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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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封印の神殿の、その後 2



 金髪のミドル・ポニーテールをパタパタとさせて、レックは夜空を見上げていた。


「そういえば、三日月………二つとも、同じなんだな、当然かもしれないけど」


 2つの月が、くっきりと顔を出していた。

 前世では三日月と呼んでいた、こちらでの呼び方はどうだったのかと、レックはぼんやりと見上げていた。ランク・アップの話であるとか、続々と登場するギルドの皆様の注目とか、色々とあったが、レックは全てが遠い出来事に感じた。


 額から肉汁が垂れてきても、ささいなことだ。金と銀のロングヘアーを夜風に流されるままのエルフちゃんたちが、騒いでいた。

 レックの頭上で、騒いでいた。


「もうちょっと長くないと、分かりにくいわね~」

「コハル~、リボンしか見えないにゃ~、いっそ、ちょんまげにするにゃ~」


 オークの骨付き肉は、新鮮で、油もたっぷりであったようだ。かじりついていたエルフちゃんたちは、手を拭く暇を惜しんで、レックのヘアスタイルで遊んでいた。


 レックは、地面で野菜スープを静かにすすった。


「ちょっと、脂っこいかな………」


 ぽたりと、油が浮かんでいた。

 元凶のエルフちゃんたちは、どちらもストレートにしていた。レックとおそろいのヘアスタイルにするため、ツインテールは解除している。金と銀のロングストレートが、そよそよと泳いでいた。


 時々、レックの顔にかぶって、息が苦しい。当然、文句を口にするレックではない、魔王様との戦いを終えて、疲れているのだ。


 赤ら顔の勇者(笑)が、現れた。


「よぉ~、ちっとは落ち着いたか~」


 酒瓶を持ったおっさんが、現れた。

 テクノ師団の隊長殿であり、レックが転生者として目覚めた初日に出会った、日本人を前世に持つおっさんだった。


「お祭りッスね………」


 レックは、首を動かすことなく返事をした。エルフちゃんたちが文句を言うのだ、動くな――と、文句を言うのだ。

 ヘアスタイルを考えている女の子に、逆らってはならない。


 わきまえているおっさんは、笑った。


「おぉ~、祭りだ、祭りだ。魔王だ、魔王だ~っ、てか?」


 レックは、愛想笑いを決め込んだ。

 実況席は盛り上がり、続々と、転移してくる皆様が増えていく。ギルドから派遣された解体職人をはじめとする、後始末の皆様だ。

 猫マッチョをリーダーとして、料理が山盛りになっている。夜通しのために必要なのだろう、お祭りと化していた。


 酒でも飲めれば、少しは騒げるのだろうか。そんなことを、ちょっと思ったレックだった。

 口にする間もなく、エルフちゃんたちが、お姉さんぶった。


「ベル~、だめよ、レックはお子様なんだからね~」

「そうだにゃ~、お酒は、20歳からだにゃ~」


 金と銀のツインテールちゃんが、レックに抱きついて、守ってくれた。

 お酒は20歳と言うルールは、日本だけのものだ。転生したこの世界では、当然、意味を持たないものの、転生者たちによる、お遊びである。


 おっさんは、笑った。


「はは、両手に花だな、レックよぉ~」


 ごきげんで、どこかへと消えていった。

 おっさん同士で、酒盛りでもするのだろう。横目に、バイク・ロボが酒瓶を手に、馬のおっさんにお酌をしていた。

 なんとも手先の器用なことだ。ただのゴーレムでは不可能である。馬のおっさんの魔力操作によって、とても人間くさかった。


 遠くで、歓声が上がった。


「………実況席の方ッスね?」

「あぁ、オークションなのよ」

「だいじょうぶにゃ~、ちゃんと、競り落とすように頼んでるにゃ~っ」


 レックの疑問に、エルフちゃんたちが答えてくれた。

 ヘアスタイルが決まったのだろうか、気付けば金と銀のポニーテールが、レックの前で泳いでいた。

 今度は、リボン選びが待っている。あるいは、宝石をあしらった、ちょっと豪華な髪飾りであろうか。

 着せ替え人形と言うレックは、自らの運命を受け入れているのだ。なすがままに座っていたのだが………


「競り落とす?」


 ラウネーラちゃんが、ちょっと力んでいた。


 その理由が、盛り上がっていた。


「はい、36番から、150ルペウスの声が上がりました――はい、15番が押しています。155ルペウスです。たった5ルペウスと言う、残念さです」

「ドロシー、上のバカが、200ルペウスだとよ………ったく、要塞を浮かべるだけじゃ、飽き足らないらしい」

「預金、大丈夫――あぁ、ラウネーラちゃんの援助ですか………おっと、15番から、220ルペウスと言う声が――」

「クリスタルの導きなのだ、どんどん値が上がる………125番から、250ルペウスの声が上がった」


 魔王様のクリスタルは、大人気だ。


 転移してきた皆様の獲物は、魔王様だった。

 せっせと解体職人の皆様が行列を組んだ、最初の獲物である。今も解体は続いているが、実況席がそのままオークション会場になるほど、大人気なのだ。

 レックの視線に気付いたのか、エルフちゃんたちが説明を始めた。


「並みのクリスタルより、高純度なのよ」

「だから、ボクらみたいな魔力がなくても、大きなものを動かせるんだにゃ~、ザーサのUFOとか、空中要塞も、そうだにゃ~」

「へへ………王様のUFOも………なるほど」


 レックは、巨大なUFOが空を飛ぶシーンを思い出していた。上空では、空中要塞が浮かんでいる。魔王様のクリスタルを使っているのなら、納得できる。魔王様の巨体に比べれば、とても小柄なのだから。


 砕けた破片は、ひとつずつ布の上に載せられて、カメラの集中砲火を受けていた。

 少々、血肉が滴っていても気にしないらしい。神殿メンバーが、巨大なボードと、そしてカメラアイ・ボールを周囲に浮かばせて、にぎわっていた。


 ちょうど、落札者が出たようで、騒ぎがさらに大きくなった。


「300ルペウスで、空中要塞が落札です。無理をしているのではないでしょうか、ドロシーは、心配です」

「クリスタルの導きには、だれも抗えぬのだ。全ては、人々の――」

「ふんっ、そろそろガス欠なんじゃろ、ほどほどにすればいいものを………」


 手続きが行われ、そして、新たなクリスタルが持ち込まれていた。

 ルペウス金貨は、本日は良く飛び回るらしい。レックは思わずと、いやらしい笑みを浮かべてしまった。


 オークションが盛り上がるほど、レックの懐に転がり込む金貨が増えるのだ。レックが単独で討伐したわけではないが、おこぼれと言う程度でも、金貨の山が期待できるのだ。

 魔王様の内臓をドリルでぶちまけた記憶が、いまは、黄金に輝いていた。


 レックは、宝石を取り出して、微笑んだ。


「相棒………待たせた、本当に、待たせたな………」


 宝石には、レックの相棒である、エーセフと言うバイクが封じられている。見つめていると、自分が風を切って、バイクで一人旅をする光景が浮かぶのだ。


「今度こそ、今度こそ――」


 旅に出よう――


 レックは、口に出しかけて、固まった。

 妨害されるフラグに、ご注意だ。

 今度こそフラグをへし折ってやろうと、警戒したのだ。両サイドのエルフちゃんに、ご注意である。


 ――不思議を探しに、旅に出よう


 転生してすぐに、レックが思ったことだ。

 転生者たちによって、ややSFに、一部は昭和に発展しているこの世界でも、もともとはファンタジーと言う世界なのだ。


 古きよきファンタジーが、どこかに残っているはずだ。主人公の訪れを、待ちわびているはずだと………


 レックは、周囲の異変に気付いた。


「………ボールの皆さん、なんで――」


 カメラアイ・ボールの皆様が、レックを囲んでいた。

 ヒーロー・インタビューかもしれないと、ちょっと思った。魔王様を討伐したメンバーの一人であり、経緯はともかく、レックのドリルが魔王様のコア・クリスタルを破壊したのだ。


 ふと、ランク・アップという、エルフちゃんたちの盛り上がりを思い出す。両サイドで、レックにしがみついて、カメラ目線をしていた。


「レック~、結果が出たみたいね?」

「さぁ、ボード表はどこだにゃ~、みんなは、どこに賭けたんだにゃぁ~」


 コハル姉さんとラウネーラちゃんは、ポーズを決めていた。ポニーテールが、三人仲良く、夜風に踊る。カメラの注目も、ばっちりだ。

 レックの髪の毛で遊んでいたのは、このときのためのようだ。


 メイドさんが、現れた。


「えぇ~………ギルドと国王のおっさんの会議が終ったので、お知らせします――」


 なんとも、失礼なメイドさんである。王様をおっさん呼ばわりなど、首、ちょんぱと言う恐怖に震えるレックである。

 そして、震えは止まった。

 思い直したのだ。その程度の失礼は問題と思えないおっさんが、パイロットスーツにマントという国王陛下のおっさんなのだ。


 メイドさんは、一度口を閉じて、緊張をあおる。

 足元にひかえていたタツヒコの兄貴が、ドラムロールをしていた。どこから取り出したのか、アイテム袋に決まっている、ダララララララ――と、ミュージシャンのように、連打していた。


 メイドさんが、手をかざす。

 ドラムが、鳴り止む。


 静かなる空間に、遠くの解体職人の皆様が叫ぶ声が、妙に大きく響いていた。


 メイドさんは、微笑んだ。


「おめでとう、ランク・アップです」


 にっこりと、微笑んでいた。



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