クリスマスと、女子会 1
冬の始まりの朝、丸々とした毛並みの小鳥達が、チュンチュンと鳴いている。
雪が降ってもおかしくない、そんな空模様を見つめているレックは、見つめていることしか出来なかった。
エルフちゃんが、ご機嫌だった。
「レック、だいぶ髪の毛が扱いやすくなったわね~………春までには、私と同じくらいの長さになるのかな?」
コハル姉さんと言うエルフちゃんは、レックの髪の毛で遊んでいた。
お出かけの、準備であった。
レックが逆らうわけがない、見た目12歳のエルフちゃんに命じられるままに、床に座っていた。
「へへへ、春に姉さんと出会って、もう冬になりやしたからね………」
ポニーにツインにと、コハル姉さんとおそろいというヘアスタイルに遊ばれる日々は、いつもの光景だった。
ファッションも、おそろいである。
「もう、クリスマスウィークだもんねぇ~」
「へへっ、サンタさんの季節っすねぇ~」
レックは、鏡を見るのが怖かった。
男の娘として転生したのかもしれない。そんな気持ちになって、エルフの国では《《4姉妹》》として日々を過ごしていた。
本日のファッションは、町並みに合わせて、サンタコスプレである。
見た目が12歳と言うコハル姉さんの場合は、ミニスカが魅力を持つというよりは可愛らしく、カラーはライトグリーンであった。
レックのサンタは、レッドだった。
「はい、できた」
「………へへっ、いやぁ、たのしみだな~」
ミニスカ姿の15歳の少年は、17歳の少女にも見えるだろう。レックは、鏡を見るのが怖かった。
そんな言葉を口にするわけは無い、レックの心の中の、わずかなる抵抗に過ぎない。すでに、あきらめているからだ。
鏡の中では、姉妹が仲良くコスプレをしていた。
そう、《《姉妹》》である。
「さぁ、でかけるわよっ」
「………へぇ~い」
レックは、お返事をした。
荷物は、アイテム・ボックスに入っている。ホテルの部屋の戸締りをしっかりとして、朝からお出かけだ。
まるで、クリスマスデートである。
15歳の少年としては、夢に見るシュチュエーションだ。彼女いない暦イコール年齢は、前世もレックも、同じなのだ。
だが………
「転生者って、本当に色々してくれるよね~」
「へへへっ、なんか、すいやせん?」
コハル姉さんに手を引かれて、仲良し《《姉妹》》は、町を歩いた。
イルミネーションは、電気というより魔法のクリスタルを使っているのだろう。前世ではありえない、空中に浮遊する明りやオブジェが、色々と輝いていた。
立体映像も映っており、ややSFというクリスマスのイルミネーションが、王の都を、ハデに彩っていた。
遠くに見える万博も、円盤の皆様も、クリスマスのイルミネーションに輝いている。そんな町並みを、レックはミニスカサンタで歩いていた。
ミニスカなのに寒くないのは、久々のミニスカに羞恥心がよみがえったからか、魔法のおかげなのか………
レックは、微笑んだ。
「春になれば………入学式か――」
現実を忘れるべく、未来に思いをはせた。
片手は、見た目12歳のエルフちゃんに奪われている。だが、もう片方の手には、受験票がセットのクリスタルが握られていた。
コハル姉さんが教えてくれた、簡単なデータのやり取りが出来るという。合格すれば、教えてくれるらしい。
通信はできないが、受信限定だが、この世界においては革新的だろう。レックの脳内では、前世の浪人生が、学者ぶっていた。
まるで、ポケベルだ――と
ケータイが普及する以前の、最新の通信装置だったという。4文字の数字が送信されて、8451であれば、ハヨコイ………緊急の呼び出しという意味らしい。
使ったことは無くとも、知識として知っていたのだ。
突然、ベルの音が鳴り響いた。
ぴりりりり――と、この世界では聞きなれない電子音が、鳴り響いた。
「あぁ~、私だぁ~」
エルフちゃんが、上機嫌だ。
ケータイを持っている人間は、とても少ない。最新のファッションに身を包み、ご機嫌なコハル姉さんは、どこからかケータイを取り出した。ミニスカのポケットに入るはずの無い、むしろ映画で登場するトランシーバーという通信機器が、現れた。
ぽちっと、エルフちゃんは電話に出た。
「は~い、もしもし、わたし~――」
とっても、嬉しそうだ。
みつあみの金髪を揺らして、キョロキョロと周囲を見ながら、お話をしていた。待ち合わせのために、ケータイを使ったらしい。位置情報は表示されないのか、それ以前に、魔法で探知できそうだが………
巨大な腕が、レックには見えた。
「………あの、コハル姉さん………?」
ミニスカサンタが、歩いてきた。
姿は、確かにミニスカのサンタ様である。ミニスカであるのか、ロングがミニに見えてしまうのかは、分からない。
太ももが、ムキムキだった。
「あぁ~、こっちこっち~」
「あぁ~………待ち合わせの相手って、アリスちゃんッスか」
周囲より、頭がくっきりと出ていた。2メートルオーバーのマッチョは、サンタスタイルであった。いいや、魔女っ子スタイルのサンタバージョンといったほうがいいかもしれない。
カラーは、紫であった。
「あらん、レックちゃんもコハルちゃんも、よく似合ってるわねぇ~」
「はぁ、はぁ、レック君………分かってるじゃん――」
余計な人まで、セットだった。
水色のロングの姉さんは、とても久しぶりだ。瓶底メガネに博士の白衣という残念ファッションの姉さんは、転生者の先輩の一人である。
気付けば、周囲にカメラが浮いていた。
「ほら、ポーズを忘れてるよ、カメラ目線も忘れずにねっ」
腐女子の姉さんが、ヘカトンケイルというマジック・ハンドの能力を駆使して、カメラを操っていた。テクノ師団に所属のアラサーの姉さんである。
レックは、自動的にポーズをとっていた。
「………ヘカトンケイルでしたっけ………おひさしッス――」
目視できないマジック・ハンドの数は不明だ。レックは見えない手によって、いつの間にかポーズを決めていた。
エルフちゃんも、酸化をしていた。
「ひざの角度はこうね?」
「コハルちゃん、ウィンクも忘れちゃダメよ?」
「うひひひ、アリスちゃんも分かってるじゃん」
クリスマスカラーの大通りでは、ファッションショーが行われていた。




