お土産は、魔王様の首
魔王様は、たくさんいる。
レックも、封印の神殿において、説明を受けていた、封印の神殿は100ヶ所ほどあり、封印が解けかかっている場所が、7つあるのだと。
そのうちの1つは、レックが参加したお祭りにおいて、瓦礫と化した。
では、残る6つはどうなったのか。
「へへへ、あのあと、皆さんが競争で討伐したって聞いてたんッスけど、6ヶ所の魔王様は、みんな狩られたって………ねぇ?」
祭りだった。
競争だった。
残りの魔王たちが同時に復活して、世界の危機がラノベ主人公の宿命なのだ。なのに、そんなフラグは、そもそも存在していなかった。レックという新たな勇者(笑)の活躍を楽しんだあとは、お楽しみだった。
復活を控えていた6体の魔王様たちは、すでに素材となって、今頃は、各地のギルドで加工されて、アイテムへと進化をしているだろう。
「――だからって、封印を解いてもらうなんて、ずるい、ずるいっ」
「あらあら、コハルちゃんったら」
どうやら、新たに魔王様を復活させたらしい。
最悪のモンスターも、獲物としか思っていないとは、さすがはエルフである。レックは改めて、クリスマスサンタのごとき、巨大な袋を見上げた。
「ふっ、ボクのロボに傷をつけるとは、さっすが新鮮な魔王は違ったにゃ~」
ラウネーラちゃんは、お土産を地面に下ろした。
ゴロゴロと、首の皆様が、転がった。
サンタさんがでっかい袋を持つように、10メートルを超えるグレート・ラウネーラと言うスーパー・ロボットは、魔王の首をごろごろと、袋に詰めての登場であった。
ちょっと遅いクリスマスと、そして、エルフたちの神様への供え物と言う登場らしい。ボロボロであっても機嫌がいいのは、たくさん首を手に入れたからだろう。
いや、元々はこちらが伝統だったのかもしれない。
「うわぁ~………ひぃ、ふぅ、みぃ――7つ?」
「なによ、7つの首の魔王だったの?」
「っていうより、いくつも向かったみたいですね――ラウネーラちゃん、みんなの分も、ちゃんと残しておかないとダメよ?」
レックが首を数えていると、エルフ姉妹は恐ろしい発言をした。
オユキ姉さんなど、みんなに獲物を残すべきと言う、冒険者風の心配であった。危険すぎるモンスターなど、確かに賞金額もすばらしいが、危険すぎるという意味において、放置のほうが危険と言う結論のはずだが………
ロボのハッチが開くと、猫耳パイロットスーツが、手を振っていた。
「ボクだけじゃないにゃ~、ほら――」
銀色のさらさらヘアーが、逆光となって輝いている。猫耳まで神々しくなるとは不思議である、尻尾も魔法だろう、そわそわと楽しそうに踊っていた。
鈴のなる腕輪は、神社のがらがらのようで、猫の鈴のようで………
どこかを、指刺していた。
「はっ~、はっ、はっは~――真打登場、月夜の勇者エリック、氷の魔剣を手に、ただいま登場!」
おっさんの声が、響いた。
どこかで聞いたことがある、かつては登場して早々に、ラウネーラちゃんに捕らえられ、お空の彼方へと発射された勇者(笑)の名前だった。
ロボの肩から、ジャンプしていた。
「あぁ~、エリックだ」
「あの子ったら、相変わらず――」
神様達は、ご存知のようだ。
「レックに似てるよね?」
「そうね?」
エルフちゃんたちは、微笑んだ。
レックは、固まった。
調子に乗りやすい自覚はあっても、あそこまでひどくはないと思う。40を手前にしたおっさんが、中二を隠すことなく登場したのだ。
水色と青と深緑の、氷結というイメージにあわせたフルアーマーのおっさんが、背中に剣を担いで、ジャンプした。
レックの目の前に、着地した。
「ほぉ~、キミが新たなる勇者か。前は、顔を合わせることすらできなかったが――」
レックの前まで進み出ると、歴戦の勇者の貫禄で、腕を組んでレックをじっくりと見つめていた。
戦いの場において、若造を見定めるおっさん――
そんなシュチュエーションであれば、転生主人公らしいエピソードかもしれない。だが、今のレックは、方まで届くセミロングの金髪に、赤いミニスカ振袖と言うスタイルであった。女子といわれても過言でもない太ももは、まだ筋肉が付くには早いのだ。
男の娘というレックに向けて、おっさん勇者エリックは、しばし無言であった。
そして
「………で、生まれは昭和、平成?」
勇者としてのスタイルを維持しつつ、突然の質問だった。
レックの前世などは、素に戻りやがった――と、あるいは相手様も前世に影響を受けたのかと、観察を始めた。
レックは愛想笑いが壊れていないか、ちょっと心配になった。
「へ………平成ッス」
とっさに、レックは返事をした。
おっさん勇者も、そうではないのか。ノリの印象もそうだが、テクノ師団の腐女子の姉さんを思い出して、2010年代を知る人物のはずだと………
何十年も先輩が、レックと同世代と言う違和感は、とりあえず放置だった。
「だよな~………ドラゴンキングの走り屋が昭和だろ、オレより20も下のくせに、前世年齢で何十年前だって話でよぉ~――勇者よ、転生とはそういう不思議と言うことだ。ファンタジーで、すべての説明が付くのだ」
レックは愛想笑いを決め込んだ。
アラフォー勇者(笑)エリックの言葉は、確かにレックも同じ意見だ。転生する前の記憶の年代が、バラバラなのだ。
エルフちゃんたちが、割り込んできた。
「エリック~、お土産は?」
「もう、コハルちゃんったら――って、そっか、手ぶらでも、手ぶらじゃないものね、レック君と一緒で」
金髪のエルフ姉妹が、土産をねだった。
見た目だけなら、親戚のおっさんに群がる子供達であるが、実年齢は――
エルフちゃんが、レックを見つめていた。
「――ん?」
にっこりと、微笑んでいた。
レックは、反射的にゴマをすった。小物モードと下っ端モードがフルパワーで、ニコニコと腰をかがめた。
「へへへ、なんでやんしょ、かわいらしいエルフちゃん様」
バカにしているわけではなく、心からご機嫌を取っていた。
子ども扱いともいえる、レックに使い分ける技術などない、ただただ、ご機嫌をとるしかないのだ。
命が、惜しいのだ。
ラウネーラちゃんが、飛び出した。
「エリック、早く土産をだすんだにゃ~」
「おうよ、いでよ、我が異次元ボックス――スキル、オンっ」
モーションが、オーバーなおっさんだった。
ポーズを3つ挟んで、腕をクロスして、片腕を空へと上げて、そして、真横へとびしっと突き出した。
意味は、ないのだろう
「ぉお~、さっすが勇者(笑)ねぇ~」
「そうそう、勇者(笑)は、こうでなくっちゃね~」
エルフ姉妹の注意は、勇者エリックに釘付けだ。
レックは、助かったと胸をなでおろし、そして一言 ――
「アイテム・ボックス、使えるんッスね」
レックは少し、悔しい気持ちだった。
レックの知る転生者たちは、使う様子を見せなかった。そのため、転生チートとして、自分だけが使える気分であった。
アイテム・ボックスと言う力の持ち主は多くなく、冒険者として生きていけるという根拠でもあった。
同じ能力の持ち主に、初めて出会ったわけだが………
「どうだいっ、新鮮だぜっ」
「まるごと――ッスか………」
まるごとの魔王様が、氷付けだった。




