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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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エルフの国の、お正月


 魔法の輝きが、お池の周囲を照らしている。


 日本庭園で見かけるお池のイメージである。転生した日本人の影響は確定だ、カコン――と、巨大な音を鳴らす細工がうるさかった。

 レックの脳内では、『ししおどし』という名前だと、学者ぶっていた。ただし、ペリカンになっていたり、明かりをともす灯篭とうろうが魔王の城のデザインだったりと独特に発展している。


 レックは、涙を流していた。


「獅子舞の舞か………転生者め――」


 解体ショーも、お正月バージョンだ。

 一匹ずつエビが解放され、マッチョたちが襲い掛かる。10メートルを超えるエビと言っても違和感のない姿のモンスターである。並の人間であれば自殺行為だが、地獄の門番と間違えても許されるだろう、兄貴達を前には獲物に過ぎない。

 二人仲良く担ぎ上げるしぐさは、獅子舞が舞い踊るようだった。


 即座に、エビの命はり取られた。


「エルフって、エルフって………」


 マッチョたちが、踊っていた。

 地獄の門番と紹介されたほうが納得できる、細身で優雅と言うエルフのイメージをぶち壊す兄貴達が、ポーズを決めていた。

 巨大なエビは、瞬く間に解体されていく。

 腕を曲げると甲羅がはじけ、指を刺すと身がスライスされ、胸の筋肉をぴくぴくとすると、キレイに整列して、大皿に並んでいく。


「さぁさぁ、今回はいつになく大漁だからね、張り切っていくよ」

「「「「「にゃぁ~」」」」」


 サポートをするのは、いつもの猫メンバー達だ。猫耳と尻尾は自前である、この世界では料理関係に大活躍をする種族のようだ。

 羽織袴はおりはかまらしきコートを羽織って、お正月気分だ。


「ミケばあちゃん、新年早々、大忙しだね」

「コハル姉さん、つまみ食いは――」


 エプロンは、よく見ると白いロープの、土佐犬とさけんファッションだ。

 このまま、ファイトが始まるのではないか。いいや、それなら犬の獣人を連れてくるべきではないのかと、レックはわけの分からない考えで頭が一杯だった。


 エビの人は、たちまち解体されて、大皿に盛り付けられていく。刺身に、エビフライにてんぷらに煮物に、おぞうにになっていく。


 頑丈な殻はファイアーされて、よい香りに期待が高まる。


「あれって、酒樽の団体様?」


 足の生えたタルの人々が、集まっていた。

 ただの酒ではない、焦げ目の付いたえびの殻で風味を際立たせるらしい、大酒のみのエルフたちは、歓声を上げていた。


 忍者さんが、降ってきた。


「レック君はダメですからね………まだ16歳になったばかりでしょ?」


 エルフが、増えた。

 コハル姉さんと言うエルフちゃんの姉である、オユキ姉さんの登場である。忍者スタイルのコスプレを好む、見た目の年齢はレックと同世代に見える。

 実年齢は、不明である。


「………いえ、今年の2月なんで、まだ2ヶ月ほどは15歳でやんす」

「合格発表は、その頃だっけ?」


 世間話の間に、つまみ食いが始まっていた。

 酒樽の人々は、大急ぎでそちらへと向かっていく。そして、たちまちに空にされていくのだ。

 町中のエルフが集まっているのではないか、昭和を思わせる3輪自動車は門松を王冠のように頭に載せ、出てきたエルフも頭に門松を載せている。

 羽織袴はおりはかまが加わって、とっても微妙だ。

 あくまで、それらしく見えるコートといったほうが正しい、なんちゃって日本庭園に建築物に、すこし見れば印象だけを真似しているとわかる。


 つまり、新たなるファッションなのだ。

 目の前の光景も、この世界独特であった。


「エビ祭りか~」

「日本の伝統なんでしょ?」

「いいですね、新しい文化が根付いていくのは………わふ~」


 くのいちスタイルのオユキ姉さんは、すでに出来上がっておいでだ。

 この世界は、意外と流通がしっかりとしている。輸送トラックの団体様のように、アイテム袋を腰に巻きつけたバイク軍団が活躍している。


 そのうちの一人が、現れた。


「よぉ~、レック………ちゃん?」


 レックのミニスカ振袖ふりそで姿をみて、言い直していた。

 暴走族の兄貴と言う青年が、現れた。


 四・六・四・六――という、赤いコートの兄貴だったが、お正月スタイルは、青いコートに、赤い文字で『大漁』と、刺繍ししゅうされていた。


 漢字での刺繍ししゅうは難しいだろう、異世界の文字であり、正確に再現できる人間が、どれだけいるだろうか。


 レックは、腰を低くした


「へへ、タツヒコの兄貴も、お呼ばれですか?」


 エルフたちに混じっては、ただの客人だろうタツヒコの兄貴と言う青年は、つまらなそうに腕を組んだ。


「半分は仕事だ………転生したばかりだから知らねぇだろうがな、エルフの国の加工品は、各地で高級品扱いなんだよ。こんなレベルのモンスターを調理できる人間なんて、どれだけいるよ――」


 振り向くと、エルフだらけだ。

 振り向かなくとも、エルフだらけだ。


 人間は、とっても少ない、タツヒコの兄貴は、半分は客人で、半分は運び屋と言う役割らしい。


 新年も初日から、ご苦労である。


「へへ、それは失礼を」


 もちろん、小物モードでねぎらった。タツヒコの兄貴は気にしていないらしい、姿からも、それなりに楽しんでいるようだ。


 大皿も、たちまちに減っていく、数百人のエルフが集まっての宴会なのだ。マッチョの兄貴達の活躍があっても、エビはたくさん、お池で暴れていた。しかし、疲れた様子を見せないのは、さすがであった。


「俺ってよ、前世の記憶がほとんどないわけだ………って、大半の転生者は記憶の断片を思い出す程度らしい。お前なんかは、人生の半分くらいの記憶があるんだろ?」


 解体が終るまでは、見物客としての参加らしい。タツヒコの兄貴がエビをほおばりながら、レックと語り合っていた。


 久々の再会である、近況報告と言うのは珍しくない、魔王様との対決においては、まともに会話をしていなかったと思う。


 レックは、固まった。


「半分………いや、たしかに」


 久々の違和感で、固まっていた。

 完璧に記憶を継承するほうが、むしろおかしい。前世などは、子供の頃の記憶など、その代表だと腕を組んでいた。

 レックの脳内では、思い出のアルバムを探っていた、スマホをいじり、画像を確認していた。


 アニメや漫画の数々であるあたり、泣けてくる。しかし、子供の頃に見た作品のうち、どれほどを覚えているか、今期のアニメ作品ですら、すべてのセリフに画面にと覚えているコアなファンは、どれほどいるだろうか………


 では、自分の人生は?


「そういえば、記憶にないシーンもあったっけ………」


 作業着姿で、夜空とはしごのシーンが、フラッシュバックした。バイトの経験のない学生だった前世は、首をかしげていたものだ。

 レックも、気にしないようにしていた。過去のことである前に、レックと言う人生と関わりのない、異世界の人物の記憶である。


 前世は、前世に過ぎない――

 前世に引っ張られないように――


 レックが転生者として覚醒した、その夜に警告を受けていた。同じく転生者と言うテクノ師団のおっさんの忠告である。


 つまり――


「ま、気にするなって事で」


 レックは一口、刺身をほおばった。

 刺身が、ぷりぷりと口の中ではじけていく。しかしながら、疑問が解けた気がしたレックである。完全に記憶を受け継いでいないために、違和感が存在するのだ。命を落として後に転生したとすれば、レックの前世など、2040年代の人物だったかもしれない。


 前世などは、スマホを懸命にいじっていた。


「あぁ、新作アニメ――」


 レックの脳内では、前世が必死に、記憶を洗い出していた。2期が作成されてもおかしくないヒット作品を、総ざらいしていた。いや、3期もあるかもしれないと………

 前世のことは放置でよいと、レックは決断した。


 本当に、どうでもよいことである。前世の生きた時代が2010年代であっても、2040年代であっても、生活に必要な知識の有無くらいしか、用はない。


「知識チート、料理チート………内政チートは無理でも、レシピの1つくらい、そのスマホにないのかよ、おれっちの前世さんよぉ~――」


 レックは、新年の空を見つめていた。

 すると、そでを、引っ張られた。


「レック、マヨ出して」

「エビには、マヨだもん」

「ぉ~、持ってるのか、レック――」


 現実が、レックに命じた。


 エルフちゃんたちは、気付けばフライを皿に山盛りにしていた。

 新鮮な刺身は、なにもつけなくてもおいしいものだ。ぷりぷりとしたエビの触感は、10メートルサイズのエビから取れたとは、とても思えない。


 フライには、マヨだった。


「へへへ~、ただいま」


 レックは、アイテム・ボックスからびんを取り出すと、即座に強奪された。

 昨年と言う過去の出来事である、マヨネーズ伯爵から、一年分のマヨネーズを渡されたのだ。

 アイテム・ボックスからマヨのびんをだすと、強奪された。


 マヨラーは、増殖していくようだ。




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