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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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選択肢と、分かれ道


 朝日が、レックの金髪を照らしていた。


 窓辺では、チュンチュンと、小鳥達が鳴いている。魔王様との戦いが終わって、今は翌朝であった。これで、女子と一緒では、お約束のシュチュエーションであろう。


 レックは、部屋を見渡した。


「………なんか、あっさりしてんな――」


 お部屋には、寂しく一人だった。

 今までであれば、エルフちゃんたちの突撃を受けて、一人に浸ることなど、できなかった。出会いは、命のピンチに直結する出会いとバトルの日々であった。


 今は、レックは一人、王都に用意された部屋にいた。

 魔王様を討伐した、その夜のことだった。コハル姉さんと言う、見た目12歳のエルフちゃんのケータイが、鳴ったのだ。

 そして、レックを呼び寄せていた。ちょっと、話があるという、王様達からのご指名だった。


 別れの、タイミングだった。


「じゃぁね――って………いや、コハル姉さんはポーション職人で、ラウネーラちゃんやアーマー・5(ファイブ)の姉さん達は、次の戦いの場へ――」


 パーティーは、解散していた。

 レックだけが呼ばれていたということで、そして、他の皆様にはやることがあるということで、解散となったわけだ。


 自然な流れでの、解散だった。


 共に、魔王を倒すまでと言うパーティーだった。取り決めも何も、自然に結成され、そして、自然に解散していた。


 金髪と銀髪のエルフちゃんに、アーマー・5(ファイブ)の姉さん達に………次々と仲間になったメンバーを思い出して、レックは窓を見た。


 小鳥も、チュンチュン――と、こちらを見ていた。


「………あれ、女子の割合、高かった?」


 女子に囲まれていたのだと、レックは気付いた。

 心は永遠の女子中学生と言う、ドッドのおかしら――ではない、魔女っ子アリスちゃんを除いて、テクノ師団の隊長殿と、バイク愛好家の馬のおっさんと、神殿のおっさんたちは除くとしても、女子の割合は高かったのだ。


 ダンジョンに突撃していた頃などは、女子の中、レック一人だったのだ。


 レックは、遠い目をした。


「へっ、ここは現実ってことですかい、ステータス先生」


 現実は、厳しかった。

 命のピンチの連続を思い出して、遠い目をしていた。


 性別は、確かに女子の姉さん達は、見た目は少女でも、見た目だけである。寿命は人間が及ばない、少なくとも、見た目の数倍は生きているだろう、テクノ師団のおっさんを、子ども扱いだ。

 戦闘経験も、人間が及ばない皆様だった。とても、ハーレムメンバーなどと言う考えが及ばない、恐るべき姉さん達だった。


 人間では、ないのだから。


 レックは、ベッドから立ち上がると、机の前で立ち尽くす。


「どうしよう、これ」


 机の上には、公文書らしい、一枚の書類があった。


 入学案内――と、書かれていた。


 このお部屋は、レックのために用意されたお部屋である。王様の客という扱いなので、かなり良い宿が選ばれていた。

 まるで、ビジネスホテルという、ベッドに小さな机に、個室にシャワーとトイレも完備と言うお部屋だった。


 脳内に、久々の効果音が鳴り響いた。


 ピロリロリン――選択肢が現れた。


 冒険に出る / 魔法学校に入学する


 どちらを選ぶことも、今なら出来る。王様からの呼び出しで、命令でなくとも、断るのがとっても難しいとしても………


 ゆっくりと、手にした。


「魔法学校………か」


 レックが、呼び出しを受けた理由だった。


 区切りが付いたところへの、呼び出しだった。

 そして、良いタイミングである。レックは今度こそ、バイクに乗って旅立とうと思っていたのだ。新たな魔王との戦いや、色々な、レックが予想も付かないトラブルに襲われる恐怖を抱いていたが………


 見越していたかのような、呼び出しだった。


「学校か………簡単な読み書きは村で習ったけど――って、識字率って、メチャクチャ高いよな、この世界」


 当たり前に感じていたが、もしかすると、転生者によるシステムへの介入があったのかもしれない。簡単な足し引きや掛け算、そして、自分の名前を書く、道案内を読めるという、前世の小学校1~2年生程度の学力は、平均なのだ。


 日本の義務教育と比べることはできないし、理科の実験などは、とてもできない環境でありながら、識字率の高さは、今にして思えば、驚きだった。


 では、魔法学校とは、どういう場所であろうか。


「魔法を学ぶ学校だよな………普通――」


 名前の通りである。

 そして、案内に書かれている通りである。

 この世界には魔法がある、ならば、専門の学校があってもおかしくはなく、異世界ファンタジーでは、お約束なのだ。

 バイクに乗っての旅路との天秤で迷う程度には、魅力的なのだ。


 レックは、顔を上げた。


「さて、いくか………修理屋さんへ」


 戦いのれの区で、メンテが必須である。

 いつもなら、このタイミングでエルフちゃんたちにしがみつかれ、強制的にどこかへと連れ出されるものだ。エルフらしく、森の中を飛び回る妖精さんのように、空をぴょんぴょんとはねて、レックは悲鳴を上げるのだ。


 今は、一人だった。

 そう、一人のはずなのだが――


「………あの、一応男子の部屋なんッスけど」


 レックは、窓から外を見つめていた。

 油断だった、ロングヘアーのメイドさんが、陰を落としていた。


 窓辺から、朝日を浴びて、陰が伸びていた。


「ふっ、若き勇者よ、人生をあきらめるのは早いというものだ――」


 中二の姉さんが、腕を組んでいた。

 先日は、魔王様が封印されていた『封印の神殿』において、メイド服に身を包んでいた、実はメイドではない、用心棒という冒険者だった。


 レックは、見上げた。


「オークションは、もういいんッスか?」


 魔王様の残骸ざんがいは、巨大だった。

 ついでに、5メートルサイズの、並みのボスクラスの皆様も、たくさんおいでだった。宴会は、まだまだ続いているはずだ。目玉商品であり、最もほしがるクリスタルの競売が、優先されただけだ。


 魔王様の体内で、レックがドリルで砕いたクリスタルは、欠片であっても、並みのボスクラスのクリスタルに匹敵する。

 純度も、とても高いらしい。


 メイドさんは、微笑んだ。


「人の煩悩は、百八つと言われている………偶然だろうか、クリスタルの導きは――」


 中二の姉さんは、すっかりと浸っていた。

 徹夜だったのかもしれない、そのために、ハイになっているのかもしれない。レックは、20も半ばを過ぎたお姉さんを前に、たじたじだった。


 逆らってはならないと、静かな一人身の気分は、消えうせていた。


「へへへ、そうでやんすか、いやぁ~、もうかったようで、なによりで――」


 小物パワーの、出番だった。

 一人、静かに旅立ちをしよう。そんな冒険者の気分は、すっかりと消えうせていた。いまは、姉さんにゴマをする、下っ端の15歳なのだ。


 シルバー・ランク<上級>という、冒険者にとっては、高みの一人になっていても、ザコの心理は、永遠なのだ。


 メイドさんは、ふわふわと浮いていた。

 雷パワーで、浮いていた。


「ねぇ、レックくん――」


 ふわふわと、窓のすぐ前までいた。

 なお、ここは503号室と言う、地上5階である。


「へへへ………いま、お開けしやす」


 チュンチュンと、小鳥達が鳴いている。

 朝チュン――など、ファンタジーに限定されたシュチュエーションである。進路に迷っている15歳男子の部屋の前には、レックの運命を決めるメイドさんが、仁王立ちなのだ。空中に、仁王立ちなのだ。


 レックは、窓を開けた。


「えっと、まさか、ここから――」


 飛び出せというのか。

 浮遊能力を持つメイドさんにとって、地上5階の窓など、ただの窓に過ぎない、出入り口感覚だ。

 しかし、レックにとっては、地上5階である。


「安心してください、卒業生です――」


 意味が、分からなかった。


 しかし、悲しいのは、条件反射だ。メイドさんが手を伸ばしてきたので、レックは、そのまま、手を伸ばしたのだ。


 バイクのメンテに、出かけよう――そんな決断をしていた、出かける前の、ぼんやりとしていた時間が、失敗だった。


 即座に、出かけるべきだった。せっかくの町である、バイクのメンテのついでに、ちょっとお散歩だけでも、楽しめただろう。


 メイドさんは、レックの手を引っ張った。


「行きますよ、魔法学校へ――」

「ちょっ、ぇええええええっ――」


『入学しますか?』


 レックの脳内に、先ほどまでは選択肢が浮かんでいた。しかし、バグでも起こったように波打って、消滅していた。


 レックは、悲鳴を上げていた。





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