魔王様、倒れる
主人公がピンチになると、真の力に目覚める。
そして、勝利するのがお約束であり、レックが転生した初日を生き延びたように、それなりに起こりうる奇跡である。
レックは、魔王様を見上げていた。
「バーストして、勝ちたかったかな~………」
レックの真の力は、残念だった。
おそらくは、中級の炎魔法程度の威力はあるだろうが、期待ほどではなかったのだ。
そのため、ドリルが最大の攻撃力であり、ラウネーラちゃんの指示によってドリルモードになったレックは、勝利したのだ。
魔王様の瞳からは、すでに輝きは消えていた。そして、クリスタルが砕けた光景を思い出して、レックは理解した。
「あれが、トドメの一撃って………あれ、戦いは? スーパー・ロボットと巨大な魔王様の、熱い戦いは?」
勝利した感覚は、なかった。
ドリルで、強固なバリアを突破した――
ドリルで、硬いクリスタルを砕いた――
そうした達成感など、なかったのだ。
レックが、納得できない理由である。バイクで走って、突破して、それで終わりだったのだ。
ぬ~っと、マッチョが現れた。
「はぁ~い、レックちゃん、おつかれさまぁ~」
魔女っ子マッチョな、アリスの姉さんが、現れた。
ピーちゃんに乗って、現れた。
この戦いでは、サポートに徹していたマッチョなお姉さんだ。主に、ぽ~ん――と、放り投げられたレックの回収だ。
2メートルを超える、本名をドッドと言うおっさん――お姉さんであり、永遠の90年代の女子中学生である。
ペットのピーちゃんにも、レックはお世話になっている。
おっさんも、乗っていた。
「よぉ~、レック………初の魔王討伐、おめでとう」
のんびりと、胡坐をかいていた。さすがはテクノ師団の隊長殿だ、30メートルを超えるピーちゃんの背中で、リラックスをしていた。
タツヒコの兄貴も、ご一緒だった。
「へっ、さっすが勇者(笑)だな………なんて魔力だよ」
木刀を肩に担いで、やさぐれていた。
いや、隠しているだけで、レックと同じく、ビビっているのだろうか。もちろん、口にするレックではない。
いまだ、涙目なのだから。
「へっ、へへへ………オレっち、本当にやったんッスか?」
やっちまったぜ――
そう言って決めポーズをとることなど、出来なかった。倒した自覚も、達成感もないのだから。
むしろ、砲弾になった恐怖が、忘れられない。
前方では、空中要塞が浮かんでいた。
エルフの国から、はるばるやってきた研究所である。同じデザインなのか、レックがお邪魔した研究所が、ごっそりと空を飛んでやってきたのかは、分からない。ラウネーラちゃんのサポートメカたちを運ぶために、現れたのだ。
勇者を発射するビームライフル?という、とんでも武装を運んできたわけだ。勝利に貢献したのだが、砲弾にされたレックとしては、素直に認めたくなかった。
「………あれ、花火?」
「あふれ出しは、まだ続いてるものね」
「まぁ~、俺らがぞろぞろ来た理由ってことでな」
「うわ~、ミンチの山じゃねぇ~か………」
ピーちゃんが、ばさっ――と、地面に降り立った。
巨体でありながら、とても静かな着地である。魔法の力も使っているのだろう、実況席の近くに、降り立った。
実況は、続いていた。
「実況席のドロシーから、賭けの発表を行いたいと思います。勇者(笑)レックの突撃によって、見事――」
「オークションは、クリスタルの破片を取り出してからだ。ボロボロの素材も多いが、魔王の残骸だ、それなりに――」
「クリスタルの導きにより、勇者は勝利を得た。そして、新たなる――」
「ワシのゴーレム軍団の活躍も――」
盛り上がっていた。
そして、レックたちは、すっかりと忘れられていたようだ。
猫マッチョは素材に関しての解説を、門番の細マッチョなどは、自分の世界に入っていた。
試練の門の番人であり、とても強いはずなのだが、バトルに参加しない残念な、僧侶ファイターと言うおっさんだった。
転生者だろう、魔王の城の建築に関わったジジイは、意地になって討伐数を数えている。残るモンスターは少なくなってきた、今度は、ゴーレム軍団 VS アーマー・5という余興が始まるのかもしれない。
アーマー戦士たちが、暴れていた。
「我らが勇者(笑)によって、魔王は倒された。次は、私達の出番だ」
「そらそら~、にげねぇと真っ二つだぜぇ~」
「はぁ~………おれっちのタンクも、変形させたいなぁ~」
温度差はあったが、ヘビーマシンガンがミンチを量産し、ホバーUFOは暴走族と化し、カエルさん戦車のドワーフちゃんだけは、ロボを見上げていた。
上空では、死の天使たちが、笑っていた。
「ガハハハハ、弾はいくらでもあるぜ」
「ほれほれ、いくで~」
ガガガガガ――と、エンジェル・ガトリングが大暴れし、マーメイドさんのグライダーからは、ミサイルの雨が降り注いでいた。
レックたちの着地に気付いたのか、セーラー服が、走ってきた。
「レック~、ちゃんとドリルできたみたいね――クリスタルとかバリアとか、レックのドリルだと簡単だったでしょ?」
届いていれば――という条件は、グレート・ラウネーラの新たなる武装が、クリアしてくれたわけだ。
熱い戦いを期待していたレックとして、なんとも微妙な勝利だが、感想を口にする前に、 馬のおっさんが、歩いてきた。
のんびりと、声を上げた。
「た~おれるぞぉぉ~………」
魔王様が、倒れてきた。
100メートルを超える巨体が、倒れてきた。レックがクリスタルを壊したとしても、残っていた魔力で、しばらくぼんやりとしていたのだ。
限界を、迎えたようだ。
魔王様は、100メートルを超える巨体であった。見上げる巨体は、オーガをベースにしている、角を持つマッチョだ。
さらに、オーガだけではない。頭がひとつでなく、腕が複数である上に、尻尾にツバサもあった。
空中決戦というフラグかと思ったが、ツバサがあるだけだった。
それは、嬉しかったが………
「にっげろぉお~――」
グレート・ラウネーラ様が、楽しそうに宣言した。
かけっこを楽しむお子様のように、ずしん、ずしん――と、かけっこだ。一歩だけで、世界新記録の速度というスーパー・ロボットの走りは、大変だ。
レックも、叫んだ。
「逃げろぉおおおおっ」
必死だった。




