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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
206/262

お土産は、魔王様の首


 魔王様は、たくさんいる。


 レックも、封印の神殿において、説明を受けていた、封印の神殿は100ヶ所ほどあり、封印が解けかかっている場所が、7つあるのだと。

 そのうちの1つは、レックが参加したお祭りにおいて、瓦礫と化した。


 では、残る6つはどうなったのか。


「へへへ、あのあと、皆さんが競争で討伐したって聞いてたんッスけど、6ヶ所の魔王様は、みんな狩られたって………ねぇ?」


 祭りだった。

 競争だった。

 残りの魔王たちが同時に復活して、世界の危機がラノベ主人公の宿命なのだ。なのに、そんなフラグは、そもそも存在していなかった。レックという新たな勇者(笑)の活躍を楽しんだあとは、お楽しみだった。

 復活を控えていた6体の魔王様たちは、すでに素材となって、今頃は、各地のギルドで加工されて、アイテムへと進化をしているだろう。


 「――だからって、封印を解いてもらうなんて、ずるい、ずるいっ」

「あらあら、コハルちゃんったら」


 どうやら、新たに魔王様を復活させたらしい。

 最悪のモンスターも、獲物としか思っていないとは、さすがはエルフである。レックは改めて、クリスマスサンタのごとき、巨大な袋を見上げた。


「ふっ、ボクのロボに傷をつけるとは、さっすが新鮮な魔王は違ったにゃ~」


 ラウネーラちゃんは、お土産を地面に下ろした。

 ゴロゴロと、首の皆様が、転がった。


 サンタさんがでっかい袋を持つように、10メートルを超えるグレート・ラウネーラと言うスーパー・ロボットは、魔王の首をごろごろと、袋に詰めての登場であった。

 ちょっと遅いクリスマスと、そして、エルフたちの神様への供え物と言う登場らしい。ボロボロであっても機嫌がいいのは、たくさん首を手に入れたからだろう。


 いや、元々はこちらが伝統だったのかもしれない。


「うわぁ~………ひぃ、ふぅ、みぃ――7つ?」

「なによ、7つの首の魔王だったの?」

「っていうより、いくつも向かったみたいですね――ラウネーラちゃん、みんなの分も、ちゃんと残しておかないとダメよ?」


 レックが首を数えていると、エルフ姉妹は恐ろしい発言をした。

 オユキ姉さんなど、みんなに獲物を残すべきと言う、冒険者風の心配であった。危険すぎるモンスターなど、確かに賞金額もすばらしいが、危険すぎるという意味において、放置のほうが危険と言う結論のはずだが………


 ロボのハッチが開くと、猫耳パイロットスーツが、手を振っていた。


「ボクだけじゃないにゃ~、ほら――」


 銀色のさらさらヘアーが、逆光となって輝いている。猫耳まで神々しくなるとは不思議である、尻尾も魔法だろう、そわそわと楽しそうに踊っていた。

 鈴のなる腕輪は、神社のがらがらのようで、猫の鈴のようで………


 どこかを、指刺していた。


「はっ~、はっ、はっは~――真打登場、月夜の勇者エリック、氷の魔剣を手に、ただいま登場!」


 おっさんの声が、響いた。


 どこかで聞いたことがある、かつては登場して早々に、ラウネーラちゃんに捕らえられ、お空の彼方へと発射された勇者(笑)の名前だった。

 ロボの肩から、ジャンプしていた。


「あぁ~、エリックだ」

「あの子ったら、相変わらず――」


 神様達は、ご存知のようだ。


「レックに似てるよね?」

「そうね?」


 エルフちゃんたちは、微笑んだ。

 レックは、固まった。

 調子に乗りやすい自覚はあっても、あそこまでひどくはないと思う。40を手前にしたおっさんが、中二を隠すことなく登場したのだ。


 水色と青と深緑の、氷結というイメージにあわせたフルアーマーのおっさんが、背中に剣を担いで、ジャンプした。


 レックの目の前に、着地した。


「ほぉ~、キミが新たなる勇者か。前は、顔を合わせることすらできなかったが――」


 レックの前まで進み出ると、歴戦の勇者の貫禄で、腕を組んでレックをじっくりと見つめていた。


 戦いの場において、若造を見定めるおっさん――


 そんなシュチュエーションであれば、転生主人公らしいエピソードかもしれない。だが、今のレックは、方まで届くセミロングの金髪に、赤いミニスカ振袖と言うスタイルであった。女子といわれても過言でもない太ももは、まだ筋肉が付くには早いのだ。

 男の娘というレックに向けて、おっさん勇者エリックは、しばし無言であった。


 そして


「………で、生まれは昭和、平成?」


 勇者としてのスタイルを維持しつつ、突然の質問だった。

 レックの前世などは、素に戻りやがった――と、あるいは相手様も前世に影響を受けたのかと、観察を始めた。

 レックは愛想笑いが壊れていないか、ちょっと心配になった。


「へ………平成ッス」


 とっさに、レックは返事をした。

 おっさん勇者も、そうではないのか。ノリの印象もそうだが、テクノ師団の腐女子の姉さんを思い出して、2010年代を知る人物のはずだと………

 何十年も先輩が、レックと同世代と言う違和感は、とりあえず放置だった。


「だよな~………ドラゴンキングの走り屋が昭和だろ、オレより20も下のくせに、前世年齢で何十年前だって話でよぉ~――勇者よ、転生とはそういう不思議と言うことだ。ファンタジーで、すべての説明が付くのだ」


 レックは愛想笑いを決め込んだ。

 アラフォー勇者(笑)エリックの言葉は、確かにレックも同じ意見だ。転生する前の記憶の年代が、バラバラなのだ。


 エルフちゃんたちが、割り込んできた。


「エリック~、お土産は?」

「もう、コハルちゃんったら――って、そっか、手ぶらでも、手ぶらじゃないものね、レック君と一緒で」


 金髪のエルフ姉妹が、土産をねだった。

 見た目だけなら、親戚のおっさんに群がる子供達であるが、実年齢は――


 エルフちゃんが、レックを見つめていた。


「――ん?」


 にっこりと、微笑んでいた。

 レックは、反射的にゴマをすった。小物モードと下っ端モードがフルパワーで、ニコニコと腰をかがめた。


「へへへ、なんでやんしょ、かわいらしいエルフちゃん様」


 バカにしているわけではなく、心からご機嫌を取っていた。

 子ども扱いともいえる、レックに使い分ける技術などない、ただただ、ご機嫌をとるしかないのだ。

 命が、惜しいのだ。


 ラウネーラちゃんが、飛び出した。


「エリック、早く土産をだすんだにゃ~」

「おうよ、いでよ、我が異次元ボックス――スキル、オンっ」


 モーションが、オーバーなおっさんだった。

 ポーズを3つ挟んで、腕をクロスして、片腕を空へと上げて、そして、真横へとびしっと突き出した。


 意味は、ないのだろう


「ぉお~、さっすが勇者(笑)ねぇ~」

「そうそう、勇者(笑)は、こうでなくっちゃね~」


 エルフ姉妹の注意は、勇者エリックに釘付けだ。


 レックは、助かったと胸をなでおろし、そして一言 ――


「アイテム・ボックス、使えるんッスね」


 レックは少し、悔しい気持ちだった。

 レックの知る転生者たちは、使う様子を見せなかった。そのため、転生チートとして、自分だけが使える気分であった。

 アイテム・ボックスと言う力の持ち主は多くなく、冒険者として生きていけるという根拠でもあった。


 同じ能力の持ち主に、初めて出会ったわけだが………


「どうだいっ、新鮮だぜっ」


「まるごと――ッスか………」


 まるごとの魔王様が、氷付けだった。



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