表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
186/262

お久しぶりッス、カルミー姉さん


 爆炎の剣


 シルバー・ランク冒険者パーティーの名前であり、レックが冒険者になってばかりの頃から、お世話になりまくっている、頭の上がらないパーティーの名前である。

 ガンマンに、ファイターに、剣士に………

 そして、魔法使いのカルミー姉さんが、最大の火力を誇って、地位も一番高かった。リーダーはゴードンの旦那と言う剣士だが、お姉さんには、逆らえぬのだ。


 すでに子持ちであり、子守を任されたレックは、喜んでお世話をしたものだ。


「――ってことで、ルイミーちゃんとはよく遊んでたんッスけどね、まさか、魔法学校に来るなんて………」


 腰をかがめて、ルイミーちゃん9歳の頭をなでていた。

 母親譲りの紫を帯びた黒のロングヘアーに、これで、紫の魔法のローブを見につけていれば、本当にそっくりだと、懐かしそうだ。


 レックがそう思っていると、そっくりな姉さんが現れた。


 本当に、現れた。


「かっ、カルミー姉さん………」


 レックの目の前への、久々の登場だった。

 9歳のルイミーちゃんが、一人で学校に現れるわけがないのだ。学校への案内なら、保護者もセットが常識だった。思いつかなかったのは、驚きの連続のためである。


 レックの下っ端モードは、即座に起動した。


「へへへっ、ご無沙汰ぶさたをしてやす、いやぁ~、カルミー姉さんは、相変わらずお美しい」


 小物パワーと、下っ端パワーがタッグを組んでいた。


 女性に対して腰が低くなるのは、レックの本能といってもよい。前世もまた、腰を低くしていた。

 お調子者の底辺冒険者に、学者をぶった前世という自称・高校4年生がタッグを組んだ少年こそが、今のレックなのだ。


 隣で、しらけたお顔の9歳児がいても、気にするわけもない。しらけた顔で、レックを見上げていた。


「………相変わらずね、レック」

「ふふ、そうよ、ルイミーちゃんのお母さんは、いつまでも若々しくて、美しいのよ?」


 魔法使いのお姉さんは、言い放った。

 いったい、誰が反論できるというのか。ルイミーちゃんすら、口をもごもごとさせつつ、沈黙しているのだ。

 とっても、賢いお子様だ。


 そこへ、メイドさんが入ってきた。


「とりあえず、学校案内を………ルイミーちゃんと、お母さんもよろしければ――」


 先生としての姿なのか、ドロシー姉さんは、学校案内を申し出た。

 元々、レックはその予定で連れまわされたわけである。では、ルイミーちゃんと、母親のカルミー姉さんには、どのような予定があったのか。

 レックがカルミーたちを見ていると、微笑んでいた。


「じゃぁ、お願いしようかしら――と言っても、かって知ったる母校で、実は臨時講師もしてるのよね~」


 パートタイムの手は、とても広いようだ。

 子育ても落ち着いたと、パートタイムで冒険者をして、ついでにレックに魔法を教えてくれたお姉さんである。

 それに、シルバー・ランク冒険者は多くない。臨時でも、ありがたいはずだ。


 ドロシー姉さんが、話に入ってきた。


「私は、幽霊教師ね?」


 忘れていた、教師設定の強調であろう。レックはそう思った、魔王様が封じられた神殿において、メイドさんをしていたのだ。住み込みであれば、何年前から教師の職務を放棄していたのか、不明である。


 レックは、放置でよいと決断し、改めて学校を見回した。


 色々なことがありすぎて、じっくりと見ていなかった。石畳は清潔で、この世界の技術力の高さを表す。前世でも石畳を模した道路があったが、それに負けないくらい整頓されていた。

 案外、コンクリートかもしれないと思いながら、建物を見て思った。


 コンクリート製の、学校という姿の学校だった。

 そう、エルフの国で見たコンクリートの建物の軍勢と、とても似通った雰囲気のコンクリートの構造物だった。


「ホント………学校ッスね」

「言ったでしょ、魔法学校だって」

「ゴーレムさんの門にも書いてあるでしょ、レック」

「あらあら~、レックちゃん、緊張してるのかしら?」


 皆様の言葉に、レックは答えなかった。

 そういう意味ではない――その答えを知っているはずのヨシオ兄さんは、メイドさんとして微笑んでいた。

 分かっていての発言だと、レックは思った。


 ファンタジーの学園生活と言うよりも、なぜか、ここだけ日本の学校風景と言う光景への、違和感なのだ。

 ファンタジー作品における学校は、貴族のお屋敷、あるいはお城のようなファンタジーと言う形をしているものだ。


 なのに、四角いコンクリート、もしくはモルタル作りの日本の学校の姿であるのだ。風見鶏かざみどりも、わざわざニワトリなのだ。

 チャイムの音まで、聞こえてきそうだ。


 本当に、聞こえてきた。


「………間違いなく、学校っすね」


 き~ん、こぉ~ん、かぁ~ん、こぉ~ん………と、学校のチャイムの音が、とても懐かしかった。


 給食の時間だと、授業と言う苦しみから、ひと時でも解放される音であった。この時期は、学校はお休みなのだろうか。


 メイドさんが、指を刺す。


「食堂で、お茶しましょう………」


 言われるままに、案内が始まった。

 生徒がいない時期らしく、学校は静かで、そして、とても広かった。前世の学校がとても小さく感じる。その意味では、ファンタジーといってもいいのだろうか。


 ゴーレムの門からまっすぐ進むと、四角い校舎のまの空間が、内庭と言う庭園が、出迎えてくれた。

 等間隔に木々が植えられ、季節の花々の花壇かだんもあった。花時計も、どこかにあるかもしれないと、レックは珍しそうに見回していた。


 その間にも、メイドさんの案内は続く。


「案内で知っているかもしれませんが、早ければ10歳から入学で、レック君みたいに15歳での入学も珍しくないですね。冒険者枠なら、20近くでの入学もありますし――」


 適度に木々が植えられた庭を歩きながら、メイドさんが語り始める。

 前世の浪人生などは、日本とは大きく異なるのだと、うなずいていた。懐かしい光景に思えて、違う世界なのだという感慨で一杯だった。

 もちろん、レックの脳内の光景だった。


 レックは、立ち止まった。


 銅像が、《《こちらを見ていた》》ためだ。


「金次郎さん………ッスよね?」


 たきぎを背負い、本を開いている少年の銅像があった。

 とても有名な、昔の偉人である。歩き出せば、学校の怪談なのだが………


 レックは、立ち止まっていた。


「あの、ドロシー姉さ――先生、二ノ宮の兄貴が、《《こっちを見てる》》んッスけど?」


 きらりと、目が光った気がした。

 物理的に、カメラアイ・サーチという目線が、《《レックたちを見ていた》》。異世界ファンタジーに見えて、転生者が様々にやらかした世界である。二宮金次郎先生の銅像があっても不思議はないが、《《こっちを見ていた》》のだ。

 ややSFという、銅像に見せかけた監視システムだろうかと、レックは質問をしようと、口を開いたのだ。


 様子が、おかしかった。


「レック君、学校の怪談ごっこですか?」


 ドロシー姉さんは、振り向かないまま、告げた。


 振り向かずに、告げたのだ。


 まるで、秘密を隠しています。私は、なにも知りません――というフラグのようだと、レックは震えだす。秘密を知っているからこそ、知らないフリをしていると………


 ゴーレムという可能性が、高いだろう。だが、ここが学校と言う場所だと思えば、なぜか、学校の怪談になってしまう不思議であった。


 レックは不思議と、見詰め合っていた。


「………えっと、えっと………」


 異世界の学校は、やや怪談のようだ



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ