空中要塞、登場
金髪のツインテールちゃんが、ご機嫌斜めだ。
「もぉ~、一人で目立っちゃってぇ~」
見せ場を奪われて、ご機嫌斜めだ。
ルーン文字の輝きで、クリスタルの輝きで、テクニカルがハデに変身したアーマー戦士である。日本人の転生者がもたらした、とっても有名な美少女戦士の伝聞を、この世界で再現したお姿である。
ロボが登場すると、すっかり、見せ場が奪われてしまうわけだ。その理由は、もちろん、サイズも影響する。
「5メートルを超えてるからな………並みのボスクラスか………」
「武器とか変身とかしてても、まぁ、目立つ登場って意味ではなぁ~、オレの相棒よりも、目立っちゃってまぁ~」
おっさんたちが、腕を組んで見上げていた。
テクノ師団の隊長のおっさんと、馬のおっさんも相棒を隣に、見上げていた。
ちょっとは戦ってほしいと思うレックだが、実況席をちらりと見て、ツッコミは意味を持たないと思い返した。
ここは、異世界なのだ。
そして、レックはあくまでこの世界で生まれ育った村人に過ぎない。転生者として、日本人の記憶が混じってしまったが、ついでに、魔力が桁違いに上がってしまったが、心は底辺冒険者の15歳の少年である。
必死に、ゴマをすった。
「いやぁ~、さすがはラウネーラの姉さんでやんすねぇ~、スーパー・ロボットの登場を、お待ちしてやした」
小物パワーと下っ端パワーがタッグを組んで、フルパワーだ。
たのんます、この勢いで魔王のお人を倒してください――という願いを込めて、命がけでゴマをすっていた。
本当に、命がけなのだ。
さもなければ、またもや、魔王のお人へと向けて、ぽ~ん――と、ボールのごとく、投げ飛ばされてしまうのだ。
どんな笑いを取ってくれるのか、それが、勇者(笑)の役割なのだから。
敗北のオッズが1.1倍の、勇者(笑)なのだ。
「………うん、うん――待ってたにゃ~――」
ラウネーラちゃんが、どこかとお話をしていた。
どこから取り出したのか、ケータイを手にしていた。異世界ファンタジーを台無しにするアイテムだが、ここでの普及率は、高そうだ。
立体映像に、色々とアイコンが浮かんでいる、ややSFなケータイだった。
「あぁ、完成してたのね――」
つまらなそうにしていたコハル姉さんが、空を見上げていた。
レックも、つられて見上げる。今度は何者だろうかと――
レックは、目を見開いた。
「………空中要塞?」
空中要塞だった。
気付かなかったのが不思議な、空を飛ぶ研究所が、近づいてきた。
サイズはまだ不明だが、30メートルを超えるワイバーンのピーちゃんですら、遠くから飛んでくる姿を見ただけでは、可愛い小鳥さんであろう。空飛ぶ研究所が、幅だけで100メートルを超えるサイズか、あるいは半分でも、巨大には違いない。
エルフの国から、はるばるご苦労様である。
「はっ、はっ、はっ――またせたなぁ、クライマックスシーンには、やっぱ、空中要塞じゃあああああっ」
ジジイが、叫んでいた。
空を覆いつくすまでに接近した空中要塞から、拡声器で、ノリノリだった。懐かしい、エルフの国で隠居生活の博士のジジイが、ご機嫌だった。
ヤシの木が、シルエットとして認識される程度には接近している。まだ上空に遠いが、間違いなく、ラウネーラちゃんのスーパー・ロボットを収容し、サポートメカやそのほか、居住空間なども完備のはずだ。
神殿のジジイが、悔しそうに見上げていた。
「ちっ、あのジジイ、まだくたばっていなかったか――」
何か、あるようだ。
気にしないエルフちゃんは、叫んだ。
「それじゃぁ、いくにゃぁああっ」
ラウネーラちゃんが、ロボに乗り込んだ。
そう、5メートルを超える、角やトゲがカッコイイスーパー・ロボットで、終わりではないのだ。お約束の、合体が待っているのだ。
空へと、飛び上がった。
「みんなの気持ちを、ひとつにっ!」
叫んでいた。
みんなって、誰だ――
レックは心で叫んだ。前世の浪人生は、涙をぽろぽろと流しながら、天空を見上げていた。
コンドルタイプ、狼タイプ、モグラタイプと、様々なパーツメカたちが、大空へと飛び立っていた。
秘密基地からのサポートメカたちの発進シーンを見せるために、そのためだけに、空中要塞が訪れたようだ。
エルフの国では、エルフたちが熱狂しているだろう。カメラ・ボールたちの目線も、釘付けだ。王城では、若き王子様が、大はしゃぎに違いない。父親の王様も、父息子そろって、パイロットスーツの王族なのだ。
レックの目から、涙が零れ落ちて、止まらない。
「日本人め………ちきしょう、いい仕事しやがって――」
コンドルタイプ、狼タイプ、モグラタイプと、様々なパーツメカたちが変形し、腕に、足になり、合体していく。
10メートルを超えたサイズの、スーパー・ロボットの完成だ。
ノリノリの美少女パイロットの声が、空にとどろく。
「グレート・ラウネーラ、参上っ」
翼を広げ、宣言した。
さらに――
「新装備、いくぞっ――」
「おうっ――」
空中要塞から、さらに“何か”が飛び出した。
空中で分解したことから、ご丁寧に、カタパルトの演出もあったようだ。残念ながら、レックからは見えなかった。角度が悪かったのだろう、残念なことだ。
カプセルだったのかもしれない、環境破壊にならなければいいな――と、レックは思いつつ、見つめていた。
お約束の、強化パーツの追加だった。
「あれは、必殺の武器――」
空中で受け取るのが、お約束だ。
両腕をまっすぐと伸ばした飛行形態で、空中のドッキングシーンである。見物客達は、ただただ、見つめていた。
「ジャベリンかな、あれ………」
「レックがジャベリンしてたからな、オレ、いやな予感がする」
「おれっちも同感だぜ。あの変態だから――」
「あたしは、結構好きだけど――」
「うちも………あぁ、降りてきた――」
アーマー・5の姉さん達が見守る中、装備を新たにしたグレート・ラウネーラが降りてきた。
巨大なツバサの、巨大なスーパー・ロボットの、降臨だ。
レックは、振り向いた。
「へへへ………あちらさんも、お待ち金だったようで――」
ずしん、ずしん――と、巨大な足音が、近づいてきた。
魔王様が、近づく音だった。




