エルフの国の、お供えもの
魔王
それは、ゲームではおなじみの、ラスボスの称号である。
この世界でも、魔王と呼ばれる存在がいる。転生した日本人が名づけたという、レックも戦ったことがある。まさに、魔王と名づけられて納得の魔王様だった。
首だけで、並みのボス・モンスターよりも巨大だったのだ。
レックの目の前に、転がっていた。
「あ、あの………なんか、首の人が――」
巨大なシーツの上で、転がっていた。
魔王様の首に間違いないだろう、100メートルを超える巨大なモンスターのお顔なのだ、お顔だけで10メートルと言う、並みのボス・モンスターより巨大だった。
そして、レックの知らないお顔であった
「ささささ、さかな?」
お魚だった。
レックが戦った魔王様は、オーガをベースとしていた。顔は1つではなかったが、魚ではなかった。
関係ないだろう、レックは恐怖にそろり、そろりとあとずさった。慣れない振袖であっても、ミニスカであるために走るには問題ない。感情をともさない巨大な瞳が、無言でレックを見つめていた。
とっても、新鮮だった。
「お供え物だよ?」
「縁起物です」
ハイエルフ様も、微笑んでいた。
ミニスカ巫女服と言う、いったい誰が持ち込んだのだろうファッションに身を包んで、お供え物を前に嬉しそうだ。
レックは、恐る恐ると、口を開く。
「縁起物?」
どうやら、縁起物のようだ。
確か日本でも、縁起物として、魚の首を飾るという文化でもあったか、いいや、魔よけだったのではないかと、レックの前世は、さもしい知恵から引っ張り出す。
巫女服姿の幼女様と、ハイエルフ様が同じポーズで、両腕を上げていた。気付けば、エルフ姉妹もまた、両腕を上げて、ポーズを決めていた。
「とったどー」
「新鮮だど~」
嬉しそうに、ポーズをとっていた。
どう見ても魔王様というサイズの頭がある、大怪魚といったほうが正しいのか、よく見ると、サーモンのようにとがったお顔だ。これが2足歩行で歩いている姿は、なかなかのシュールの、魚人スタイルを思い描いた。
エルフちゃんが、レックのそでを引いた。
「え~っと………レック、なにか勘違いしてると思うから、説明しとくね?」
「そうですね、縁起物のお供えは、恒例行事だって話も――ね?」
コハル姉さんと、オユキ姉さんが説明してくれた。
ただの、魚だと。
「………え?どう見たって魔王様サイズっすよね、いったい――」
ここまで言いかけて、レックは気付いた。
ハイエルフ様と、神様が同時に、自慢していたではないか。
とったどぉ~――と
ただのポーズであり、日本人が持ち込んだことは間違いないだろうが、ただのポーズだと思っていたのだ。
言葉通りの、意味だったようだ。巨大エビの養殖場と同じく、エルフたちにとっては、ただの新年の行事だったとしたら………
「っぱねぇ~ッス、さっすがエルフ様ッス」
魔王様では、なかったようだ。
縁起物のために、どこかで巨大なお魚が養殖されていたようだ。レックはエビのえさになったが、魚のえさと言う、更なる恐怖が待っていたのかと、関わりたくないと、質問をする気持ちは消失していた。
「エルフの国ですから………エビの岸壁のほかにも、色々と?」
「たまに出るのよ、魔王様サイズ――ってことで、恒例行事?」
「ははは、どうりで、新鮮そうで――」
さすが、毎日が大発生と言うエルフの国である。エビのモンスターが巨大な岸壁のダンジョンのほかにも、色々と穴場があるようだ。
ハイエルフの姉さんと、神様の姉さんが仲良く、一本釣りをするシーンが、思い描かれる。
100メートルを超える巨体が、一本釣りのシーンが………
そのときだった。
「みんな、またせたにゃ~――」
天空から、懐かしいラウネーラちゃんの声がとどろいた。
語尾はもちろん、にゃ~――である。
「ロボだ~」
「ロボですね~」
神様達も、どうやらロボに夢中のようだ。
「ったく、正月の準備も放り出しちゃって――」
「ふふ、ラウネーラちゃんですから――」
エルフ姉妹も、それぞれに反応していた。予想していたが、ラウネーラちゃんは正月のイベントに顔を出していなかった、どこかで飛び回っていたようで………
レックは、そろり、そろりと下がった。
エルフ様たちの動きに合わせて、そろり、そろりと下がった。
そして――
「おまたせにゃ~、異世界スプルグから、スーパー・ロボットが来たんだにゃ~」
空の彼方から、グレート・ラウネーラの登場だ。
いつもは5体の合体シーンからスタートだが、いきなりのグレート・ラウネーラの登場であった。
なにか、でっかい“おみやげ”もセットである、グレート・ラウネーラの状態での登場には、意味があるようだ。
「………あぁ、新年のお供え物でやんすか――」
「あいつ、お正月の準備も手伝わずに――」
「魔王の討伐のあと、向こうで宴会にでも呼ばれてたのかな?」
エルフたちは、さすがである。しっかりとバリアで、お供え物を守っていた。着地に土ぼこりはつき物で、演出としても必要なのだ。
でっかい“おみやげ”もセットであるため、いつもより壮大だ。
だが、驚きはそれではなかった。
「って、ダメージを受けてる?」
ロボが、ボロボロだった。
土ボコリが治まってくると、姿がはっきり見えてきて、驚いたのだ。
目の前の代怪魚を討伐するため、ダメージを受けたのだろうか。今まで、ダメージを受ける場面に遭遇しなかったため、ややショックだった。
「へぇ~、珍しいわね、ロボにダメージを負わせたなんて」
「いつもは、その前に自分で戦いますからね?――今回の魔王様、強敵だったのかな?」
姉妹そろって、小さく驚いていた。
敗北したとは、すこしも考えていないあたりが、恐ろしい。もっとも、今の登場シーンでは敗北を予測はできない。
レックは、つぶやいた。
「そっか~………馬のおっさんと同じで、愛車?を傷つけられれば、ぶちきれるタイプかぁ~」
ちょっと、納得だった。
馬のおっさんも、相棒のバイクをロボットモードに変形させているが、共に戦うというよりも、趣味であった。
強敵を前には、ケンタウルスの馬キックが炸裂していた。ロボに意味があるのだろうか、ご本人のほうが強いのだ。
ラウネーラちゃんも、ロボを降りたほうが強いらしい。ロボの動力源であり、言い換えれば、お人形遊びをしている状態が、ロボなのだ。
ロボを操る力を、全て攻撃魔法にすれば――
「あれ、ってことは、それだけ強敵………にしては、ご機嫌ッスけど――」
大発生は終った。解散したメンバーは、それぞれの戦いの場所へ向かい、レックは受験と言う戦いへ向かった。
魔王様とレックの戦いは、序章にすぎなかった。
いや、大発生の収束と言う点は間違っていない。余波によって、封印が弱まり、魔王たちが復活するだけだ。
人間ではない姉さんたちにとって、稼ぎ時であり、お祭りだったのだ。
「久しぶりだにゃ~………はい、おみやげだにゃ~」
どうやら、おいしい思いをしたようだ。
銀色のロングヘアーが、楽しそうに泳いでいた。




