魔法学校の、カフェテリア
白く、清潔な空間が、広がっていた。
石畳と言うよりはタイル張りで、しかし白色の一色ではなく、カラフルなタイルが目を楽しませてくれる。モザイク模様とでも言うのか、花柄や可愛らしい動物や、風景としての木々もあった。
木製の机も白く、清潔を第一にしている印象だ。
さすがだという感想を、レックは素直に口にした。
「へへへ 、さすがは、魔法学校ッスね………」
入り口で、立ち尽くしていた。
ゴーレムによる、自動ドアだった。
「ただの自動ドアですよ?」
メイドのドロシー姉さんは、おすまし顔だった。
楽しんでいるお顔だと、レックは理解し始めていた。美人であることを理解しているための、すましたお顔なのだ。
扉を前に、レックはつぶやいた。
「へへ、二宮の兄貴も、こういった最新設備ってことですかい………」
顔が情けなく、半泣きだった。
学校の怪談から、生き延びた気分だった。この学校ではベートーベンの肖像画の目が動き、人体模型が廊下を全速力でダッシュし、上り下りする階段の数が常に変わり………
学校の7不思議と、次々に出会う予感があったのだ。
全て、最新設備で解決だ。
「ねぇ~、なんでレックはゴーレムさんと見詰め合ってたの?」
「そうねぇ~、なんででしょうね~?」
母娘そろって、レックの驚く姿を楽しんでおいでだった。
レックが銅像と見つめあい、ビクビクとおびえていた姿が、面白かったらしい。銅像が動く程度、全て魔法技術で解決が、この世界の常識なのだ。
異なる常識を持つために、レックはおびえていたのだ。
学校の、怪談だ――と
「レック君、おかしなことを言わないでね?」
同じく前世を持つドロシーお姉さんが、困った演技をしておいでだ。
レックが恐怖した理由をご存知のはずの、前世は日本人の大学生らしい、名前をヨシオ兄さんというドロシーお姉さんは、辛らつだった。
分かっていて、やっておいでなのだ。
「それより、注文しましょうか………レック君から、どうぞ?」
ヨシオ兄さんが、笑っている。
レックは悔しい気持ちを抱きつつ、転生者向けのトラップに注意だと、心を引き締める。エルフの国の入り口には、ジャパニーズ・ホラーというサービスが待っていたのだ。
学校では、七不思議が待っているに違いない。では、カフェテリアでは、なにが待っているのだろう。
清潔な空間を進むと、立ち止まった。
「………自販機――ッスか」
またも、レックは立ち止まった。
間違いなく、転生者がやらかした品物だ。ひらがなで『じはんき』と、一番上でピカピカと輝いている。日本人にしか分かるまい、この世界の文字ではないのだ。
チケットを手にして、カウンターで料理を受け取る方式だ。カフェテリアと言われた通りの、とっても現代的な食堂だった。
ただし、スイッチの上に並ぶ商品名は、全てこの世界のものだ。
「レック君なら、使い方が分かるでしょ?」
ドロシー姉さんの言葉により、レックは先頭で立ち尽くしていた。新たな技術の、実験台にされる気分である。
危険はないと思いたいレックだが、スイッチに伸ばす手が、緊張で震えた。
購入できるものだけ、光が点灯している。ただ、人が少ない時期のためだろう、メニューは少なかった。
100を超えるメニューがあるのだ、そのあたりの食堂とも、引けは取るまい。
後ろから見つめていたカルミー姉さんは、懐かしそうだった。
「あら、メニューが増えてるのね………エビチリチリチリ?」
幸い、ランプは沈黙していた。
『チリチリチリ』という、チリチリと舌がしびれて、むしろ燃え上がりそうな真っ赤なメニューが、脳裏に浮かんだ。
真っ赤なエビが、さらに残酷な赤い輝きで燃えているのだろう。間違いなく、度胸試しのためのメニューだと思った。
さすがは、学食だと――
「立体映像?………」
レックは、手をスイッチにかざしたまま、動けなくなっていた
『ツナマヨサンド』
商品名に懐かしさを覚え、無意識のことだった。ツナマヨおにぎりは慣れ親しんだが、サンドイッチでも好みの味であると、手を伸ばしていたのだ。
目の前に、浮かんでいた
『ツナマヨサンド』が、浮かんでいた。
「あぁ、学校くらいかな、新技術ってすごいわよね~」
「魔法の感じがする~………ねぇ、お母さん、これな~に?」
「幻術の一種だと思うけど………面白いわね。テクノ師団の流用品なの」
「ふ~ん………」
カルミー姉さんと言う母親と、ルイミーちゃんと言う娘さんの会話が、とっても和やかだ。固まるレックを前に、そういうものかと言う、お子様の納得の反応が可愛らしい。
見事な、サプライズだった。
「前世、負けてないッスか、ドロシー姉さん」
驚いたレックは、観想を口にする。
前世であれば、レストランのメニューであろう。写真でイメージさせる、むしろ食品サンプルだろうか、手にすれば食べられそうな見た目で、ホンモノと見分けがつかずに、感心したものだ。
立体映像が、浮かび上がっていた。
「せっかくなので、オレっちはこれを――」
料理の名前で分からなくとも、見た目でおおよその雰囲気がつかめるものだ。ニオイの再現まではできていないが、立体映像のメニュー表など、さすがは異世界だと思った。
カフェテリアは、ややSFだった。




