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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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エルフの国の、初詣


 伝統文化は、時代によって変化していく。

 レックの前世はクリスマスにはコンビにケーキを前にチキンをかじり、初詣はつもうではテレビをぼんやりとながめるという、庶民しょみん的な日々だった。


 では、レックは?


「ぎぃいいい、やぁあああ」


 叫んでいた。

 エルフの国の、お正月の伝統行事は、無事に終了した。

 モンスターエビの解体ショーと、踊り食いパーティーだった。ワラワラといたエビの大群は、地獄の門番といっても問題ないマッチョコンビの兄貴達によって、見事に解体された。

 そして、ミケばあちゃんをはじめとする猫耳の料理軍団によって、たちまちにフライされ、煮込まれ、味付けされて干しエビにされ………


 エルフの国は、さすがだった。


 大切な、輸出品でもあるらしい。新鮮なうちに、魔法の空間収納の袋である、アイテム袋へと収納されていった。さっそく走り屋の兄貴達は、旅立った。

 レックとは、5つほど鹿はなれていないのに、前世の記憶は何十年も前となる。なんと、1980年代と言う暴走族スタイルだった。

 少し前の転生者であるドロシー姉さんは2010年代らしいので、レックは違和感を抱いたものだ。

 転生とは、そういうものと言う結論で、十分だった。


 レックは、叫んでいた。


「お、おた、おた――」


 両手をエルフちゃんたちに引っ張られて、叫んでいた。

 エルフの森を、拘束されての飛行だった。


「レック、ちょっとは慣れてよね~」

「だよね~………勇者(笑)さま、修行がたりませんよ」


 コハル姉さんと言うエルフちゃんは、相変わらずレックに厳しい。そして、姉のオユキ姉さんと言う忍者スタイルのお姉さんは、素を出しかけて、そして、忍者っぽい言葉遣いに変えて、忙しい。


 二人とも、エルフの翼を輝かせて、飛んでいた。せっかくのお正月なのだからと、伝統文化をとことん楽しもうと、空を飛んでいた。

 初詣はつもうでに行くと宣言して、レックの手を引いての、旅立ちだった。


 そして――


「ぜぇ、ぜぇ、は、た――」


 レックは両手を地面につけて、息も絶え絶えであった。

 いつもの光景であり、そのためにレックは、もうちょっと体力を付けたいなどと願っていた。冒険者のランクとしては、とても上と言う地位にいる、シルバー・ランクの<上級>なのだ。

 思えばチート全開による、ハイスピードのランク・アップだったのだ。


 じょぼじょぼじょぼぼ――


「――へへ、どうも、すいやせん」


 甘ったるい香りにむせかけて、呼吸がたちまち楽になっていく。いつものごとく、上級ポーションの香りに包まれたレックは、顔を上げた。


 あきれた顔のエルフちゃんの顔が、すぐそこにあるだろう。

 見た目は12歳のエルフちゃんで、本日のヘアスタイルは金髪をストレートに、そして振袖ふりそで衣装はミニスカバージョンの、色はライトグリーンであった。

 レックは、レッドであった。


 だが――


「船?」


 レックは、固まった。

 あきれた顔を予想しつつ、レックが顔を上げると、固まった。

 ボートではない、30人ほどが乗り込めそうな、ちょっとした団体様が、釣りレジャーで使っていそうな船があった。

 木造の、むしろ七福神の皆様がお使いになる宝船が、イメージとして正しい。


 宝ではなく、エビが山積みだった。


「正月料理、レックもさっき食べてたじゃない」

「おそなえ物は、大切ですから………せっかくのお正月だもんね?」


 エルフ姉妹が、当然のように語った。

 だれが、どのように伝えたのか、勘違いが発展して収拾が付かなかったに違いない。10メートルサイズのモンスターと言う、巨大なエビの皆様を捕らえて、新年の儀式にしたエルフたちである。


 宝船に、エビが満載だった。

 なんとも縁起のよさそうな光景が、目の前にあった。贅沢にも、10メートルを超えるエビを、まる一匹使った宝船だ。お刺身だけではない、煮付けやフライや、焦げ目をつけて香草だけの上品な香りやら、全てが混ざって大変だ。

 飾り物も手が込んでいる、エビのフルコースがいくつも、巨大な船の上で待ち構えていたのだ。


 そう、お供え物である。


初詣はつもうででしょ?」

「日本人の、伝統です………わふ~」


 レックは、お返事ができなかった。


 あまりのサイズの違いに、固まったためである。

 あの断崖絶壁は、人間が近寄ることの出来ないエビ・ダンジョンであった。発見された経緯は不明だが、レックは確信していた。


 養殖場だと


 エルフの伝統行事のための、養殖場だと


「転生者め――」


 毎回のことであるが、ぶっ飛ばしたい気持ちだった。


 人間離れしたサイズであるが、ここは人間の世界ではない、エルフの国である。100メートルを超える木々が乱立しており、数百メートルと言う大木もざらにアリ、その中心地が、ここだった。


 世界樹が、目の前だった。


「あ、ご先祖様~」

「あら、神様もご一緒に――巫女さんスタイル、グッドです」


 気付けば、お出ましだった。


 ハイエルフと言う、始祖とも言えるエルフ様は、見た目だけならエルフたちと変わらない。肩幅までと長い耳に、すらりとしたスタイルはエルフと言う姿の理想をそのままにしている。


 ミニスカ巫女装束が、残念なだけだ。

 仕える神様と言うお子様も、同じスタイルであるだけだ。


「神様が、巫女服?」


 ミニスカであるのが、微妙であった。

 いいや、スカートが長ければ、足を引っ掛けて転げてしまうかもしれない。ブランコにランドセルスタイルでの出会いが、ランドセルに引っ張られて、転んだという姿が、レックと神様との出会いであった。


 正しくは、世界樹の化身らしい。様々な姿を持っているというか、人間と交流を取るための姿だという。


 元気一杯に、手を振っていた。


「あぁ~、勇者(笑)だぁ~、やっほぉ~」

「夏以来ですね、勇者(笑)さま」


 神様とハイエルフ様が、にこやかだった。

 ミニスカの巫女服であることなどは、正しい服装の知識や伝統の色々などは、全て前世の日本での常識だ。ただのファッションなのだ。


 ただ、言いたかった。


「その首、何ですか?」


 巨大な首が、供えられていた。

 宝船に負けないサイズの、まるで、魔王様の首であった。



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