魔法学校の、入学試験 7
闘技場のど真ん中で、レックは、食堂での会話に思いをはせた。
モンスターの大発生は、終わった。
国単位で言えば、10年に一度あるか、ないかと言う大災害であるが、お祭り騒ぎになるほど、手馴れたものでもあるという。そういえば、日常生活が続いていたと、レックは王都の様子を見て納得した。
魔王様であっても、対処方法はお祭りだった。
前を、見つめた。
「ゲームだったらエンディングで、勇者は旅立ったってって――」
「ふっ――少年よ、人生とは、永遠に終らない戦いなのだよ」
バトルは、始まっていた。
メイドさんは、お返事と同時に突撃をしてきた。ナイフという、短い武器であっても関係ない。
目の前の、恐怖だった。
「オレだって――」
レックは武器を振り回した。
レックの手には、久々の如意棒が握られていた。
先端に魔力の塊を発生させれば、中級魔法のカノン程度の威力が発揮される。ビーム・サーベルを生み出せば、とっても射程の長いサーベルになる。
むしろ、なぎなたジャベリンだ。
武器の長さで、有利になってくれるとよかったのだが――
「ふふふ、当たらなければ、どうと言うことはない」
お約束のセリフで、レックの振り回すビーム・ジャベリンをよけていた。ふわり、ふわりと、ロングスカートが舞い踊り、とっても優雅だった。
水風船で全方位を守り、そしてビーム・ジャベリンをデタラメに振り回すレックとは、正反対だ。
ツッコミの姉さんたちも、同じ心境らしい。
「レック~、ちゃぁ~んと、狙わなきゃだめよぉ~」
「メイド先生、いけぇ~、そんな弱っちそうなバリア、やっつけちゃえ~」
ルイミーちゃんは、メイド先生の味方のようだ。
レックは6歳の頃からお世話をして、時々であっても、遊んでくれるお兄さんと言う信頼関係はあると思う。
あるいは、下僕か
そんな信頼関係が、安心して、レックをディスることを許しているのだと、前世などは腕を組んで、うなずいていた。
他人事ゆえの気軽さだと、レックは脳内の光景を呪っていた。
レックは、悲鳴を上げた。
「バリアがっ――」
ルイミーちゃんの願いは、届いたようだ。
バリアは、無敵ではない。一定の攻撃ではじけてしまうが、そのために予備のバリアや、あるいはアーマーなどで補助している。
レックの場合は、6つの水風船で全身を覆っている。1つはじけても、残りの水風船が間に入って、あらゆる攻撃を防ぎ続けてきたのだ。
今までは。
「一瞬で、十分――」
メイドキックが、炸裂した。
雷の速度で、わずかな隙に入り込んだのだ。その勢いで新たに発生し始めた水風船を切り裂いて、そして、キックを見舞ってきた。
メイドキックが、炸裂だ。
バリアを切り裂いたのは、一本のナイフであった。巨大モンスターの牙に匹敵するようだ、魔力を込めて、突撃はレックの反応を許さない。
レックが肉薄するメイドさんの微笑みを認識した瞬間には、キックで遠くへと飛ばされていた。
「なぁぁ――」
なにが、起こったのだろう。
レックが疑問を抱く前に、メイドさんが現れた。そういえば、雷の力を使い、浮遊状態になれると思い出す。
レックは、落下だけだ。水風船のおかげで、クッションのように安全に着地できるが、その間、メイドさんからの攻撃は、受け放題だ。
如意棒で、応戦だ。
「こ、ちょっとは――」
この、ちょっとは加減をして下さいよ――
そんな憎まれ口など、まともに口から出るわけが無い。
ジグザグに、上下左右に斜めにと、6メートルに延びた如意棒の先に、さらに魔力で作ったビーム・サーベルを生み出している。バリアの内側から、安心してモンスターを討伐して来たレックである。
焦りに、デタラメに振り回していた。
メイドさんは、優雅によけて、くるくるとダンスを踊るように、すぐにレックに肉薄してくるのだ。
ナイフを持って。
「望めば、格闘技の授業もありますよ――」
レックの水風船が、上下に真っ二つだ。
足場がしっかりと、そして魔法のスタートダッシュのように、瞬時にメイドさんは突撃してくる、レックには不可能な、高速移動である。
魔力により、肉体は強化されている。靴底にバネでもあるように、人間では不可能な、垂直5メートルと言うすさまじいジャンプを出来るのが、レックである。
エルフたちは、50メートルだ。
メイドさんは、空中ジャンプが、爆発的だった。
「おぉ、と――」
地面に向けて、レックは急降下だ。
もしも、水風船と言うバリアが無くとも、試験のためにと渡されたクリスタルが守ってくれるはずで、安心してもよかった。
恐怖は、別だった。
「おたぁあああ――」
お助けください。
そんなセリフを言い終わる前に、地面が目の前で、そして、レックはゴムボールのように跳ね返っていた。
レックがバトルに慣れていれば、ここで体勢を立て直していただろう。ビーム・ジャベリンでなぎ払うように、横にスラッシュしてもいい。
残念、レックにそのようなスキルは無い。待ち構えてメイドさんが、優雅にスカートをつまんで、お辞儀をしていた。
「いらっしゃいませ――」
ナイフも、待っていた。
3分後――
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ………ドロシー姉さん、レーザー縛り無くても、良かったんじゃないッスか?」
セルフポーションで息を整えつつ、レックはメイドさんを見上げた。
「カルミー姉さん達もいるし、普段は観客もいるんですよ? あとは、建物も」
射撃場の、土ぼこりだけの空間以外では、巻き添えが大変だ。
縛りプレイは、当然だ。
どちらにしろ、メイドさんは圧勝だろう。水風船と言うバリアを切り裂かれ、修復の瞬間を逃さずに急接近で、蹴り飛ばされ………その連続で、レックが預かったクリスタルの色は緑から黄色に、そして赤色へと変わって、敗北の判定がされたわけだ。
一方的な、敗北だった。
「スラッシュができてればねぇ~………気付いていたと思うけど、それくらいなら、この闘技場の各所のバリアが防ぐのよ~」
「どうせ、よけられてたわよっ」
審判のカルミー姉さんはおいて、ルイミーちゃんは、なぜか得意げだった。
敗北したばかりのレックは、ただ、回復に努めていたが、美人なお姉さんの手が、差し出されていた。
思わず、見上げるレック15歳と、声をかけるドロシーお姉さん。
「レック君………」
静かに、レックの名前を呼んでいる。
健闘をたたえようというのか、レックはメイドさんの手を見つめた。ドロシー先生――と、口にしそうになって、レックは顔を上げて――
「クリスタル、回収します」
事務的な、対応だった。
なお、その後行われたルイミーちゃん VS ゴーレムさんの対決は、まるでお手本のように見事なものだった。
腹部のビーム発生装置からの攻撃を華麗によけつつ、ショット系を乱射、確実にダメージを与えつつ、ウォーター・カノンという最大の威力をけん制にして、トドメはウィンド・カッターと言う勝利だった。
倒せると思っていなかったようで、ドロシー先生は褒め称え、カルミー姉さんは、ちょっと嬉しそうだった。
ルイミーちゃんは、得意げだった。
そして、レックは――
「合格、出来るんでしょうかね、ステータス先生――」
拍手をしながら、お空の彼方を見つめていた。




