新装備と、勇者(笑)
レックの前世は、燃えていた。
戦隊シリーズにおいては、序盤では武器を持ったヒーロー達が戦い、そしてクライマックスではスーパー・ロボットの登場なのだ。
巨大モンスターには、巨大なるロボット様がお約束は、半世紀以上にわたる、日本の伝統なのだ。
ロボが、ファイティングポーズをとっていた。
「いや、お前じゃねぇから」
テクノ師団の隊長殿が、ツッコミを入れていた。
バイクが変形した3メートルほどのサイズのオート・ロボットが、今にも戦おうと、相手を挑発していた。
相手が悪すぎる、100メートルを超える魔王様なのだ。
「がはははは、オレ様のロボも、いつかは――パーツか、そうだな。パーツで合体のコアにするなら………しかしなぁ~、ラウネーラのような魔力がないとなぁ~」
馬のおっさんは、本気で悩んでいるようだ。レックは、決してツッコミを入れてはならないと、自らを抑えていた。
バイクへの愛が深い、馬の人なのだ。モンスターと戦うためのバイク・ロボのはずだが、傷が付けられれば、とってもお怒りになるのだ。
馬キックの嵐が、見舞われるのだ。
結果、モンスターの団体様が全滅するならよいと思うが、相手が悪すぎた。
レックは、改めて見上げた。
「グレート・ラウネーラ様………待っておりやした」
10メートルを超える巨体を、見上げていた。
100メートルを超える魔王様に対し、さすがにサイズが不足である。それでも、15歳のザコと言う自分を放り投げられるより、はるかに安心という巨体なのだ。
エルフちゃんが、レックにしがみついていた。
「レックぅ~………出番が終わり――なんて、思ってないわよねぇ~?」
巨大なヘビー・マシンガンがレックを羽交い絞めにしていた。レックごときザコが逆らえるわけもない、アーマー・マシンガン様のお言葉だった。
レックは、微笑んだ。
「へへへ、あっしごときザコなんて、とてもとても………もう、グレート様がお出ましになったんなら、あちらの実況席で、お手伝いなど――」
下っ端パワーで、微笑んだ。
こき使われてもいいが、もう、100メートルを超える巨体へと投げられるのは、勘弁願いたい。
魔王様が、もう、すぐそこだ。
ずしん、ずしん――と、近づく音が地響きで、恐怖をあおる。走ってこないのは、サイズから不可能なのか、いや、そもそも100メートルを超える巨体である、常識など、無意味であるが………
魔王様が、到着された。
「おぉ~、到着だね」
「へへ、グレートの姉さん、出番でやす」
みんなが見守る中、魔王様が到着した。
姿は、オーガをベースとしている、ただし、首は1つでなく、腕もたくさんで、ツバサまである。
そして、尻尾もある。どのような攻撃をしてくるのか、まだ、反応が鈍いが、本気を出される前に倒したいのが、人情というものだ。
グレート・ラウネーラ様は、ジャベリン?を構えた。
レックは、固唾をのんで見守る。そのまま、突撃するのか、あるいは、強力なビーム攻撃でも始まるのか、一方の魔王様は、炎でも吐くのか………
武器を構えたポーズで、可愛らしいお子様の声が響いていた。
「この新装備………どう使うんだにゃ~?」
可愛らしい、お子様の声だった。
ごっこ遊びであれば、とてもかわいらしいシーンである。魔王様が目の前で、グレート・ラウネーラ様というスーパー・ロボットから放たれては、大変だ。
しかし、それは勝利を前にした、おふざけというものだ。張りぼてでないことは、グレートになる前の戦闘力で、レックは知っている。
目から放たれるビームだけで、レックのレーザーを、上回るのだ。
「へへへ、ご冗談をって………ねぇ?」
「うぅ~ん、あの博士だから………ねぇ?」
レックの不安は、レックを羽交い絞めにするエルフちゃんが、増幅させていた。
このときのために――というタイミングで射出された武器なのだ。なら、一度しか使えない、暴走の恐れがあるなど、とてつもないリスクも、お約束である。
勝利も、約束されているはずだ。
不安なレックの頭上から、じい様の声が響いた。
「あぁ、勇者(笑)カノンと言ってな、単発なのがネックだが、勇者(笑)と言う弾さえあれば、何度でも撃つことが出来るのだ。そう、勇者(笑)こそ、カギなのだっ!」
ロボット研究所の、博士のジジイであった。
空中要塞からの、フラグだった。
――『勇者(笑)こそ、カギなのだっ!』
この言葉は、いったいなにを意味するのだろう。白衣を着たジジイによる、自慢げな笑みが目に浮かぶ。
フラグが、レックの胸のうちを駆け巡る。
巨大な手のひらが、レックの前に現れた。
「さぁ、魔王の元へいくんだにゃ~」
「がんばってね、勇者(笑)さま」
レックは、あがいた。
グレート・ラウネーラが手にしていても、巨大なジャベリンというサイズである。
射出カタパルトにも見えるし、ロング・ライフルにも見える。SF作品やロボットアニメでは珍しくない、ライフルである。
では、弾丸は?
ややSFに発展した世界であれば、クリスタルであり、魔力が答えであろう。なら、わざわざ『勇者(笑)カノン』などと、名前をつけるだろうか。
「フラグった、フラグった、フラグったぁああああっ」
レックは、あがいた。
必死に、あがいた。
せっかくスーパー・ロボットが現れたというのに、なぜ、射出されねばならないのか。グレート様の手に捕まれば、砲弾として、ロング・ライフルの中を超高速で通過して、魔王様に突撃させられるのだ。
そのときだった。
「はぁ~、はっ、はっは~、真打、登場っ!」
おっさんの、笑い声と、宣言だった。
レックたちの目の前で、なにかが光り輝いた。やや距離があるものの、声の主は、ジャンプで、こちらへとやってきた。
マントをなびかせて、ゲームに登場しそうな、勇者様スタイルだ。
かなりの力を持つ人物らしい、そういえば、ダンジョンの町から魔王の封印された神殿への移動は、転送魔法だったと思い出す。
エルフちゃんが、見上げていた。
「青の鎧に、氷の剣………あぁ、こっちに来たんだ――」
お知り合いのようだ。
説明してほしかったレックだが、その必要はない。鎧のおっさんには、マントをばさ――と、ひらひらとさせて、自己紹介を始めた。
「待たせたな、月夜の勇者エリック、氷の魔剣を手に、ただいま登場!」
新たな勇者(笑)が現れた。かつて勇者(笑)と呼ばれ、永遠に勇者(笑)だと言うおっさんである。
ぬ~――と、グレート様の手のひらが、現れた。
「もう、だれでもいいにゃ~っ」
ラウネーラちゃんに、捕獲された。
金髪のツインテールちゃんは、レックを羽交い絞めにしたままだった。だが、ちょうど目の前に飛び降りた勇者(笑)様がいるのだ、捕まえない手はない。
名乗りも早々に、『月夜の勇者エリック』は、捕らえられた。何か、叫び声が聞こえたが、気にする人間は、ここにはいない。
『月夜の勇者エリック』は、光になった。




