息をついた。
すぐに、姿が大声を上げていた。
「がぁ~っ、はっ、はっ、はぁ~………まっていたぞ、バイク野郎めっ!」
ケンタウロスが、現れた。
馬モードで、現れた。
馬――と刺繍されたタンクトップで、現れた。
「………バイク屋の兄貴に、テクノ師団のゴルックのおっさんに、アーマー・5の姉さんに………」
ケンタウロスと言う種族は、どうやら乗り物が生きがいのようだ。
馬が生えているから、走れよ――などと、レックは心でつぶやいているが、馬が生えているからこそ、人間モードにおいては、乗り物を好むのかもしれない。
乗り物がない時代が、ちょっと気になった。馬の人が馬に乗って草原を駆け抜ける光景が、なんともシュールに思い描いて………
おっさんが、到着した。
「改めて、よく来たな、勇者(笑)よ」
腕を組んで、仁王立ちだ。
馬――と刺繍されたタンクトップで、現れた。この時期ではまだ寒いだろうに、マッチョであるため、問題ないらしい。
しかも馬モードであるため、レックは見上げる必要があった。人間モードでも、2メートルを超えているのかもしれない。馬の人は長身ぞろいなのだ。
アーマー・5の馬の姉さんも、頭1つ以上、メンバーより身長があった、スレンダーなお姉さんだった。
ルイミーちゃんが、レックに抱きついてきた。
「なに、このケンタウロス」
ちょっと、不安なようだ。
一方のレックは、ちょっと安心していた。
6歳の頃から、お世話をしていたお嬢様である。抱っこを嫌がられて、すこしショックだったのだ。
にっこりと、笑みを浮かべた。
「大丈夫でやんすよ、ルイミーちゃん。馬の人は、バイクを持ってると知ると、みんなこうなるんでやんすから」
言いつつ、レックは相棒を取り出した。
久しく登場していなかった、宝石に封じられた相棒である。
大きく、腕を振り上げると――
「こい、エーセフっ」
相棒の名前を呼んだ
レックの背後では、あきれたような視線の姉さん達がいるが、いまは、ルイミーちゃんに頼られた気分が、絶好調のレックである。
ちょっと、調子に乗っていた。
「相棒の、エーセフって言うんッス」
前世のさびしい知識では、50ccにしては、すこし大きいという程度の認識だ。
高速道路は無理であろう、しかし、山道を駆け上がる、急斜面と言う岩山を駆け上がるタイプのバイクである。
おまけに、ヘルメットの必要がない、ややSFだ。この世界のバイクには、バリアが搭載されている。万が一の事故でも守ってくれて、モンスターに襲われても、ちょっと安心だ。
相棒の名前を、エーセフと言う。
「ほぉ~、いくつかの映像で見たが………これが、モンスターの群れを突っ切り、魔王のはらわたをぶちまけた相棒か――」
ちょっと誤解が混じっているが、おおよそその通りである。そして、レックのバトルシーンは記録され、広く知れ渡っているようだ。
前世などは、個人情報保護法はどこだろうとスマホをいじっているが、出てくるわけもない、ここは、異世界なのだ。
前世では、ないのだ。
「ようこそ、バイク部へっ」
おっさんが、握手を求めてきた。
レックは、自然と握り返した。手がつぶされるかと思うほど、巨大な手のひらは、すでに見慣れたレックだ。
自己紹介を、始めた。
「おれっちはレックで、こいつが相棒の――」
「エーセフだな………改めてよろしくたのむぞ、勇者レックよ。オレはロビンだ」
ルイミーちゃんを片手に、レックは握手をした。
いくらレックが貧弱なボウヤであっても、もうすぐ16歳と言う2月の末が誕生日であり、そして、魔法の力もあるのだ。
お子様の体重など、レックにはリュックを片手にする程度の重さなのだ。
そしてレックは、自慢のお嬢様の紹介へと続いた。
「そんで、この子がルイミーちゃんで――」
いいから下ろせと、暴れていた。
やむなく、レックが命令に従っていると、先にドロシー先生が動いた。
「バイク部顧問のロビン先生――」
「おう、ヨシオ君か。結局バイクに興味を示さなかったお前さんと違って、こいつは見込みがある。まだ背も伸びるだろうし――」
電撃が、光った。
殴るには背が届かないのだろう、雷撃を食らわせるとは、ドロシー姉さんは、さすがは魔法学校の先生である。
「その名前、やめてください。あと、この時期の勧誘は禁止ですよ」
「へっ、冒険者としてやってきたんだ。なら、楽しまなきゃ、損ってもんだろうが」
突っ込みの雷撃など、馬のロビン先生には、そよ風らしい。マッチョを揺らして、豪快に笑っていた。
レックは、乾いた笑みを浮かべていた。何気なく握手をしたことが、すでに、運命を決定していたらしい。
「握手………あれ、あれって――」
入学式を前に、入部が決定されたようだ。




