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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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魔法学校の、門前にて


 レックは、立ち尽くしていた。


 ゴーレムの守る門を過ぎたところで、立ち尽くしていた。

 長くなってきた金髪が、風になびいている。本日はポニーテールだが、エルフちゃんたちの仕業ではない。髪の毛が長くなり始めれば、ポニーテールは、とても楽なのだ。


 メイドさんが、ポーズを決めていた。


「レック君、一次試験のクリア、オメデトウ」


 包帯の左手で顔の半分を覆って、祝福してくれた。

 レックは、うなだれていた。


「………試験だったんッスか――」


 封印の神殿と同じだ――と、メイドさんは語っていた。

 魔王様が封じられた神殿においては、エルフレベルの魔力値が必要とされていた。魔王様と戦うのだ。最低限の力が必要だったわけだが、魔法学校でも、同じだったようだ。


 一次試験の、クリアだ。


「まぁ、神殿と違って、クリア条件は魔力値が100を超える………中級魔法を、最低限って所だけどね?」


 にっこりと、笑っておいでだ。

 中二を全開にしてお出迎えだったが、まだ、続いているようだ。どこかのエルフちゃんのように、老子を気取っているのかもしれない。

 メイドさんの前世である、ヨシオ兄さんの影が見えて、微妙な笑みのレックである。前世を持っている人物は、時折、どちらかの人格が色濃く出るのだ。


 取り込まれ、魔女っ子になったマッチョもいるが、では、レックはどのような人格の持ち主になったのだろうか。


「へへへ………それはそれは、ありがとうございやす。じゃぁ、これで――」


 ――合格だろうか


 レックの仲の浪人生は、必死にゴマをすっていた。

 自称・高校4年生の前世は、必死であった。受験勉強など、二度とゴメンであると、とっても必死だった。

 レックもまた、必死だった。


「いやぁ~、入学案内って、そういうことですよね~、もう、入学は決まってるってもんで、へへへ、ドロシー姉さんも、お人が悪い」


 小物パワーが、絶好調だ。

 下っ端の態度で、手のひらを合わせて、腰を低くして愛想笑いを決め込んだ。本当に、自分でも楽しくなってきたレックである。


 メイドさんは、にっこりと笑っていた。


「次は、二次試験ね?」


 楽しそうに、笑っていた。

 本当に楽しいのだろう、受験勉強は地獄であり、テストなどごめんと言うレックの気持ちを、よくわかっておいでなのだ。


 ディスられた――と、前世は地面に倒れこんだ。

 もちろん、レックの脳内の出来事である。しかしながら、気分は絶望で、剣で切りつけられたような気分だった。


 ザコなハートのレックは、涙目だ。


「あの………転生者の特権じゃ、ないんッスか?試験の免除は………」


 お約束だと、信じたいのだ。

 試験勉強など、テストなど、二度とゴメンなのだ。

 すばらしい魔法の才能を見せたなら、試験は素通りで、特待生として、専用の個室なり、待遇なりが約束されて欲しい。転生主人公なら、そうしたチートがあって欲しいと、前世などは土下座をして、懇願していた。


 入学案内の時点で、そんなフラグを期待していなかったわけではない。いまさら、学校は面倒だと思った気持ちと、天秤が揺れ動く程度には、期待があったのだ。


 楽しい異世界学園ライフ………悪くない――


 そんな調子に乗った気持ちをディスったメイドさんは、微笑んでいた。


「二次試験の次は、三次試験に………あぁ、筆記と実技と、あと、最終試験は油断しないように、注意だよ?」


 あえて、お姉さんぶっていた。

 いや、教師の気分を演出しているのかもしれない。メイドさんの前世である、顔も知らないヨシオ兄さんが高笑いしている姿が見えてきた。


 レックが地面にひざをつけて絶望していると、元気なお子様の声が聞こえてきた。


「あぁ~っ、レックだぁ~っ!」


 生意気盛りな、お子様の声であった。

 レックの後ろからの登場であり、しかし、レックは振り向く必要なく、すでにゴマスリモードになっていた。


 にこやかに、振り向いた。


「へへへ、ルイミーちゃんじゃないの。えっと、どうしてここに?」


 9歳の女の子が、かけてきた。

 レックの顔なじみの、悪魔であった。

 悪魔は、あくまで例えである。しかし、世話を押し付けられた経験から、悪魔としか思えない女の子が、腰に手を当てて仁王立ちだった。


 《《ゴーレムの門を通り抜け》》て、レックの前で仁王立ちだった。


 つまり――


「ゴーレムさん、なにしてるんッスか、子供を入れちゃ、ダメっしょ………」


 魔法学校の敷地の、こちら側に来てしまったわけだ。ゴーレムという門番の人は、子供には甘いのかもしれない。

 レックがそう思ったのは、前世のゲームのため、ゴーレムが襲うという恐怖があったためである。


 お子様が、生意気な笑みを浮かべていた。


「ふっ、レックもえらくなったもんね、魔法学校に来るだなんて………」


 逆に、驚かれたようだ。

 口調はえらそうだが、ちょっと悔しいという気持ちが伝わっている。下僕と思っていたレックが、自分と同じステージに立った、そんな気分らしい。


 それは当然であると、レックは知っている。

 かつては自称・ザコであり、魔力値は40と言う、ザコの中では低くないが、一流の皆様の足元というレベルだったのだ。

 レックのよく知る一流の冒険者パーティーこと、『爆炎の剣』のメンバーには、特にお世話になったものだ。

 それこそが、レックとルイミーちゃんの出会いの理由でもあった。


 そこへ、メイドさんが割って入ってきた。


「こんにちは、お嬢さん………レック君の知り合い?」


 最後のセリフは、顔を上げながら、レックへの問いかけであった。

 レックは、白状した。


「へい、おれっちがお世話になった冒険者パーティーの、カルミー姉さんのお子さんで、ルイミーちゃんって言うんやす」


 なれた手つきで、暴れるお子様を抱き上げた。

 両手を伸ばして、抱っこをしろと命じていたお子様を、よく覚えていたためだ。子守として雇われたわけでないが、自然と世話係をしていたのだ。

 前世では縁がなかった子守という体験は、経験豊富なレックだった。

 村人当時も、近所のお子様に親戚のお子様を押し付けられ、泣かせれば悲劇という苦しみの日々を生き抜いた少年なのだから。


 このお方を、どなたと心得る――そんな気分で、持ち上げた。


「そんで、オレっちは時々、この子のお世話を――」

「ちょっと、放しなさいよっ」


 いつの間にか、抱っこがお気に召さない年齢になっていたようだと、レックはしぶしぶ、女の子を下ろした。


 お姉さんぶって………貴族のお嬢様を真似て、スカートをつまんでいた。


「はじめまして、ルイミーっていいます。9さいです」


 レックは保護者気分で、ルイミーちゃん9歳の挨拶を見つめていた。

 もう、学校に入る年頃になったのか………と、そして前世の浪人生は、異世界であると、感慨深く腕を組んだ。入学の時期も、そもそも、学校に入学する割合も、全て前世の常識と異なるためだ。

 村人レックでも、掲示板を読める程度に、識字率は高いものの………


 ドロシー姉さんが、自己紹介を始めた。


「始めまして、私はドロシー………今はメイドの姿だけど、魔法学校の先生でもあるから、入学出来たら、ドロシー先生ってよんでね?」


 お姉さんぶって、自己紹介をしていた。


 レックは、ゆっくりと首を向けた。


「………先生?」

「はい、ドロシー先生です。受験生の案内、続けていいですか?」


 どうやら、色々なお顔があるらしい。




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