異世界の、合格発表 2
金髪のロングヘアーが、風にそよぐ。
バイクに乗っていれば、かっこいいシーンであるだろうと、レックは思っていた。そうやって、現実から逃げるレックだった。
大きく、口を上げた。
「ぉたあああああ――」
お助けください。
そのような声が届けば、苦労はしない。レックは、悲鳴を上げるために転生を果たしたのではないか、そんな気分が湧き上がってきた。
レックは、空を飛んでいた。
「とば、ばばっばばばばばばば――」
本日の装いは、大正時代のファッションであった。
振袖にはかまに、振袖の柄は波打つ岸辺をイメージして、水色をベースに、水しぶきの白い水玉が細やかに工夫されている。
マーメイド姉さんからの、贈り物だった。
「もうちょっとやから、辛抱し~」
レックの頭上からは、のんびりとしたお返事が返ってきた。
変身を終えて、グライダーの輝きによって、レックは大空へと旅立っていた。
言葉遣いはのんびりと丁寧に感じて、扱いは、さすがはアーマー・5の姉さんのお一人である。
レックのお着替えのあとは、ご自分が変身だ。トランシーバーと言う見た目の通信機、ケータイを手に、ポーズを決めたのだ。
ルーンで、テクニカルな輝きが部屋を満たしている間に、レックは受付へと連絡を入れる。
これから、連行されます――と
そして、屋上からグライダーで、飛び立ったわけだ。窓からの旅立ち出ないだけ、常識をわきまえてくれているのだろう。
クリスタルの輝きが、導いたのだ。
受験をしたときに渡された、受験番号でもある。連絡のためのアイテムでもあり、合格発表の合図だ、向かおう――というイベントのために、マーメイドの姉さんは訪れたらしい。一番乗りを大切に、ちょうどタイミングが合ったというマーメイドの姉さんの、登場だった。
レックの都合など、関係ないのだ。
土産と言う、大正時代の女学生のファッションを取り出すと、有無を言わせずにファッションショーが始まり、自称・ヘアスタイリストの活躍が始まる。
レックは15歳の少年であるが、実年齢不明のマーメイドの姉さんにとっては、5歳の子供に過ぎないらしい。
そして、テクニカルなグライダーによって、大空へとさらわれたわけだ。
「ほいっ、とうちゃ~く――」
到着したようだ。
空の旅は、レックが悲鳴を上げているに終わりを迎えた。
円盤がちらりと見えた、一部が万博博覧会と言う王都の光景を彼方に、草原と岩肌と森を越えて、気付けば学園と言う広大なる要塞へと到着していた。
馬車では、どれほどの日数なのだろう。レックは前回、ドロシー姉さんと言う、勇者(笑)の先輩によって、雷のジャンプによって大空を連行された。
本日はグライダーだった。
「ぜぇ、ぜぇ――」
アイテム・ボックスからポーションを取り出した。
目の前がぐらぐらする、恐怖も手伝って、レックの意識は朦朧としていて………
手馴れたものだ、レックはポーションの瓶を開けた。
コハル姉さんというエルフちゃんからは、お正月の大騒ぎのさなかに、追加でポーションをもらっていた。
お年玉ではない、レックの活躍への報酬だ。
引換券も、たっぷりだ。
「レックちゃん、相変わらずやねぇ~」
マーメイドの姉さんは、あきれていた。
アーマーモードの、変身をしたお姿である。マーメイドなのに、なぜか、海の要素が皆無のお姿であった。
あざといフリルがたっぷりの、横幅に膨らんだジャンボスカートである。
深い緑色のヘアカラーに合わせたのか、白いフリルたっぷりの衣装に、明るい水色のリボンもたっぷりとゆれている。
女児向けアニメの王道を、誰が教えたと言うのか。日本人以外ではありえない、レックは申し訳なさに、何度土下座をすればよいというのか。
すでに、地面にひざを屈して、息も絶え絶えだった。
セルフポーションが、急がれる。
「ぜぇ、へぇ――マーメイドの姉さん、お世話をかけやして――」
作り笑いは、レックの本能だ。
甘ったるい香りが周囲に満ち溢れ、それはレックの命を守る。自分で頭からぶっ掛けて、荒い呼吸がむせて、とても呼吸が楽になった。
液体のはずだが、染み渡って呼吸が楽に、精神が安定し、そして、力がみなぎってくるのだ。
なお、小物パワーと下っ端パワーは、すでに発動している。ただ、フルパワーにはまだ早い、これから何が起こるか、分からないのだから。
レックは、改めて顔を上げた。
「あぁ、忘れてた、リボン、リボン――」
土下座のままで、レックは動かない。大正ロマン溢れる袴に振袖の女学生の衣装には、大きなリボンが欠かせない。
柄は波打つ岸辺をイメージして、水色をベースに、水しぶきの白い水玉が細やかに工夫されている。
金髪のセミロングと言うストレートのヘアスタイルのレックは、藍色のリボンで完全体となった。
ここは、魔法学校。
懐かしき日本の学校風景もたくさん混じっているが、なぜか、レンガで広く覆われた要塞と言うイメージがある。基本的に、城塞都市ではない異世界の町並みにおいて、異質な空間の理由は、魔法を専門としている敷地であるためだ。
レックは、ゆっくりと立ち上がった。
「学園都市………そうだ、学園都市なんだ――」
城塞都市と言うほど、広大だった。
訓練施設でもあるらしい、レックが入学試験を受けた場所は、映画でよく見る射撃場であった。弓道場の射撃のような幅で収まらず、レックのようにキロ単位の射程を持つ人物もいるのだろう、ほかにも、恐るべき魔法実験が爆発と言う日々かもしれない。都市部に作っていないことから、早く察するべきだった。
フラグだと。
「ほな、いこか~」
マーメイドの姉さんは、手を伸ばした。
「へ~い」
下っ端レックは、手を伸ばした。
入場門は、目の前だった
「げっ」
すでに、大賑わいだった。
「あぁ~、泊りがけもおったんかいな」
マーメイド姉さんは、額に手を当てていた。
一番乗りは確実だったはずだ。クリスタルの輝きによって、知らせが届いた。それと同時に、グライダーで空を飛んで、文字通りに空を飛んで、合格発表の現場へと飛んで駆け付けたのだから。
テントがいくつか、合格発表を前に、すでに待ち構えていた皆様がいたのだ。某・イベントの行列を思い出しながら、いいや、イベントには違いないと、レックは思い直す。
人生の一大事、合格発表なのだから。




