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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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魔法学校の、入学試験 1


 クリスタル


 この世界では一般的に、魔法の力がこもったクリスタルをさす。

 しっかりとしたものならば魔法の宝石として磨き上げられ、砕かれても無駄にならない、粉末状になって魔法薬の材料となるのだ。

 レックの持つ冒険者証のように、記録装置としても使われる。


 レックは、クリスタルを見つめていた。


「受験票………ッスか?」


 単三電池サイズのクリスタルが加工され、金属の鎖と番号札がセットとなっている、今の身分の証だった。


 カフェテリアに入る前に、ドロシー姉さんから渡されたものである。


「合格すれば、学生証になるし、自販機の支払いもできるの。冒険者証と同じ役割ね?」


 そう言って、ドロシー姉さんは自分のクリスタルを取り出した。

 冒険者証とは別に、身分の証を手にしているようだ。前世でも、免許証と学生証と、そのほかカードはたくさん存在していた。


 この世界では、クリスタルのようだ。


「では、改めまして、レック君とルイミーちゃん、一次試験の合格、おめでとうございます」


 ドロシー姉さんが、突然に教師らしい姿を取る。

 カフェテリアへと案内され、軽食と共に学校のお話をしていた、学校案内として案内されたレックである。この世界の常識は、村人と言う日々と、底辺冒険者としての日々しか知らないレックである。


 とても、新鮮だった。

 立体映像の自販機に、クリスタルでの買い物に………


 テスト用紙が、現れた。


「二次試験です」


 空になったお皿を横に、2枚のテスト用紙が、現れた。学校の支給品なのだろう、ボールペンらしき筆記用具もセットであった。

 レックたち5人が談笑していたテーブルが、突如として処刑場に変わった気分のレックであった。


「あ………あの、ドロシー姉さん、オレっち――」


 ――試験勉強なんて、していません


 口にしかけて、震えた。

 前世の浪人生が、胸を抑えて、うずくまっていた。レックの脳内の出来事でありながら、今のレックと重なって、恐怖の光景であった。


 解放されたはずだ――そう言って震える前世が、痛々しい。レックもまた、同じ姿をとりそうになって、固まっていた。


 案内板を読める程度の教育は村人生活で、そして魔法はカルミー姉さんと言う、目の前にいる魔法使いのお姉さんから教えてもらったものだ。

 一般の冒険者の暮らしには十分だが、受験には不足ではないのかと、不安なのだ。


 レックは、震えた。


「えっと、今?」


 試験対策など、まったくしていないのだと、レックは願い出ようとする。日を改めて、お願いします――と


「これです」

「これね?」

「あらあら~」


 レック以外は、冷静だった。

 涙目でテスト用紙を見つめるレックに、ドロシー姉さんは追い討ちをかける。


「20分です、3、2――」


 カウントダウンが、始まった。


 レックの脳内では、前世があわてて参考書を取り出し、単語帳を取り出し、電子辞書に計算機に――


 レックは、あわててボールペンを手にした。


「ナムさん――」


 ヤケだった。

 前世などは、数珠を手にして、念仏を唱えていた。なぜか正座で、縁起の悪いことに、白装束であった。


 脳内の光景の、めまぐるしいことである。試験内容を見る前から、すでに結果を覚悟した姿だ。


 そして、20分後――



「はい、お疲れ様でした」


 ドロシー姉さんが、レックとルイミーちゃんの前に置かれたテスト用紙を回収した。2人とも、時間を半分も残した状態で、すでに解き終わっていた。


 ルイミーちゃんは満足げに、レックはとても不安げだ。


 もう、よいだろうかと、レックは顔を上げた。


「あ、あのぉ~、ドロシー姉さ――先生?」


 おそるおそると、手を上げていた。

 震えており、不思議と言う気分と、不安と言う気分で一杯だった。テスト問題を解き終えて、それは完璧と言うはずでも抱く、不安であった。


 レックの答案用紙は、全て埋まっていた。


「結果は、まだ教えられませんよ?」


 お姉さんは、すましたお顔だった。

 答えてくれないと察したレックは、すごすごと引き下がる。しかし、本当によいのだろうと、不安なのだ。


 簡単すぎる――と、違和感で不安だった。


 ルイミーちゃんは、得意げだった。


「わたし、全部解けたよ………レックもみたいだけど――」


 おそろいは、不満らしい。その気持ちは、なぜかレックも同意であった。お世話になっているカルミー姉さんの娘さまである。自分より頭の出来がよいと、本気で思っているのは、実感も手伝っている。

 お世話をした日々はわずかでも、実感できる色々があったのだ。


 そのルイミーちゃんと、同じ立場に上がったと思うと、よいのだろうかと言う不安な気持ちが湧き上がるのだ。


「見た感じ、全問正解よね~………二人とも」

「そうです。授業を受けられる語学力があれば、合格ですから………おっと、今はまだ秘密でしたね」


 お姉さん達は、のんびりとしていた。

 どちらも、魔法学校の先生と言う立場である、一人は臨時のパートタイムで、もう一人は自称・幽霊教師と言うお姉さんである。


 学校の怪談の恐怖から立ち上がりかけたレックは、正体は幽霊と言うオチを妄想して、再びふるえはじめる。


 震えて、立ち上がった。


「チート、きたぁあああああっ」


 前世も一緒に、叫んでいた。





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