魔法学校の、入学試験 4
金髪のポニーテールを揺らして、レックはつぶやいた。
「アイツが、標的か………」
双眼鏡でのぞく気分は、ガンマンだ。
姿も、ガンマンである。エリが高いガンマンコートは、貧弱なボウヤには、少々ぶかぶかだ。まるで、背伸びをした子供であるが、レックには長い戦いを共に生き延びた、愛着のある姿である。
セーラー服だったり浴衣だったり魔女っ子衣装だったりと、エルフちゃんやテクノ師団の腐女子の姉さんのためにコスプレをしたレックだが、基本はガンマンだった。
メイドさんが、ツッコミを入れてきた。
「レック君………エルフ並の魔力があるのに、双眼鏡って………」
ドロシー姉さんは、ため息をついていた。
レックは、とても同意であった。エルフの国ではコハル姉さんと言う、見た目は12歳のエルフちゃんがサポートしてくれた。レックも視力を強化できるが、キロ単位ではない。接近されて、ぼんやりと見える程度だ。
目視よりは、はるかに遠距離を見渡せるのだが………
そのほかの戦いでも、馬のおっさんや人間ではない姉さん達や、冒険者の大先輩達の命じるままに戦ったわけだ。
あるいは、後始末や、討伐の確認もお任せだった。
攻撃力のみ、シルバー・ランクの<上級>となったレックは、双眼鏡を下ろす。
「へへへっ、初心を忘れるなって事でやんすか、ねぇ、ステータス先生………」
至近距離は置いて、長距離はエルフちゃんの指示に頼りきっていたのだと、いまさらながらに自覚した。大発生の場合は、とにかく大群を蹴散らせばよく、狙い撃つ戦いは、していなかったわけだ。
レックに、不足していたスキルだった。
「まぁ、魔法学校には、そのために通ってもらう………って、試験中だから、レック君、とっとと撃ってね?」
「へ~い………」
レックは、水球を6つ、生み出した。
標的は、複数である。100メートルを超える先の目標は、高さ2メートルの看板であった。木造だろうか、そして400メートル、1キロメートルと遠ざかると、肉眼で確認するなど、不可能だ。
100メートル先の標的にすら、そもそも当てられる自信が無い。今までは、ボスの巨大さと、ザコの皆様の大群だったために、当てられたのだ。
ホースで水をまくように、なぎ払えばよかったのだ。
レックは、集中した。
「まずは――」
そして、放った。
並みのモンスターなら、一撃だ。
ボスクラスでは皮膚が分厚く、かすっただけでは、かすり傷だ。それでも、集中砲火で楽勝と言うレーザーである。
100メートル先をめがけて、6方向からかき混ぜた。
「よしっ、的の人が気の毒だぜっ」
どうやら、調子付いてきたようだ。
「うわ~、見事に的を外してるわね~」
「ね~、シルバーの<上級>なんでしょ、なんで外してるの?」
「まぁ、あさっての方角へ放っていないので、マイナス点はひどくありませんよ。制御はできている証拠なので――」
外野の姉さん達は、えぐかった。
レックは、振り向くことができなかった。100メートル先の的の人は、土ぼこりを上げて舞い上がった。カメラアイ・ボールの人がしっかりと見ているのだろう、それを会場では、空中投影されているのだ。
舞い上がったのだ――
メイドさんは、宣言した。
「次、400メートル地点………レック君のまっすぐと前ですよ」
「レックちゃ~ん、がんばってね~」
「レック………双眼鏡で、ちゃんと目標を見るのよ?」
カルミー姉さんは純粋に、そして、ルイミーちゃんは冷静にレックへとアドバイスをしていた。
9歳児の、同じ受験生からの大切なアドバイスだ。
レックは、微笑を浮かべた。
「へへ………さっきも、ちゃんと双眼鏡を使ってたんッスよ、ルイミーちゃん様」
400メートル地点へと、レックはレーザーを放った。
1つだけでは、確実に外していただろう。ホースで水をまくようにしても、ジグザグにはなっても、目標が小さすぎると外す自信があった。
そのための、6つのレーザーによる、オーバー・キルである。
歓声が、上がった。
「すごい、まるで、的に当たっていない………」
「う~ん………ゴブリンよりは大きい標的と思うけど………」
「モンスターだったら、吹っ飛んで倒せてると思うの」
レックの背後では、クリスタルから投影される映像が、くっきりと見せているはずだ。
外したと。
レックの目の前の、まっすぐの遠くでは、土ぼこりが上がっていた。何かが上空へと吹き飛ばされたのは、レックの標的だ。カメラアイ・ボールの人は、その様子をくっきりと映像として、流しているのだろう。
メイドさんに、カルミー姉さんに、そしてルイミーちゃんは、その様子を見て感想を口にしていた。
的の人は、無事のようだ。
「では、最後の標的は、1キロ先です………他の的を、巻き込まないでね?」
ドロシー姉さんは、淡々と告げた。
ここは、攻撃魔法の練習場である。とっても広い運動場は、映画などで見る射撃場の印象で、そして、射撃場である。
たくさん標的があり、まっすぐと前を放てば、他の的を攻撃することも無い。
ピッチャーは、ノーコン――
そんな、スナイパー・ライフルの毒舌が聞こえた気がしたレックだった。
実際に、聞こえていた。
「いやぁ、見事なノーコンですね、このままでは、スリーアウト・チェンジとなってしまいますが、解説の田中さんは――」
カメラアイ・ボールの人が、レックの隣にいた。
魔法学校のカメラアイ・ボールの人は、おしゃべりなようだ。今まではじっと見詰めるだけだったが、我慢が出来なくなったらしい。
レックは、横を見た。
「田中さんって、だれ?」




