お久しぶりッス、カルミー姉さん
爆炎の剣
シルバー・ランク冒険者パーティーの名前であり、レックが冒険者になってばかりの頃から、お世話になりまくっている、頭の上がらないパーティーの名前である。
ガンマンに、ファイターに、剣士に………
そして、魔法使いのカルミー姉さんが、最大の火力を誇って、地位も一番高かった。リーダーはゴードンの旦那と言う剣士だが、お姉さんには、逆らえぬのだ。
すでに子持ちであり、子守を任されたレックは、喜んでお世話をしたものだ。
「――ってことで、ルイミーちゃんとはよく遊んでたんッスけどね、まさか、魔法学校に来るなんて………」
腰をかがめて、ルイミーちゃん9歳の頭をなでていた。
母親譲りの紫を帯びた黒のロングヘアーに、これで、紫の魔法のローブを見につけていれば、本当にそっくりだと、懐かしそうだ。
レックがそう思っていると、そっくりな姉さんが現れた。
本当に、現れた。
「かっ、カルミー姉さん………」
レックの目の前への、久々の登場だった。
9歳のルイミーちゃんが、一人で学校に現れるわけがないのだ。学校への案内なら、保護者もセットが常識だった。思いつかなかったのは、驚きの連続のためである。
レックの下っ端モードは、即座に起動した。
「へへへっ、ご無沙汰をしてやす、いやぁ~、カルミー姉さんは、相変わらずお美しい」
小物パワーと、下っ端パワーがタッグを組んでいた。
女性に対して腰が低くなるのは、レックの本能といってもよい。前世もまた、腰を低くしていた。
お調子者の底辺冒険者に、学者をぶった前世という自称・高校4年生がタッグを組んだ少年こそが、今のレックなのだ。
隣で、しらけたお顔の9歳児がいても、気にするわけもない。しらけた顔で、レックを見上げていた。
「………相変わらずね、レック」
「ふふ、そうよ、ルイミーちゃんのお母さんは、いつまでも若々しくて、美しいのよ?」
魔法使いのお姉さんは、言い放った。
いったい、誰が反論できるというのか。ルイミーちゃんすら、口をもごもごとさせつつ、沈黙しているのだ。
とっても、賢いお子様だ。
そこへ、メイドさんが入ってきた。
「とりあえず、学校案内を………ルイミーちゃんと、お母さんもよろしければ――」
先生としての姿なのか、ドロシー姉さんは、学校案内を申し出た。
元々、レックはその予定で連れまわされたわけである。では、ルイミーちゃんと、母親のカルミー姉さんには、どのような予定があったのか。
レックがカルミーたちを見ていると、微笑んでいた。
「じゃぁ、お願いしようかしら――と言っても、かって知ったる母校で、実は臨時講師もしてるのよね~」
パートタイムの手は、とても広いようだ。
子育ても落ち着いたと、パートタイムで冒険者をして、ついでにレックに魔法を教えてくれたお姉さんである。
それに、シルバー・ランク冒険者は多くない。臨時でも、ありがたいはずだ。
ドロシー姉さんが、話に入ってきた。
「私は、幽霊教師ね?」
忘れていた、教師設定の強調であろう。レックはそう思った、魔王様が封じられた神殿において、メイドさんをしていたのだ。住み込みであれば、何年前から教師の職務を放棄していたのか、不明である。
レックは、放置でよいと決断し、改めて学校を見回した。
色々なことがありすぎて、じっくりと見ていなかった。石畳は清潔で、この世界の技術力の高さを表す。前世でも石畳を模した道路があったが、それに負けないくらい整頓されていた。
案外、コンクリートかもしれないと思いながら、建物を見て思った。
コンクリート製の、学校という姿の学校だった。
そう、エルフの国で見たコンクリートの建物の軍勢と、とても似通った雰囲気のコンクリートの構造物だった。
「ホント………学校ッスね」
「言ったでしょ、魔法学校だって」
「ゴーレムさんの門にも書いてあるでしょ、レック」
「あらあら~、レックちゃん、緊張してるのかしら?」
皆様の言葉に、レックは答えなかった。
そういう意味ではない――その答えを知っているはずのヨシオ兄さんは、メイドさんとして微笑んでいた。
分かっていての発言だと、レックは思った。
ファンタジーの学園生活と言うよりも、なぜか、ここだけ日本の学校風景と言う光景への、違和感なのだ。
ファンタジー作品における学校は、貴族のお屋敷、あるいはお城のようなファンタジーと言う形をしているものだ。
なのに、四角いコンクリート、もしくはモルタル作りの日本の学校の姿であるのだ。風見鶏も、わざわざニワトリなのだ。
チャイムの音まで、聞こえてきそうだ。
本当に、聞こえてきた。
「………間違いなく、学校っすね」
き~ん、こぉ~ん、かぁ~ん、こぉ~ん………と、学校のチャイムの音が、とても懐かしかった。
給食の時間だと、授業と言う苦しみから、ひと時でも解放される音であった。この時期は、学校はお休みなのだろうか。
メイドさんが、指を刺す。
「食堂で、お茶しましょう………」
言われるままに、案内が始まった。
生徒がいない時期らしく、学校は静かで、そして、とても広かった。前世の学校がとても小さく感じる。その意味では、ファンタジーといってもいいのだろうか。
ゴーレムの門からまっすぐ進むと、四角い校舎のまの空間が、内庭と言う庭園が、出迎えてくれた。
等間隔に木々が植えられ、季節の花々の花壇もあった。花時計も、どこかにあるかもしれないと、レックは珍しそうに見回していた。
その間にも、メイドさんの案内は続く。
「案内で知っているかもしれませんが、早ければ10歳から入学で、レック君みたいに15歳での入学も珍しくないですね。冒険者枠なら、20近くでの入学もありますし――」
適度に木々が植えられた庭を歩きながら、メイドさんが語り始める。
前世の浪人生などは、日本とは大きく異なるのだと、うなずいていた。懐かしい光景に思えて、違う世界なのだという感慨で一杯だった。
もちろん、レックの脳内の光景だった。
レックは、立ち止まった。
銅像が、《《こちらを見ていた》》ためだ。
「金次郎さん………ッスよね?」
薪を背負い、本を開いている少年の銅像があった。
とても有名な、昔の偉人である。歩き出せば、学校の怪談なのだが………
レックは、立ち止まっていた。
「あの、ドロシー姉さ――先生、二ノ宮の兄貴が、《《こっちを見てる》》んッスけど?」
きらりと、目が光った気がした。
物理的に、カメラアイ・サーチという目線が、《《レックたちを見ていた》》。異世界ファンタジーに見えて、転生者が様々にやらかした世界である。二宮金次郎先生の銅像があっても不思議はないが、《《こっちを見ていた》》のだ。
ややSFという、銅像に見せかけた監視システムだろうかと、レックは質問をしようと、口を開いたのだ。
様子が、おかしかった。
「レック君、学校の怪談ごっこですか?」
ドロシー姉さんは、振り向かないまま、告げた。
振り向かずに、告げたのだ。
まるで、秘密を隠しています。私は、なにも知りません――というフラグのようだと、レックは震えだす。秘密を知っているからこそ、知らないフリをしていると………
ゴーレムという可能性が、高いだろう。だが、ここが学校と言う場所だと思えば、なぜか、学校の怪談になってしまう不思議であった。
レックは不思議と、見詰め合っていた。
「………えっと、えっと………」
異世界の学校は、やや怪談のようだ




