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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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 バイクと、インスタントと、前世


 ブロロロロロ―――


 バイクの振動が、心地よい。レックは久々の振動に、震えていた。


「ひゃっほぉ~………自由だ、自由なんだよぉおおっ」


 レックは、叫んだ。

 感動に震えているのだと、思い出すたびに、感動で震えて、魂が叫ぶのだ。


 そして、叫んだのだ。


「もう、仕事しないぞぉおっ――」


 やっと、出発できたのだ。

 バイクを購入、その他も色々と準備を終えた後、冒険者ギルドに向かった。旅のついでに、なにか依頼がないのかと言う、底辺冒険者としては、いいや、冒険者としては、当然の選択だった。


 出会ったのは、冒険者に成り立ての頃からお世話になっているパーティー『爆炎の剣』であった。調査の依頼があったと、共に戦おうと、誘われたのだ。


 もちろん、お受けした。


 普段より強いモンスターがいる、レックが遭遇し、命を落としかけた事件があった。偶然であるが、当事者のレックなのだ。そして、上の人たちは事件を重く受け止めていたらしい、シルバー・ランク冒険者へと依頼が出された。


 結果、恐れていた事態はなかった。


 ボスと呼んでいいモンスターが現れたが、その辺りによくいる、ザコの中ではボスと言う程度の、ボスだった。


『また会おう――』との言葉を残して、解散した。


『爆炎の剣』の面々は、家族の下へと戻るのだろう。いいご身分だ、パートタイムの冒険者パーティーなのだ。


 そして、レックは、旅に出た。


 念願のバイクの一人旅の初日なのだ。


「………寒いかも」


 肩を震わせ、つぶやいた。

 戦いの余韻を味わっていたが、寒さが、体を振るわせたのだ。


 本日も、小春日和だ。まだまだ、あたたかな季節だと思う。それでも、バイクを転がしていると、とっても寒かった。ガンアクションのためのコートを着込んでいたが、不足だった。

 冬になる前に、冬用の、しかもバイク用のコートを調達しようと、心に決めた。考えただけで、骨まで凍える気分だ。


 幸い、あたたかな太陽が地面を温める時間帯だ。なのに、レックはバイクで走っているために、風が常に肌を叩くために、肌寒い。


「だめだ、ちょっと休もう………」


 ゆっくりと、スピードを落とす。ミラーには、後続車両に、後ろから現れるモンスターにと、気配がない。


 ノロノロと、路肩に寄せた。

 ゆっくりと体を傾け、足をそっとえながらの操作も、慣れてきた。

 馬車や冒険者やその他が見当たらないが、ここは一応、道として分かる草原の道である。石畳でないのは残念だが、予算と言う言葉の前に、断念したのだろう。


 もっとも、レックのバイクでは、問題ない。小さいタイプであっても、岩場であっても問題ないタイプなのだ。

 スクーターでは危険な道、転倒事故が発生してもおかしくない道でっても、まったく問題がな意のだ。

 そういうバイクを選んだのだ。


 ヘルメットをかぶって、急斜面を登るバイクレースの記憶がよぎったが、きっとそのタイプだ。


「ふ~………なんで、ゴーグルとマスクしてたのか………やっと分かった」


 バイクから降りると、からだが冷えていたと、やっと思い出したように震える。

 バイクで旅するキャラが、フードにマスクにと、コートも着込んでいた。なぜか分からなかったが、バイクを走らせて見ると、実感した。


 10分、20分ならいいのだろうが………


 バイクキャラが、正しかった。そういえば、マフラーもしていたと、思い出す。カッコイイ、風になったと見守っていたが、必要だったのだ。


 震えつつ、レックはアイテム・ボックスに意識を移す。

 まずはピクニックシートを取り出す。ついでに、携帯コンロに、マグカップに、そして――


「転生者………仕事、しすぎだろう」


 木箱から、袋を一つ、取り出した。オレンジの縞々に、ピヨピヨという、ひよこのイラストまで再現して嫌がる。


 白黒なら、タイガーだ。


 そう、熱湯入れれば、3分という、一人暮らしの大親友まで、再現されていた。ドキュメンタリーだったか、バラエティーだったかで、見た覚えがあった。

 油で揚げたとか、何とか………


 転生チートは、ここでも先を越されていた。おそらくは、レックが思いつく前世の記憶は、役に立つまい。


 タルを、取り出した。

 30リットル入りのタルは巨大だが、魔法で取り出しているため、重さは感じない。アイテム・ボックスに感謝である。

 蛇口をひねると、ダバダバとお水が出てくる。

 じゃばじゃばと、とっての付いた鍋に、水が満ちる。


「熱湯の湯柱が、まともに使えたらなぁ………使ったら、大変だからなぁ~」


 タルを開発した先人にも、感謝である。

 魔法で水を生み出すことは、レックも出来る。ただし、水を生み出すだけである。実用的には、まだまだ、練習が必要だ。


 しかも、人のいない場所で、練習すべきだ。すでに先週のことであるが、ゴードンの旦那が、犠牲となった。

 クラミー姉さんのイタズラだと勘違いしたが、レックの仕業だった。お湯を出そうとしてかなり勢いをつけて、天空へと立ち上ったのだ。

 結果、熱湯の雨が降ったのだ。


 それは、思わぬ事故であり、そして、祝福すべき事件だった。


 レックにも、魔法の才能があったのだ。レックは少なくとも、手のひらから水を生み出し、シャワーと言うほどの熱湯を天空へと放つことが出来た。


 あとは、加減だ。

 にじむ程度か、熱湯の雨なのか、この二択は、つらい。大道芸であっても、迷惑と言う扱いだ。


 やはり、タルを開発した人に、そして、蛇口を開発した人に、感謝である。


 そして――


「アチチ………待ってろよ、今、解放してやるからな………」


 お湯がぶくぶくと騒ぎ始めたところで、紙袋を破った。

 紙パックの内側は、油紙と言うか、ビニール加工と言うか、スベスベだった。密閉の質を高めるためだろう。こういった工夫がなければ、保存食品は作れない。

 アイテム・ボックスがあれば、密閉容器に順ずる使い方が出来る。温度が徐々に逃げるので、保温効果はないものの………


 異空間の、不思議だった。


 アイテム・ボックスの能力は、誰もが持たないため、保存食料は重要なのだ。


 工業力に優れた都市があるに違いない。そして、そこでは前世日本と同じ生活水準である予感が、とてもしていた。


 しかし、その前に


「沸騰したお鍋にいれて、二分から三分間………はいはい、分かってますよ。独身生活が長かった――独身?」


 つぶやいて、レックは驚きに、動きを止める。

 まさか、いったいどういうことかと、顔を覆って、呼吸まで止まりそうだ。いったい自分は、何を口にしたのかと。


 前世の記憶が、混乱を始めた。

 なぜ、独身生活の長さが、思い浮かんだのか………


「ボクは、高校三年………四年生だ、浪人生じゃない、四年生だ――そのはず」


 前世の自分が、グラグラと煮える手鍋を見つめて、つぶやいた。


 考えないようにしていた、考える余裕もなかった不安が、鎌首をもたげていた。



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