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異世界は、ややSFでした  作者: 柿咲三造
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弾丸は、勇者(笑)様


 馬が、走ってきた。


「おい、今、エリックの野郎がいなかったか?」


 バイクから変形のロボットも、周囲を探るしぐさをしている。そんなことをしなくとも、光になった光景は、見ていたと思うレックである。

 次は、わが身という恐怖である。


 レックは、次の犠牲者の到着を待った。

 テクノ師団の隊長殿が、やってきた。


「ったく、あの博士は………エリックも気の毒に、久々の活躍シーンだって言うのによう。遅れてきたのが、運のつきって――」


 テクノ師団のおっさんも、かつて、勇者(笑)と呼ばれていた。

 レックは、先輩の勇者の行く末を、静かに見守っていた。最後までセリフを口にすることなく、グレート・ラウネーラ様の手によって捕らえられていたのだ。


 放せ、放せ――という訴えなど、誰の耳にも届くわけがない。レックは、金髪のツインテールちゃんに羽交い絞めにされているため、逃げる恐れがないと判断されたのだ。最後の、とっておきの一撃のための、弾丸らしい。


 レックは、震えていた。


「一発目は、どっかへ飛んでいきやしたけど………」

「魔王様、通り過ぎちゃったね~………まぁ、ラウネーラって、魔力任せに乱射するから、後始末が大変でさぁ~――」


 それは、コハル姉さんも同じではないのか。

 レックは、のどまで出ようとするセリフを、当然のように飲み込んでいる。羽交はがめにされているためだ。

 いや、その必要もなく、消滅するものだ。


 頭上では、グレート・ラウネーラと、空中要塞が話し合っていた。


「ふぅ~、今度こそ、命中にゃ~」

「ラウネーラ、焦るなよ~」


『月夜の勇者エリック』と名乗ったおっさんは、今は、夜空の星となった。

 いや、気の早い2つの月が出ているだけだ。前世では、一番星を探すにも、すこし早い時間であろう。


 グレート・ラウネーラによる、第2射が放たれた。


 実況席では、解説が始まっていた。


「え~………、解説のドロシーです。どうやら、命中コースのようです」


 とっても、冷静だった。

 目の前では、アーマー・5(ファイブ)の姉さん達がマジカル・ウェポンを乱射し、ゴーレム軍団が大暴れである。そして、頭上では魔王様が目の前と言う状況で、とっても冷静だった。

 まだ、何百メートルか距離があるが、100メートルを超える巨体を見上げれば、目の前と言う距離だ。

 衝撃がオラオラオラ――と燃え上がる様も、まざまざと見えた。


「あれ、おっさんの『大火炎パンチ』ッスよね」

「直撃したねぇ~」

「残念ながら、魔王様を倒すには至らなかったようです。グレート・ラウネーラによる3発めの準備が待たれます」

「ヨシオの兄貴も、勇者(笑)って呼ばれてたんだろ、だったら、次あたり――」


 タツヒコの兄貴のセリフは、途中でさえぎられた。

 解説席すら、安全ではなかったようだ。話の流れから、どうやら暴走族スタイルのタツヒコの兄貴は、勇者(笑)ではないようだ。


 だが………


「ちょ、放しやがれ、はな――」


 等しく、転生者は犠牲となるようだ。白い輝きが、魔王様へと向けて放たれた。


 レックは、叫んだ。


「兄貴ぃいいいいいっ」


 涙目に、叫んだ。

 顔も知らない『月夜の勇者エリック』に、テクノ師団のおっさんに、そして、タツヒコの兄貴という、日本人の転生者が犠牲となったのだ。


 残る日本人の転生者は、必死にゴーレム軍団を操っている『ケンカ上等』というコートをまとっているマッチョジジイと、メイドのヨシオ兄さんと、レックだけだ。

 もう一人、魔女っ子マッチョがいるのだが、いつの間にかピーちゃんの背中に乗って、上空へと退避していた。

 いや、サポートのためだろう。レックも、何度も上空でキャッチしてもらった。魔王様とエルフちゃんたちのキャッチボールの果て、地面へは、ピーちゃん経由だったのだ。


 メイドさんは、解説を続けていた。


「解説のドロシーです。ただいま、第3射が放たれましたが、やはり、勇者(笑)ほどの威力はないようです、3割といったところでしょうか」


 とっても、冷静だった。

 前世の名前だろう、ヨシオの兄貴というドロシー姉さんも、その勇者(笑)のはずであるが、なぜか、狙われると思っていないようだ。


 その理由が、背後にあるとレックが気付いたのは、すぐだった。


「ラウネーラ、試射は、そのくらいでいいだろう………そろそろ、必殺の一撃といこうではないか。カウントは、もちろん3だぞっ」

「わかったにゃ~っ」


 上空の、空中要塞からの声だった。

 エルフの国に、昭和という風景と、この世界にスーパー・ロボットという文化を持ち込んだ博士が、楽しそうだった。


 さぁ、忙しくなるぜ――

 そんな気分で、空中要塞を引っ張ってきた暇人である。このときのために、人生をかけてきたのだろう。とても生き生きとして、とても、長生きをしそうだ。


 犠牲者が、それだけ増えるという意味で、新たな犠牲者と決定しているレックは、最後の足掻あがきをした。


「せ、せめて――」


 セリフは、言い始めると同時にさえぎられた。

 レックを羽交い絞めにしていた金髪ツインテールのエルフちゃんが、放り投げたからだ。たった一人でも、数十メートルほどレックを放り投げるなど、エルフには簡単なのだ。


 コハル姉さんは、叫んだ。


「いっけぇええっ」


 見た目12歳の美少女戦士の、アーマー・マシンガン様は、とっても力持ちのお姉さんなのだ。


 人間では、ないのだから。


「コハル、確かに受け取ったにゃ~っ」


 グレート・ラウネーラ様は、レックをうまくキャッチしたようだ。

 捕らえられたレックは、涙目になっていた。


 前世の浪人生は、腕を組んでいた。

『まな板の上の鯉』――とは、こういうことを言うのか。いや、手のひらの弾丸が、この世界のことわざになるのだろうか――と


 当然、レックの頭の中の出来事である。


「あぁ~………魔王様が、お怒りだぁ~………」


 グレート・ラウネーラ様の手のひらから、魔王様の怒りの形相が、はっきりと見えていた。レックの目線が、地上10メートルと言う位置にいるおかげではない。接近しており、そして、叫んでおいでだ。


 どどどどど――と、炎が大爆発を連発している。おそらく、直撃した弾丸が、大暴れをしているのだろう。


 オラオラオラオラ――と、人間砲弾になったテクノ師団の隊長殿が、必殺の『大火炎パンチ』のおっさんが、オラオラオラ――と、暴れているのだろう。


 倒れないあたりは、さすがは魔王様だ。

 おっさんもまた、かつて勇者(笑)と呼ばれていたようだが、巨大なモンスターを倒す力を持っているはずだが………


 頭上から、トドメのセリフが放たれた。


「安心するにゃ~、ちゃんと、口の中を狙うにゃ~っ」


 そして、砲身の中へと、落とされた。


「ちょ、姉さ――」


 レックの返事など、必要ないのだ。

 巨大なジャベリンのような武装は、ロング・ライフルと言う姿にも見える。SF映画や、巨大ロボットが登場するアニメで見る、ビーム・ライフルタイプだ。


 中は、意外と広かった。


「………あぁ、人間砲弾って、これがホンモノの………」


 本日は、何度となく、魔王様へ向けて放り投げられたレックである。

 または、魔王様によって、指・ぱっちん――されてきたレックである。


 まるで、人間砲弾みたいだと思っていたが、砲弾として射出されるには、巨大な大砲が必要なのだ。

 ついに、大砲の中へと導かれた今こそ、人間砲弾の気持ちが分かるというものだ。


 頭上から、声が響いた。


「レック、お前も日本人を前世に持つ勇者(笑)なら、察しているじゃろう。巨大モンスターを倒すには、内部からと言うお約束を――」


 座り込んでいたレックは、顔を上げていた。

 返事をして、届くか分からない。出してくれ――と、泣き叫んでみようかと思ったが、即座に発射される予感しかしないため、黙っていた。


 ラウネーラちゃんが、割り込んできた。


「だから、レックはバイクを出すんだにゃ~、そして、ドリルして、魔王の中にあるクリスタルを、破壊するんだにゃ~っ」


 切り札は、バイクのようだ。



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