エビの、行方
まるで、ミニチュアだ。
レックが、エルフの国を見た感想である。例えるなら、公園に作られたミニチュアセットだろうか、100メートルを超える大木の前には、高さが20メートル程度の建築物の乱立する昭和セットは、映画のミニチュアセットだった。
獅子舞がジェット噴射で飛んだり、門松を載せたUFOが空を飛んだりという、ややSFな光景も、ミニチュア気分に拍車をかけている。
今は、お正月モードだ
「エビ………活躍してるッスねぇ~――」
レックは、乾いた笑みを浮かべていた。
遠くのお池で、エビの皆様が暴れている姿が見えたのだ。
初日の出を拝んだあと、コハル姉さんと言うエルフちゃんは、町を見下ろせる遊歩道の1つへと降り立っていた。
故郷への里帰りで、懐かしいという感想もあるのだろうか、お正月モードの町並みは、今しか見られないからか………
エビの行方が、お池だった。
「レックのおかげで、いつにない大漁だったって――さっすが、勇者(笑)だね」
金髪のロングヘアーを輝かせて、エルフちゃんが微笑んだ。不覚にもドキドキしてしまうのは、レックであるために仕方ない。
「よ、喜んでもらえて、なによりで――」
新年早々、ドキドキが止まらない。美少女と二人きりのデートと言うわけでも、初日の出を拝んで、気分が高揚しているわけでもない。
レックは、地面が恋しかった。
遊歩道は、どういう技術なのだろうか、空中に浮かんでいる。都市部の高速道路であれば支柱があるはずだが、見当たらないのだ。
地上10階建てより高い位置に浮かんでいる、不思議なウッドデッキと言うか、木製に見える遊歩道は、ややSFであった。
もっとも、巨大な木々が乱立しているのだ、まともな道は作れるわけがなく、遊歩道がミニチュアセットたちをつなぐ道となっている。
落ちる心配がない、幅が5~7メートルはある、ゆったりとした遊歩道である。
手すりが、ないだけだ。
「あの、そろそろ――」
レックは、地面が恋しかった。初日の出をめがけて、新年の暗闇で風になったレックなのだ。
コハル姉さんは、きょとんとしていた。
「忘れたの、遊歩道に座ってるだけで、ちゃんと到着するから」
「………へ?」
立ち尽くすだけで、バイクの移動よりも早く移動できる不思議な遊歩道である。『エルフの道』と言うファンタジーな名前を思い出す
実際に転移魔法の一種として存在しているが、今の主流な交通手段は、ややSFという遊歩道だった。
大きな池が、気付けば近づいていた。
コハル姉さんと言うエルフちゃんは、しっかりとこの遊歩道を選んで、降り立ったようだ。
「うへぇ~………」
生け捕りにされたエビの皆様が、大暴れのためだ。
「………新鮮っすね」
「レックのおかげよ?」
災害だ
人間の常識としては、10メートルサイズのエビの大群が目の前にある光景は、大暴れをしている光景は、災害だった。
エルフの国では、生簀で暴れる、食材だった。
「いきましょ?」
「――へい」
エサは、エルフの国のキノコそのほか、養殖かもしれない。しかし、エルフの国では育たない、特定のダンジョンで発生するモンスターである。
そう、ダンジョンだったのだ。名前の意味としては地下迷宮であり、洞窟の深く似た待った魔力によって、生物がモンスターとして、湧き出し続ける危険地帯であり、クリスタルや素材を常に採取できる鉱脈のようなものでもある。
鉱脈なら財産で、危険であれば国の管理である。
エビの洞窟は、エルフの国と繋がる危険ゾーンで、人間はノータッチと言う、人外魔境だったらしい。
レックは、エビの冥福を祈った。
「刺身ッスか?」
「『いけづくり』っていうんだっけ?池のそばでエビを料理するのが、伝統なんでしょ?」
お池で作る、おつくり――
そんな意味だろうか、文化を持ち込んだ転生者が、言い間違えたのか、ダジャレなのか、おしゃれを狙ったのかは、分からない。
生きのよい獲物であれば、エルフたちは大喜びだ。新鮮な証であり、日本人が持ち込んだ文化が得る浮流に変化した結果が、お池のそばでの解体ショーらしい。
マッチョたちが、待っていた。
「おぉ~、勇者(笑)よ、よくきた」
「勇者(笑)よ、まっていたぞ」
地獄の門番が、現れた
レックの脳内では、ピロロロロン――と、モンスターの登場シーンのBGMが流れていた、イベント発生だ。
レックの脳内では、RPGの気分で、目の前の現実を忘れさせていた。地獄の門番といってもいい解体職人のコンビは、にこやかだった。
寒空の下、マッチョは、マッチョを輝かせていた。
「寒くないんで――」
寒くはなさそうだ、湯気が、上がっていた。
愚問だと、愚かなる問いかけだと、レックは口をつぐむ。背後で、エビの皆様が暴れているが、ただの背景にすぎない。
レックを恨めしそうに見つめている気がするが、その程度では、動じなくなった。エルフたちに囲まれているためだろう、いつの間にか、振袖姿のエルフたちが、正月スタイルのエルフたちが集まってきた。
マッチョたちは、ふんどしだった。
レックは、質問をするのをやめた。細身で優雅で、美しさを体現した種族と言うエルフのイメージは、この世界にきてぶち壊しになった。
主に、目の前のマッチョたちによって、ぶち壊された。むしろ、悪魔のイメージだという感想も、この二人だ。
人間では到達できないマッチョは、2メートルオーバーの魔女っ子アリスちゃんが、前世に影響されなかったバージョンかもしれない。
新年の朝日が、マッチョを照らしていた。
「「行くぜっ」」
解体ショーの、始まりだ。




