お正月と、勇者(笑)と、バースト 1
魔王は、倒された。
ゲームならばエンディングと言う時間でも、現実のレックは受験と言う戦いに放り込まれて、ぶっつけ本番を終えた今は、結果を待つという緊張の中にいた。
エルフちゃんたちに振り回されて忘れているが、ふとした瞬間に、思い出すのだ。
「キノコは、最高だな~」
ほっこりと、体が温まっていく。
雪空と言う光景ではないのは、神秘のエルフの国だからか。緊張を抱きながら、なるようになれという気持ちと、そして、チートを信じるのだ――という、前世の声援もある。
もちろん、レックの脳内のシーンである。
ジャージにどてらに、そしてコタツの中でカップソバをすすっている光景は、相変わらず、のんきなものだ。
レックは、スプーンを見つめた。
「おっと、まだ生きてやがる――」
生煮えだったようだ。
レックは、逃げようとするキノコを、ぶちっと、口の中で引きちぎった。自分も、ずいぶんとエルフに毒されたものだと、気にすることなく飲み込んだ。
じゅわっとしたキノコの肉汁は独特の甘みがあり、口の中一杯に染み渡った。
エルフちゃんが、現れた。
“なにか”の肉をかじりながら、現れた。
「レックったら、せっかくのお正月だけだよ?」
「そうですよ、せっかくの魔王様の兜焼きなんですから………ほら、いこうよ?」
エルフ姉妹だった。
キノコスープを愛するレックは、残念ながら、お断りするしかない。エルフたちと異なり、ハートもあごも、ヤワなのだ。
もちろん、氷漬けの魔王様の解体も始まっている。勇者エリックもお手伝いしているようだ。巨大な剣を使って、マッチョたちもスラッシュして、ポーズを決めていた。
解体ショー・昼の部だった
「そらそらそらそら――」
「まだまだまだまだ――」
寒くないのだろう、しめ縄というふんどしのエルフの兄貴達が、2メートルを超える筋肉の塊たちが、踊っていた。
地獄の門番といったほうが正しい表現だ。
さらに、有志達も魔法を放って、魔王様との決戦と言うシーンが、生中継である。
歓声が、上がった。
「おぉ~、腕が落ちた」
「ガッチガチに凍り付いてましたからね………解凍、大変そう」
腕が一本、やっと胴体から離れた。
勇者エリックの魔法によって、氷付けだったのだ。おかげで、解体にも手間がかかっているらしいが、正月は三が日と言う、いいや、ファンタジーという世界ではどのように進化をしたのか、知らぬが幸いと言うレックなのだ。
観客として、見ていたいのだ。
そう、観客がいいのだが――
「レックちゃん、ちょっと手伝ってあげてよ――バーストで」
エリザベート様が、のほほんと現れた。
紫のミニスカ振袖は、ご自分の年齢を考えていただきたい、エルフちゃんたちのお母様である。見た目は女子大生であるため、ギリギリアウトと言うべきか、まだいけるというべきか………
レックは、ゆっくりとおわんを横へずらした。
のんびりと、宴会を眺めたいレックである。ならば、エリザベート様のお言葉に、どのようにお返事をすればよいのだろうか。
地べたへと、ひざを落とした。
土下座であった。
「お許しを――」
めずらしく、本音であった。
えるふのおやど――という、日本の古きよき旅館風味の館がエルフちゃんたちのご実家である。エリザベート様は、そこの最高権力者である。
夫のエルフさんは、オマケなのだ。
しかし、レックは命令に背くことを選んだ。
「か弱い人間なもので――」
マッチョショーの仲間入りは、さすがにムリであった。
しかも、バーストのご指名だ。
レックが転生したきっかけである、命の危機で覚醒していた力だった。無意識の暴走状態であり、黒こげローストと言うモンスターイノシシが目の前であっても、どのような力なのか、長く謎だった。
“真の力”ではないかと、長い間の疑問だった。
実際には、アイテム・ボックスの系統の暴発事故による、圧縮空気が原因だった。ファイアー・ピストンと言うか、マッチと言うか、ポンプで圧縮、ファイアーだった。
氷付けには必要な、熱の魔法と言うことなのだ。
ファイアーだったのだ。
『バーストっ――』
『おぉおおおっと、ここで勇者(笑)レック、新技のお披露目ですっ』
いつの間にか、上映会も行われていた。
ややSFという立体映像が、大画面で広がっていた。前世は負けていると、レックは感想を抱いたものだ。
上映会が、行われていた。
カメラアイ・ボールの皆様が、よい仕事をしていた。レックと魔王様との対決が、様々な角度から映し出されていた。
臨場感のある音楽に、そして、適切な効果音のセットだった。
ギャグアニメとして、通用しそうだ。
『ぁあ~………残念です。ずっと待ちわびていた“真の力”とやらは、残念と言う結果でした』
『えぇ~、ここで解説をひとつ。勇者(笑)レックの能力は元々、アイテム・ボックスと言うたった一つであり、勇者(笑)として覚醒したその日に――』
ナレーションに加え、解説がむなしく続く。
大鬼と言うオーガベースの魔王様に、指・ぱっちんされてはじけ飛ばされる勇者(笑)というシーンをスローモーションにして、解説が挟まれていた。
みごとなる、指・ぱっちんだった。
レックは、大喜びだ。
「………ほらほあら、おれっちのバーストなんて、とてもとても――」
ここぞとばかりに、アピールしていた。
役に立てそうもないと、アピールしていた。
情けない自分の映像を見て、涙をこぼすだろうか。そんなわけがない、レックは助けとばかりに飛びついた。
命が、大切なのだ。
そもそも、小物パワーと下っ端パワーがタッグを組んで、生き延びていくべき底辺冒険者を自称していたのだ。
今こそ、フルパワーだった。
「へへへ、どうでやんすん、あの解体現場にオレっちなんかが――」
それが、いけなかった。
役に立たない――
つまりは、影響が少ないという意味なのだ。ここは、巨大な木々に囲まれる、炎の大き魔法が禁止という森の国の、エルフの国である。
だが、役に立たないレベルの炎なら?
そして、エルフたちには珍しい、レックのオリジナルの炎魔法なら?
解説が、続いていた。
『アイテム袋を作成すると、まれに圧縮のミスによって、大爆発が発生します。どうやら、それと同じ仕組みのようで、なぜか、炎となっております。恐ろしく効率の悪い炎魔法として、歴史に名前を――』
バーストのシーンが、リピートされていた。
エルフたちは、見入っていた。
解体ショーすら中断されて、見入っていた。
「見たいわね――」
エリザベート様が、微笑んでいた。
レックを見つめて、微笑んでいた。




