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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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ステータス先生、お願いしますっ


 少年レックは、得意げに笑みを浮かべていた。

 ステータス――と、叫んだからだ。


「ふふふ………この世界で、少なくとも、オレが生まれて15年、耳にした記憶はない。つまり、オレだけのズルだ、チートだ」


 ステータス

 便利な言葉だ。

 呼びかけるだけで、今の自分の能力や、隠された秘密を教えてくれる。これから、どうすればいい、自分になにが出来るのか………それは、今後の方針を決定する、大切な材料となるのだ。


「そう、オレは転生主人公。ならば、誰も知らない魔法を知っていても、当然だ。そう、チート生活の始まり――あれ、まだ開かない?」


 開かない。

 開くというか、展開されると言うか、目の前にヴぃ~ん――と、現れるというか………それが、まったく反応しないのだ。魔法の力を使いすぎて、発動できないのだろうか、それとも、まさか、まさか――


 がっくりと、ひざをついた


「はぁ~………そうだよ、分かってたよ。そんなに都合よく行くはずがない。魔法はあるけど、ファンタジーだけどよ………だけどよ、こっちからすりゃ、現実なんだよ。世知辛いんだよ………」


 ひび割れたマジック・クリスタルを見つめて、目の前に現れないステータス画面を幻想して、心の声を、振り絞った。


「チート、できねぇぇえええっ~!」


 人生、甘くないようだ。

 病気によって浪人し、なぜか混じる作業着姿の、疲れた夜勤生活。混乱しても、すでに終わったことなのだ。


 世知辛い底辺冒険者なのだ。

 お古を専門に扱う店の常連で、少しでもいい服を、防御力が残っているアーマーを探し、ようやく中古のリボルバーを手に入れて………


「………ステータス………ステータス………ステータス………ステータスって、言ってるだろぉぉおおおおっ」


 むなしく、少年のステータス叫びが、夜空に響く。

 ここは徒歩で数日の森の中、冒険者が耳にしているかもしれないが、わけの分からない叫びだ。関わりになるべきではないと、距離を置くのが平和な道である。

 期待したステータス画面は、いくら叫んでも現れない。もしかしてと、時間を置いて口にしようとしても………


 一時間後――


「あのぉ~………ステータス先生。大声で叫んで申し訳なかったであります。どうかご機嫌を直して、ちょっとだけでも顔を見せてくれませんですかねぇ~、へへへ――」


 へりくだっていた。

 この世界の、よくある農村で生まれ、村を飛び出したお調子者である。下級魔法すら、まともに使えないが、冒険者は知恵と経験と勇気でのし上がるのだと………


 現実は、底辺冒険者だった。前世の記憶がよみがえっても、多少魔力がね上がっても、チートと呼ぶほどではない。


 そう、希望はステータス先生なのだ。


「いやぁ~、ステータス先生もお人が悪い。あっしは底辺冒険者、ブロンズの中級ランクってもんですがね、これでも、半年で中級にランクアップして、一応は一人前なんっスよ~、ですからね、ほら、こうしてリボルバーも手に出来て~………いやぁ、いきなり威力が、すごいのなんのって~………」


 誰と話しているのだろう、いもしないステータス先生へと向けて、大変腰を低くして、お願いしていた。


「ですけど、こうしてほら、モンスターになったイノシシを討伐とうばつできたのも、転生したショックって言いましょうか、おかげといいましょうか………ね?異世界から転生したら、こうして能力がね上がるんでしょ?なら………そろそろ、お顔を見せていただけないでしょうか………ステータス先生~~」


 いったい、どこへ向けて語りかけているのだろう。とにかくも、そろそろ良いだろうかと瞳を閉じる。

 なぜか、正座だ。

 それでも、しっかりと背筋を伸ばして、片手を前へと突き出した。


「んじゃ、あらためて――」


 かっ――と、目を開く。


[ステータスっ――]


 叫んだ。

 口元が、笑みにゆがむ。オレ、かっこいい――という、自分に酔いしれた笑みであり、自分以外は、認めてくれない笑みである。

 ステータス先生も、認めてはくれなかったようだ。片腕を上げたまま数秒がたち、十秒がたち、数十秒が経過する。

 そろそろ、突き出したままの腕がだるくなってきた。


「………ちきしょぉおおおおおっ、ステータス先生、オレを見捨てるんですかいっ!」


 また、叫んでいた。

 それほど、待ち望んでいた、期待してしまったと言うことだ。

 この世界の常識から外れて、ステータス画面が広がり、恐るべき伝説のスキルが目白押めじろおし。どうしよう、隠さなければという、興奮の日々が………


 存在しなかった。


 突然、現実に引き戻された。何かが近づいていると、さもしい底辺冒険者の経験が、警告を与えた。


 上空を見た。


「ん?なんだ、この音………戦争映画と言うか、アクション映画と言うか………」


 聞き覚えのない、聞きなれた轟音ごうおんが近づいてくる。この世界の常識としては外れていて、知識だけはある。そのような、知っている違和感。

 前世の記憶は、叫んでいた。


「あ、ヘリだ………」


 言葉にも、出していた。

 そして、その言葉を待っていたかのように、森の彼方から影が現れた。バララララ――と、轟音をとどろかせて、黒い影がやってきた。


「ほんっとに、ファンタジー気分台無しだよ、現実ってやつはさぁ~」


 近づくほどに、姿ははっきりとしてくる。飛竜に乗って飛んでくればカッコイイ、ペガサスやグリフォンに乗っていても、近づけば姿が見える。

 機械的な轟音であるために、そのような期待は、最初からしていないのだが………


「あぁ~あ………これが『テクノ師団』がご自慢の、ヘリポットか」


 シルエットは流線型で、映画で登場するヘリコプターと近い。ただし、バラバラバラ――という轟音を響かせていたのは、スピーカーだった。

 これから向かう、あるいはモンスターを遠ざけるための鈴のような扱いだろう。ともかく、側面のマジッククリスタルらしき輝きで、飛んでいるのだ。

 現代の地球でも、このような飛行技術は存在しない、ここが異世界だと分かる技術ではあるのだが………


 この異世界は、ややSFだった



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