いよいよ、合格発表 1
円盤が、遠くに見える。
エルフの国の光景であり、王の都の光景でもある。平たい円盤を頭に載せた丸い建築物が、まるでキノコのように群生している、日本の万博らしい光景は、最新技術と最新のデザインとしての、流行なのだ。
レックは、王都に戻っていた。
「あぁ~………たしか、そろそろだって、ドロシー姉さんが言うには、そろそろだって」
2月になった。
お正月は、終わった。
エルフの国の日々は、毎日がハードな修行の日々とも言えた。あくまでレックにとっては――という但し書きが付く、エルフたちには日常の光景なのだ。
それは、勇者(笑)が、どのような笑いを取ってくれるかと言う期待の視線が、とっても集中砲火という日々だった。
それは、勇者(笑)への信頼だった。
笑わせてくれるという、信頼だった。
「マジで出たんだもんな、魔王様――」
オークたちの、怨念だ。
魔王様の残骸が、あれだけ集められたのだ。素材を集め、お祭りをしていたのは、供養のためだと思っていた。
だが、違っていた。
「へへへ、エルフの国だもんな、勇者(笑)が大活躍で、ピンチを救って――」
フラグが無事に回収されたレックが、涙目だっただけだ。
ドアが、ノックされた。
「………はぁ~い」
レックは、立ち上がる。
お正月ウィークが終ったあとも、そういうわけで、修行の続きと言うわけで、レックはエルフの国で過ごしていた。
どこまでがお正月の続きだったのか、一部クリスマスの飾りも混ざっているが、正式な作法もマナーもルールも、楽しければいいのだ。
それでも、終わりは来たのだ。
冬休みの終わりと言う意味でもあり、コハル姉さんという見た目12歳のエルフちゃんも、マヨネーズ伯爵の都へと戻っていった。
レックは、魔法学校からの合格通知が来るということで、宿に戻っていた。
魔法学校の入学まで、レックが貸し切りと言うことで、なのにクリスマスからお正月にかけては不在であったが………
レックは、ドアに手をかけた。
「――??」
違和感を、思い出した。
この世界は、ややSFに発展している。一部は昭和に染まっている、それは、日本人が持ち込んだ色々が浸透しているためである。
最新が70年代あたりなのは、時間差と言うものであり、あと50年もすれば、1990年代か2000年代が最新になるだろう。
コハル姉さんと言うエルフちゃんは、トランシーバーと言う外見のケータイと言うファッションを自慢している。1990年代の最新が流行の最先端なのだ。
レックは、立ち止まった。
「ドアベルがあるのに、インターホンがあるのに………」
宿の人なら、知っているはずだ。
客人でも、この宿を使う人なら、知っているはずだ。部屋には備え付けの電話があり、受付からの連絡が来る。前世であれば当たり前のホテルの一室は、この世界にとっては最新設備の塊である。
それなりに普及してはいるだろうが………
レックは、あとずさる。
「………ぁ――」
誰ですか――
その言葉を口にすれば、ドアが破壊されて、災いに巻き込まれる。そのようなフラグを思い浮かべて、言葉が出てこない。
トントントン――
目の前で、ノックされた。
レックは、これは罠だという緊張で、固まっていた。素直に確かめればよい、ファンタジーでお約束の強盗の襲撃であるはずもないが、その場合でも問題ないはずだ。
バリアを張れるのだ。
水風船は便利である、周囲を押しつぶしつつ、レックを守ってくれる。殺傷力がないことも、便利である。攻撃すべき相手であるのかを、見定める余裕があるのだ。
トントントン――トントントン――
ノックの音が、早鐘のように聞こえる。それは、緊張から、レックの心臓が早鐘のように鳴り響いているための錯覚だろうか………
光が、輝いた。
「なっ――」
レックは、振り向いた。
輝きは、後ろからだった。ドアのノックはおとりであり、転移魔法か、何らかの魔法によって、背後を取る。
いや、違った。
「………クリスタル?」
机の上の、クリスタルが輝いていた。
何事であろうかと、レックの頭の活動は、とってもゆっくりである。
魔法学校で支給された、クリスタルであった。試験の結果が通知されるということで、レックは机の上においていたのだと、ゆっくりと思い出していく。
輝きは、ドアの向こうへも届いたようだ。
「あぁ~あ、間に合わへんかった~――」
のんびりとした、関西弁だった。
どこかで聞いた、そしてレックの頭は働き出す。アーマー・5のお一人の、マーメイドの姉さんであると。
ダンジョンでは助っ人として、そのまま魔王様との対決までご一緒だった。
そして、お正月の3日目に登場で、宴会と言う炎に油をまいた姉さんのお一人だったのだ。
じわじわと、ドアの隙間から水がにじみ出てきた。
「???」
レックは、見つめていた。
有名SF映画のワンシーンのように、水が人間の形を取り始めていた。いや、SF映画に限らずに、水が人間の姿をとって、転移魔法のように使うこともあったようで――
これは、フラグである。
レックは、作り笑いを浮かべた。
「マーメイドの姉さん、おひさしぶりッス――」
どうやら、忙しくなるようだ。




