最後の、神殿メンバー
レックは、腰を抜かしていた。ちょうど、土下座スタイルにうなだれていたところに、爆発だったのだ。
アワアワと、目の前の光景を見つめていた。
「ば、番長様?」
ジジイなのに、なぜ、マッチョなのだろう。だが、レックが驚いたのは、それだけではない、服装も、あとずさって仕方ないスタイルだった。
ケンカ上等――という、刺繍が見えた。『ケンカ上等』と、コートの背中に刺繍されていたのだ。
ケンカ番長スタイルと言ったほうが、日本人には通じるだろう。ムキムキの半裸に、ボロボロの上着で、下半身の半ズボンらしきものもボロボロで、紺色の学生服にも見える。
『ケンカ番長』――と、レックが思い至った理由はもう一つ、ゲタだった。
カラン、コロン――と、足音が聞こえてきそうだ。
あるいは、断末魔かもしれない。周囲は、すでにボスクラスのモンスターに囲まれているのだ。
レックが『ケンカ番長』の姿を認識できるのは、望遠鏡のように、視力を強化できるからだ。
ボスに囲まれている姿も、よく見えるのだが………
「あぁ~、ビルくん、ここにいたんだっけ?」
「ボク、知らなかったにゃ~」
「ヨシオの兄貴、教えてなかったんッスか?」
「普段から閉じこもってて………忘れてました」
「おいおい、メイドがそれでいいのかよ」
「エセメイドですから」
「………だったな、本業は――」
「あっ、来た――」
「にゃ~――」
地響きが、鳴り響いた。
エルフちゃんたちに、タツヒコの兄貴をはじめとした神殿メンバーが話していると、突如として、地響きが、響いた。
ボスのモンスターたちが、吹き飛んでいた。
「………ジャベリン?」
レックは、なんなの?――と、唖然とした。
『ケンカ番長』というジジイの登場は、即座にピンチの、ボスクラスに囲まれた状況であった。
現場が、土ぼこりをあげていた。先ほどの爆発も、おそらくはジジイの魔法によるものと、当たりをつけていた。封印の神殿へ入るには、試練の門をくぐる必要がある。上級魔法を扱う程度の力が、必要なはずだ。
巨大なトゲトゲが、トゲトゲと地面から突き出ていた。
レックが、ジャベリンだと思ったように、とっても鋭いトゲトゲが、しかも、山のように生えていたのだ。
サイズは、巨大だった。
「違う、まるで――」
「魔王の城みたい………でしょ?」
「オレも見るのは初めてだけど………神殿の設計メンバーだってよ?」
レックのつぶやきに、エセメイドのヨシオ兄さんと、続いて、タツヒコの兄貴が答えてくれた。どこかで見た、トゲトゲ屋根の出所だ。
こんな辺境で、どのように巨大な城を造ったのか、ちょっと不思議だったレックの疑問は、解消された。
金、かけてるな~――と、思っていたが………
「手作りッスか」
転生者?の手によるものと思っていたが、本当に、手作りのようだ。
マッチョなジジイが、降ってきた。
「ふぅ~、死ぬかと思ったぜ」
腕を組んで、余裕だった。
地面から爆発的にジャベリンの群れが生じた、その爆発を利用して、ジャンプしていたようだ。
ほとんど振動もなく、ゲタであるのに、さすがである。レックたちの前へと、降り立った。
かすり傷一つ、負った気配はない。身の丈は、魔女っ子マッチョに匹敵する巨体である。ばさばさと、学らんが風に揺れていた。
巨大な馬が、近づいててきた。
「はっ、ビルタークが、あの程度で死ぬわけないだろうが?」
「城壁バリア――だっけか、おやっさんの能力」
「ゴルックにベルバートじゃねぇか………って、そうか、コイツが新たな――」
おっさんたちは、しみじみとしている。
その目線は、新たなる勇者(笑)である、レックへと向けられた。先人達を前に、新入りの転生者であるレックは、ご挨拶をすべきだろう。
レックはそう思いつつ、恐る恐ると手を上げた。
「城壁バリア?」
レックの疑問に答えたのは、エルフちゃんたちだ。
「そうなの、コイツ、攻撃力を持ってないくせに、バカみたいにでっかい城壁を生み出して、結局はモンスターを討伐するって、わけの分からない勇者(笑)だったのよ~」
「突然、でっかい壁が現れるんだにゃ~、その衝撃だけで、大抵のモンスターは、倒せてしまうんだにゃ~」
エルフちゃんたちは、楽しそうだ。
普通はできない発想を、普通ではない魔力量で成し遂げた、まさに勇者(笑)らしい能力ということだ。
70に達しているだろう勇者(笑)も、コイツ呼ばわりと言うことは、長い付き合いを物語る。見た目にだまされてはいけないと、時々思い出させてくれるエルフである。
「おぉ、コハルちゃんにラウネーラ………ちょっと、背が伸びたのか?」
懐かしそうだ。
そして、50年はお付き合いがあるだろうエルフちゃんたちである。それだけの年月があれば、少しは変化があるようだ。
「さて、ワシの見せ場は残ってるようだな。敬老精神をわかっておるの、結構、結構、コケコッコウ」
「………ちょうど、撮影も始まったところです。魔王様は、ちょっと吹き飛ばしちゃいましたけど」
「うむ、それがお前の役割だからな」
「えらそうですね」
「そりゃ、ワシが責任者だからな」
「だったら、普段からもっと――」
「おっと、あふれ出しがあるのだったな。まて、せっかくのギミックが――」
コントローラーが、現れた。
スティックに十字キーに、ただし、巨大だ。ゲームセンターで見る以外に、ご家庭でお持ちのゲーマーは、どれほどいるだろうか。
ここに、いたようだ。
「いでよ、わがゴーレム軍団っ」
瓦礫が、動き出した。
すでに、廃墟と化していたが、瓦礫が勝手に動き出し、体を構成し始めている。チカチカと、クリスタルらしき輝きも見えたので、コアさえ無事なら復活と言うことらしい。
敵対すれば、なんとも恐ろしい技術であろう。ゴーレム軍団が、現れた。




