表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
187/262

魔法学校の、カフェテリア


 白く、清潔な空間が、広がっていた。


 石畳と言うよりはタイル張りで、しかし白色の一色ではなく、カラフルなタイルが目を楽しませてくれる。モザイク模様とでも言うのか、花柄や可愛らしい動物や、風景としての木々もあった。

 木製の机も白く、清潔を第一にしている印象だ。


 さすがだという感想を、レックは素直に口にした。


「へへへ 、さすがは、魔法学校ッスね………」


 入り口で、立ち尽くしていた。


 ゴーレムによる、自動ドアだった。


「ただの自動ドアですよ?」


 メイドのドロシー姉さんは、おすまし顔だった。

 楽しんでいるお顔だと、レックは理解し始めていた。美人であることを理解しているための、すましたお顔なのだ。


 扉を前に、レックはつぶやいた。


「へへ、二宮の兄貴も、こういった最新設備ってことですかい………」


 顔が情けなく、半泣きだった。

 学校の怪談から、生き延びた気分だった。この学校ではベートーベンの肖像画しょうぞうがの目が動き、人体模型が廊下を全速力でダッシュし、上り下りする階段の数が常に変わり………

 学校の7不思議と、次々に出会う予感があったのだ。


 全て、最新設備で解決だ。


「ねぇ~、なんでレックはゴーレムさんと見詰め合ってたの?」

「そうねぇ~、なんででしょうね~?」


 母娘そろって、レックの驚く姿を楽しんでおいでだった。

 レックが銅像と見つめあい、ビクビクとおびえていた姿が、面白かったらしい。銅像が動く程度、全て魔法技術で解決が、この世界の常識なのだ。


 異なる常識を持つために、レックはおびえていたのだ。


 学校の、怪談だ――と


「レック君、おかしなことを言わないでね?」


 同じく前世を持つドロシーお姉さんが、困った演技をしておいでだ。

 レックが恐怖した理由をご存知のはずの、前世は日本人の大学生らしい、名前をヨシオ兄さんというドロシーお姉さんは、辛らつだった。


 分かっていて、やっておいでなのだ。


「それより、注文しましょうか………レック君から、どうぞ?」


 ヨシオ兄さんが、笑っている。

 レックは悔しい気持ちを抱きつつ、転生者向けのトラップに注意だと、心を引き締める。エルフの国の入り口には、ジャパニーズ・ホラーというサービスが待っていたのだ。

 学校では、七不思議が待っているに違いない。では、カフェテリアでは、なにが待っているのだろう。


 清潔な空間を進むと、立ち止まった。


「………自販機――ッスか」


 またも、レックは立ち止まった。


 間違いなく、転生者がやらかした品物だ。ひらがなで『じはんき』と、一番上でピカピカと輝いている。日本人にしか分かるまい、この世界の文字ではないのだ。

 チケットを手にして、カウンターで料理を受け取る方式だ。カフェテリアと言われた通りの、とっても現代的な食堂だった。

 ただし、スイッチの上に並ぶ商品名は、全てこの世界のものだ。


「レック君なら、使い方が分かるでしょ?」


 ドロシー姉さんの言葉により、レックは先頭で立ち尽くしていた。新たな技術の、実験台にされる気分である。

 危険はないと思いたいレックだが、スイッチに伸ばす手が、緊張で震えた。

 購入できるものだけ、光が点灯している。ただ、人が少ない時期のためだろう、メニューは少なかった。


 100を超えるメニューがあるのだ、そのあたりの食堂とも、引けは取るまい。

 後ろから見つめていたカルミー姉さんは、懐かしそうだった。


「あら、メニューが増えてるのね………エビチリチリチリ?」


 幸い、ランプは沈黙していた。


『チリチリチリ』という、チリチリと舌がしびれて、むしろ燃え上がりそうな真っ赤なメニューが、脳裏に浮かんだ。

 真っ赤なエビが、さらに残酷な赤い輝きで燃えているのだろう。間違いなく、度胸試しのためのメニューだと思った。


 さすがは、学食だと――


「立体映像?………」


 レックは、手をスイッチにかざしたまま、動けなくなっていた


『ツナマヨサンド』


 商品名に懐かしさを覚え、無意識のことだった。ツナマヨおにぎりは慣れ親しんだが、サンドイッチでも好みの味であると、手を伸ばしていたのだ。


 目の前に、浮かんでいた

『ツナマヨサンド』が、浮かんでいた。


「あぁ、学校くらいかな、新技術ってすごいわよね~」

「魔法の感じがする~………ねぇ、お母さん、これな~に?」

「幻術の一種だと思うけど………面白いわね。テクノ師団の流用品なの」

「ふ~ん………」


 カルミー姉さんと言う母親と、ルイミーちゃんと言う娘さんの会話が、とっても和やかだ。固まるレックを前に、そういうものかと言う、お子様の納得の反応が可愛らしい。


 見事な、サプライズだった。


「前世、負けてないッスか、ドロシー姉さん」


 驚いたレックは、観想を口にする。


 前世であれば、レストランのメニューであろう。写真でイメージさせる、むしろ食品サンプルだろうか、手にすれば食べられそうな見た目で、ホンモノと見分けがつかずに、感心したものだ。


 立体映像が、浮かび上がっていた。


「せっかくなので、オレっちはこれを――」


 料理の名前で分からなくとも、見た目でおおよその雰囲気がつかめるものだ。ニオイの再現まではできていないが、立体映像のメニュー表など、さすがは異世界だと思った。


 カフェテリアは、ややSFだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ