花火と、小さな騒ぎ
バースト
それは、勇者(笑)レックに秘められた、真の力である。
レックは、長くそう思っていた。転生初日の光景が、ローストが答えだと思って、なかなか再現できないこともあって、楽しみにしていたのだ。
実際の威力は、残念だと知るまでは………
「さっすが勇者(笑)ですね、上級魔法の魔力を込めて、ギリギリ中級魔法の火力とは、先生、驚きです」
メイドさんが、拍手をしていた。
ヤケになったレックが、花火を乱射するという合格者の伝統に倣って、バーストを乱射した感想だった。
受付をしていたんじゃ、ないんですか――レックのそんな疑問など、メイド服ファッションのドロシーお姉さんには、無意味なのだ。
あんたも勇者(笑)でしょう――というツッコミも、不要なのだ。
マーメイドのお姉さんも、拍手をしていた。
「うちもお正月に途中参加してたけどな~、いや、久々に勇者(笑)って感じやったもんな~………ベルちゃんぶり?」
「………すいませんね、普通に完璧で――」
「いやぁ~、ドロシーちゃんもすごいねんで?万能タイプっていうん?けど、ベルちゃんのオラオラオラ――とか、レック君のバースト見るとな~――」
いつの間にか、マーメイドの姉さんと盛り上がっていた。
レックとしては、雷をまとって空中を飛び回るメイドさんもすごいと思うが、なにより、魔王様を吹き飛ばすほどのハリケーンを放つメイドさんなのだが、エルフ達やマーメイドの姉さん達にとっては、普通と言う評価になってしまうらしい。
中二をわずらっているために、勇者(笑)としての資質は、十分にお持ちだと思う。しかし、レックのように“おかしい”といわれるオリジナルを生み出せていない。
そのため――
「すげぇ~、アレが新たなる勇者様か~」
「結構可愛いよな………」
「そうそう、男の娘って言うんだって、ポスターにあったじゃない」
「ミニスカサンタ、輝いてたよね~」
「うん、うん、可愛いよね~ミニスカサンタ――」
「いくわよ、ばぶる・すぷらあああっしゅ――どう、似てる?」
「勇者(笑)様のほうが、可愛くない?」
「ちょっと、それってどういう――確かにね」
外野も、にぎわっていた。
伝統としてマジック・カノン系統を乱射で花火をしていた皆様は、レックのバーストのおかしさに見ほれて、見物モードになっていたのだ。
ドロシー先生が解説としてやってきたのも、そのためだろう。
ただ、レックは気になった。
ミニスカサンタ――というセリフが、気になった。
「あのぉ~………ドロシー先生、ちょっと――」
恐る恐ると、レックは手を上げた。
ミニスカサンタをしていたのは、確かに昨年のレックである。昨年のクリスマスの女子会の日、待ち合わせの喫茶店にて、レックは確かに、スプラッシュをしていた。
なぜ、知られているのだろうと、疑問だった。
「先生、言ったでしょ、張り出すって――」
ドロシー先生の指差す先には、ポスターがあった。
いいや、ポスターと思ったのはちょっと違う、等身大のミニスカサンタが、動画においてスプラッシュをしていた。
昨年のレックの光景が、フラッシュバックしていた。
とある喫茶店での、女子会の出来事だった。連れ出されたレックは、とりあえず注文をしようとして、目に付いたクリスマス・スペシャルを注文して、なぜかステージで魔法を披露する羽目になったのだ。
お客様参加型の、クリスマス限定のイベントだった。
結果――
「あ~、お正月の準備の話?………うちも、そっち行ってたらよかったわ~」
マーメイド姉さんが、楽しそうに見ていた。
動画も、撮影されていたらしい。攻撃力が皆無の水の泡の大群が、レックを中心に舞い踊っている、バブル・スプラッシュの光景だった。
攻撃魔法の、失敗から生まれた魔法であった。
水系統なら、かろうじて魔法としての形を生み出せるレックである。手元から放つことが苦手なため、マジック・アイテムである如意棒の先に爆発力のある水玉を生み出すか、あるいはビーム・サーベルとして、なぎなたジャベリンとしての使い方しかできない。
安全なのは、バブル・スプラッシュであった。
「動画も、あったんッスね」
「もちろん、写真もありますよ?」
「うち、一枚もらおかな?」
立体映像が、空中に映し出されていた。
見事なるスプラッシュは、練習用の水魔法の一種である。厳密には、失敗したウォーター・ショットや、ウォーター・カノンの大群である。
失敗した魔法が、なぜかバブル・スプラッシュと言う安全な芸術魔法として完成したという、不思議であった。
シャボン玉の大群が生み出され、レックを中心に、舞い踊るのだ。
魔法とは、そういうものらしい。
練習の過程において生み出された、そうした無数の魔法も再現できるようになれば名前を付けられ、スクロールに記載され、魔法の本に記載されていくという。
有益なものは日常的に用いられ、しかし忘れ去られるものも多くあるという。類似の魔法が膨大にあり、魔力効率や再現度合いの容易さに、大きく左右されるのだ。
まれに魔法の本から“発掘”され、再評価されることもあるが、そうした研究機関の人間以外には、忘れられていくらしい。
バブル・スプラッシュにおいては、その心配はなさそうだ。新入生だろうか、何人かが魔法の杖を取り出していた。
レックは、不安そうに見つめる。
「あれ、まねをしようとしてません?」
「ふっ――勇者にあこがれるのも、人の業とは思わないか、若き勇者よ――」
「ぉ~、やっぱドロシーちゃんは、ヨシオ君モードのほうがおもろいな」
「ふ――どちらも我である。ドロシーと言う少女に、この世の――」
ドロシー姉さんの中二は、本日も絶好調のようだ。
レックは関わらないのが平和だと、目の前で練習されるバブル・スプラッシュを眺めていた。魔女ッ子レックのクリスマス・バージョンの映像だけでは不足なのだ。さすがは、魔法学校に入学する皆様である。自らも試したいという好奇心が、爆発していた。
本当に、爆発していた。
「………花火の続きッスか?」
「見ただけでは、加減が難しいですからね。攻撃力は、かなり抑えているほうだと思いますよ
「まぁ、さっきの花火程度には安全やと思うよ?」
空中で、マジック・ショットの大群が乱舞して、暴発していた。
悲鳴と笑い声と、次こそは――という決意が、花火大会の会場を盛り上げていた。合格発表の場だと思っていて――
レックは、疑問を思い出した。
「そういえば、コハル姉さんは、合格通知がクリスタルの輝きだって言ってたような」
どこにいても、通知が来る。
そのように言われた事を、思い出した。クリスタルを渡された時点で合格とは、当時のレックは思っていなかった。
緊張していたためであるが………
「あぁ、昔はせやってんよ。うちらの場合は種族パスって言うん? けど、面白がって、クリスタルが輝くのを待っててなぁ~………いつからやっけ」
マーメイドの姉さんが、面白そうに語りだす。
見た目は、レックと変わらない年齢に見える。
だが、見た目だけと言うのが、人間ではない姉さんらしい。おそらくは、おっさん勇者の少年時代でも、お姉さんだったのだろう。
つまり、コハル姉さんの勘違いなのだ。
レックが、緊張のあまり聞き逃していたことも、原因だった。
受験と言う戦いから逃れた前世が、布団にもぐり組んで、震えていたためだ
もちろん、レックの脳内のパニックであったが、現実のレックにも影響するのが、前世を持つ転生者の、悲しいところである。
転生者の先輩が、小首をかしげていた
「レックくん、緊張してた?」
美人なお姉さんを、演じていた。
実際に、ドロシー姉さんは美人なお姉さんであるため、攻撃力を誇っている。中身がヨシオ兄さんと言う転生者でも、ドロシー姉さんでもあるのだ。
レックの前世が自称・高校4年生であり、そして、もうすぐ16歳のレックでもあるのと、同じなのだ。
そのときだった。お子様の声が、レックを発見した。
「あぁ~、レックだぁ~っ」
レックのよく知る9歳のお子様、ルイミーちゃんのお声であった。
「あらあら、先を越されちゃったわね~――」
母親のカルミー姉さんまで、ご一緒だ。
レックがお世話になった冒険者パーティーの魔法使いのお姉さんであり、永遠のお姉さんは、お姉さんであり………
レックは、小物モードを発動させた。
「いや~、お久しぶりでやんす」
昨年の秋から数えて、お久しぶりであった。




