切り札は、バイク?
格納庫から、スーパー・ロボットが発進する。
それは、かっこいいシーンであり、これから活躍する期待に、胸を熱くさせるシーンである。
レックは、その気分を味わっていた。
「………排ガスが出ないといっても………空気、大丈夫かな」
ばるるるるん――と、バイクがうなっていた。
巨大な敵は、内部から攻撃だ――というお約束のために、準備を始めていた。ドリルで内部を踏破する、ゴールは、クリスタルだ。
ガンマンコートが、巨大な空洞の内部で、ゆらゆらと暴れる。
勇者(笑)たちが射出された、人間大砲の内部である。とても巨大であるため、トンネルのような錯覚を覚える。
トンネルにしては狭いものの、内部から見ると、バイクを出せる程度の広さはある。このままバイクで飛び出しても、しばらく空を飛べそうだ。
頭上から、声が響いた。
「レック~、ドリルの準備を急ぐんだにゃ~」
ラウネーラちゃんからの、催促だ。
レックは、素直に6つの水球を発生させ、ドリルを始めた。射程はとても短く、魔王様にキックを食らわせようとして、届く前に跳ね飛ばされる本日だった。
弾丸となって、チャレンジだ。
「オレって………オレって………」
転生した、主人公だ。
レックがそう思って燃え上がったのは、遠い過去のようだ。今のレックの瞳は、あさっての方向を見つめていた。
あきらめの瞳とも、悟りを開いた瞳とも言う。レックはただ、前を見ていた。
グレート・ラウネーラ様の新たなる武装は、ジャベリンと思えるほど長い、ロング・ライフルのようなSF武装だった。
10メートルを超える砲身は長く、先の見えないトンネルを印象させる。
輝きが、始まった。
「………壊れる?」
天井が、床が………砲身内部が、エネルギーに満たされた。
レックの前世が教えてくれた。レールガンのように、エネルギーに包んで弾丸を発射する仕組みなのだろうと。
なぜか、メガネをくいっ――と、インテリを気取っていた。
なお、前世の視力は1.1であり、メガネを必要としていなかった。ただの、ポーズである。
レックは、思った。
「おのれ、前世め………」
砲身の輝きが臨界を越えればどうなるのか、レックからすれば、遠くトンネルの出口に発射されるまでの、秒読みだ。
ドリルもバリアの役割で守ってくれるだろうが、着弾先は、魔王様だ。
頭上から、声が響いた。
「エネルギー臨界突破、ラウネーラ、カウントだっ」
「分かったにゃ~、スリー………ツー………――」
カウントは、3のようだ。
レックは、ぼんやりと前を見つめていた。
それなりに座りなれた相棒エーセフと言うバイクのイスに、握りなれたハンドルに………これが、バイクショーであれば、エンジンを全開に、ぶるるるるん――と、最高速度で後輪が煙を立てているシーンであろう。
数秒が、とても長く感じて、そして――
「――ワン………発射だにゃあああっ!」
レックは、光になった。
テクノ師団の隊長殿が、見知らぬおっさん勇者エリックが、そして、タツヒコの兄貴が光となって、ついに、レックの番となった。
レックは、冷静に見つめていた。
「外だ――」
外だった。
当然だ、レックは弾丸となって、射出されたのだ。光に包まれて、そして、臨界を突破したカウント3にて、発射されたのだ。
アニメでは、すごい衝撃だ――と言うセリフがあるのだが、レックには何も感じなかった。ドリルのおかげか、射出システムのおかげかは、分からない。
とにかく、光に包まれた、そして気付けば外にいて――
「あ、魔王様――」
魔王様が、目の前だった。
人間とは、瞬間的に見たものであっても、認識できるらしい。ドリルで、前方は見えにくいはずだが、くっきりと見えたのだ。
巨大なシルエットのおかげかもしれない、オーガをベースにした、首はひとつではなく、3つであり、腕もたくさん、ツバサも尻尾もあるシルエットだ。
恐怖するお姿であれば、瞬間でも、目の前の巨体として認識される。
真っ暗になった。
「………巨大な敵を倒すための、お約束――か」
内部だった。
巨大モンスターの討伐には、内側からだ――と言うお約束のため、そして、ドリルであるために、魔王様の体内だろう。
レックは、エンジンを全開にした。
運転テクニックに意味はない、ただ、まっすぐと進んだ。直前のシーンは、巨大なビルに突っ込むような気持ちで、魔王様の顔だけで、一軒家のようで………
気付けば暗闇を、バイクで走っていた。
「ふっ………道なき道をいく、オレの進むところ、それが道さ――」
レックは、気取っていた。
前を向く意味がなく、あさっての方角を見つめたまま、見つめていた。
内臓の輝きが、てかり、ミンチと化すシーンは、食欲をリバースさせる、魔法の光景である。
しかし、内臓は暗く、魔法の輝きで、ぼやけているのが救いだった。
バイクでドリルをする道は、どこまで続くのだろうか。心臓をめがけているのか。心臓と言う場所があるのか不明だが、モンスターであれば、存在しているはずだ。
クリスタル・コアと言う、魔力が集まって結晶化した、モンスターを討伐して、必ず手に入るアイテムだ。
サイズに合わせて巨大であり、巨大ほど価値がある代物だ。
レックの前に、近づいてきた。
「あれかな………」
クリスタルの、導きだった。
巨大な肉体を動かすのだ、それは、恐ろしいほどのエネルギーが必要になるだろう。動きがゆっくりに見えるが、実際には、逃げることも出来ない速さのはずだ。
腕をゆっくりと振り回すだけで、大木が風を切る、山が砕ける攻撃だ。
内部だからこそ分かる、エネルギーの流れだった。
「………バリアの役割、でも、オレのドリルなら――」
まっすぐと、進んだ。
アニメでは、触手や分身のようなモンスターなどが襲い来るが、いなかった。ただ、並みの攻撃なら強力なエネルギーの壁に阻まれてしまうだろう。
ドリルの、出番だ。
すでに、フルパワーだ。そして――
「………あれ?」
す――と、進んだ。
レックは、ただ進んだだけだった。本当に、まっすぐに発射されて、気付けば暗闇の肉の内部で、爆走していた。
ドリルをしていたとはいえ、ただ、バイクで進んだだけだった。
レックは、つぶやいた。
「あぁ………夕焼けか――」
空を、見ていた。
まだ青空が続くも、遠くでは夕焼けに変わりつつあった。オヤツ時を過ぎて、戦いが始まって、賭けが始まって………
つい、振り向いた。
「………!?」
巨大なオーガが、ベースとなっている。レックがそう感じた魔王様のお顔が、目の前にあった。
胴体に風穴が開いて、それを、ぼんやりと見つめておいでだった。
風穴を開けたレックは、飛び出したタイミングで、速度が急速に低下、そのまま見つめ返していた。
しばらくすると、自由落下が始まるだろう。レックは、ドリルを解除して、水風船を最大サイズへと変化させようと考えた。
相棒エーセフは、すでに宝石に収納している。全てを瞬時に、同時に考えるのは不思議だと思いつつ、思い出した。
時間が、ゆっくりと進んでいるのだ。
ゲームやアニメでは、スローシーンにおいて、主人公はたくさん考え事をしていた。走馬灯も、たくさん流れている。
魔王様の瞳がレックを見つめ、ビームでも発射されるのだろうか。
落下が、始まった。




