表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
178/262

切り札は、バイク?


 格納庫から、スーパー・ロボットが発進する。

 それは、かっこいいシーンであり、これから活躍する期待に、胸を熱くさせるシーンである。


 レックは、その気分を味わっていた。


「………排ガスが出ないといっても………空気、大丈夫かな」


 ばるるるるん――と、バイクがうなっていた。

 巨大な敵は、内部から攻撃だ――というお約束のために、準備を始めていた。ドリルで内部を踏破する、ゴールは、クリスタルだ。


 ガンマンコートが、巨大な空洞の内部で、ゆらゆらと暴れる。

 勇者(笑)たちが射出された、人間大砲の内部である。とても巨大であるため、トンネルのような錯覚を覚える。

 トンネルにしては狭いものの、内部から見ると、バイクを出せる程度の広さはある。このままバイクで飛び出しても、しばらく空を飛べそうだ。


 頭上から、声が響いた。


「レック~、ドリルの準備を急ぐんだにゃ~」


 ラウネーラちゃんからの、催促だ。

 レックは、素直に6つの水球を発生させ、ドリルを始めた。射程はとても短く、魔王様にキックを食らわせようとして、届く前に跳ね飛ばされる本日だった。


 弾丸となって、チャレンジだ。


「オレって………オレって………」


 転生した、主人公だ。

 レックがそう思って燃え上がったのは、遠い過去のようだ。今のレックの瞳は、あさっての方向を見つめていた。

 あきらめの瞳とも、悟りを開いた瞳とも言う。レックはただ、前を見ていた。

 グレート・ラウネーラ様の新たなる武装は、ジャベリンと思えるほど長い、ロング・ライフルのようなSF武装だった。

 10メートルを超える砲身は長く、先の見えないトンネルを印象させる。


 輝きが、始まった。


「………壊れる?」


 天井が、床が………砲身内部が、エネルギーに満たされた。

 レックの前世が教えてくれた。レールガンのように、エネルギーに包んで弾丸を発射する仕組みなのだろうと。

 なぜか、メガネをくいっ――と、インテリを気取っていた。

 なお、前世の視力は1.1であり、メガネを必要としていなかった。ただの、ポーズである。


 レックは、思った。


「おのれ、前世め………」


 砲身の輝きが臨界を越えればどうなるのか、レックからすれば、遠くトンネルの出口に発射されるまでの、秒読みだ。

 ドリルもバリアの役割で守ってくれるだろうが、着弾先は、魔王様だ。


 頭上から、声が響いた。


「エネルギー臨界突破、ラウネーラ、カウントだっ」

「分かったにゃ~、スリー………ツー………――」


 カウントは、3のようだ。


 レックは、ぼんやりと前を見つめていた。

 それなりに座りなれた相棒エーセフと言うバイクのイスに、握りなれたハンドルに………これが、バイクショーであれば、エンジンを全開に、ぶるるるるん――と、最高速度で後輪が煙を立てているシーンであろう。


 数秒が、とても長く感じて、そして――


「――ワン………発射だにゃあああっ!」


 レックは、光になった。


 テクノ師団の隊長殿が、見知らぬおっさん勇者エリックが、そして、タツヒコの兄貴が光となって、ついに、レックの番となった。


 レックは、冷静に見つめていた。


「外だ――」


 外だった。

 当然だ、レックは弾丸となって、射出されたのだ。光に包まれて、そして、臨界を突破したカウント3にて、発射されたのだ。


 アニメでは、すごい衝撃だ――と言うセリフがあるのだが、レックには何も感じなかった。ドリルのおかげか、射出システムのおかげかは、分からない。


 とにかく、光に包まれた、そして気付けば外にいて――


「あ、魔王様――」


 魔王様が、目の前だった。

 人間とは、瞬間的に見たものであっても、認識できるらしい。ドリルで、前方は見えにくいはずだが、くっきりと見えたのだ。


 巨大なシルエットのおかげかもしれない、オーガをベースにした、首はひとつではなく、3つであり、腕もたくさん、ツバサも尻尾もあるシルエットだ。

 恐怖するお姿であれば、瞬間でも、目の前の巨体として認識される。


 真っ暗になった。


「………巨大な敵を倒すための、お約束――か」


 内部だった。

 巨大モンスターの討伐には、内側からだ――と言うお約束のため、そして、ドリルであるために、魔王様の体内だろう。


 レックは、エンジンを全開にした。


 運転テクニックに意味はない、ただ、まっすぐと進んだ。直前のシーンは、巨大なビルに突っ込むような気持ちで、魔王様の顔だけで、一軒家のようで………


 気付けば暗闇を、バイクで走っていた。


「ふっ………道なき道をいく、オレの進むところ、それが道さ――」


 レックは、気取っていた。

 前を向く意味がなく、あさっての方角を見つめたまま、見つめていた。

 内臓の輝きが、てかり、ミンチと化すシーンは、食欲をリバースさせる、魔法の光景である。

 しかし、内臓は暗く、魔法の輝きで、ぼやけているのが救いだった。


 バイクでドリルをする道は、どこまで続くのだろうか。心臓をめがけているのか。心臓と言う場所があるのか不明だが、モンスターであれば、存在しているはずだ。

 クリスタル・コアと言う、魔力が集まって結晶化した、モンスターを討伐して、必ず手に入るアイテムだ。

 サイズに合わせて巨大であり、巨大ほど価値がある代物だ。


 レックの前に、近づいてきた。


「あれかな………」


 クリスタルの、導きだった。

 巨大な肉体を動かすのだ、それは、恐ろしいほどのエネルギーが必要になるだろう。動きがゆっくりに見えるが、実際には、逃げることも出来ない速さのはずだ。

 腕をゆっくりと振り回すだけで、大木が風を切る、山が砕ける攻撃だ。


 内部だからこそ分かる、エネルギーの流れだった。


「………バリアの役割、でも、オレのドリルなら――」


 まっすぐと、進んだ。

 アニメでは、触手や分身のようなモンスターなどが襲い来るが、いなかった。ただ、並みの攻撃なら強力なエネルギーの壁に阻まれてしまうだろう。


 ドリルの、出番だ。

 すでに、フルパワーだ。そして――


「………あれ?」


 す――と、進んだ。


 レックは、ただ進んだだけだった。本当に、まっすぐに発射されて、気付けば暗闇の肉の内部で、爆走していた。

 ドリルをしていたとはいえ、ただ、バイクで進んだだけだった。


 レックは、つぶやいた。


「あぁ………夕焼けか――」


 空を、見ていた。

 まだ青空が続くも、遠くでは夕焼けに変わりつつあった。オヤツ時を過ぎて、戦いが始まって、賭けが始まって………


 つい、振り向いた。


「………!?」


 巨大なオーガが、ベースとなっている。レックがそう感じた魔王様のお顔が、目の前にあった。

 胴体に風穴が開いて、それを、ぼんやりと見つめておいでだった。


 風穴を開けたレックは、飛び出したタイミングで、速度が急速に低下、そのまま見つめ返していた。

 しばらくすると、自由落下が始まるだろう。レックは、ドリルを解除して、水風船を最大サイズへと変化させようと考えた。

 相棒エーセフは、すでに宝石に収納している。全てを瞬時に、同時に考えるのは不思議だと思いつつ、思い出した。


 時間が、ゆっくりと進んでいるのだ。


 ゲームやアニメでは、スローシーンにおいて、主人公はたくさん考え事をしていた。走馬灯も、たくさん流れている。


 魔王様の瞳がレックを見つめ、ビームでも発射されるのだろうか。


 落下が、始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ